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第1話 告白は命がけ
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チャイムが鳴った瞬間、視界が白くなった。
「朝比奈、大丈夫か?」
誰かの声が遠い。机の木目がやけに鮮明に見える。次の瞬間、床が近づいた。
──心臓が、遅い。
鼓動が一拍ごとに重く、間隔が空く。呼吸が浅くなる。冷たい汗が首筋を流れた。
「先生! 朝比奈が!」
教室が騒がしくなる。誰かに肩を揺さぶられ、意識が浮上しかけるが、すぐに沈む。
*
目を開けると、白い天井だった。
消毒液の匂い。カーテン越しの西日。ここは保健室だ。
「気がついた?」
保健の先生が血圧計を外す。
「……また、ですか」
「また、ね。最近多いわよ」
また。三度目だ。理由は分からない。体育でもない、緊張もしていない、ただ座っていただけだ。
胸に手を当てる。鼓動はゆっくりだが、戻っている。
「念のため、病院行きなさい」
軽い口調だったが、目は笑っていなかった。
*
その日の夕方。
病院の待合室は静かだった。壁の時計の音がやけに響く。
「朝比奈湊さん」
呼ばれて立ち上がる。診察室に入ると、白衣の男がカルテをめくっていた。
「心電図は異常なし。血液も正常。だが」
医師、鷹宮は眼鏡の奥でこちらを見る。
「心拍数が極端に低下している時間帯がある」
「……それが?」
「このままだと、危険だ」
言葉は静かだった。
「原因は?」
「まだ断定はできない。ただ──」
彼は一度言葉を切った。
「心因性の可能性が高い」
「ストレス、ですか?」
「単純なものではない。君は最近、強い感情の起伏が少ないだろう」
思い当たる節はあった。毎日同じだ。部活もしていない。帰ってゲームをして寝るだけ。
「仮説だが、君の身体は“刺激”を求めている」
「刺激?」
「強い感情だ。恐怖でも怒りでもいいが……理想は恋愛感情だな」
「は?」
思わず声が出た。
「恋をしなさい。心拍数が上がる状態を意図的に作るんだ」
「冗談ですよね」
「冗談で診断はしない」
淡々としている。
「放置すれば、次は意識だけでは済まない可能性がある」
部屋の空気が重くなる。
「恋、って……好きな人いませんけど」
「なら作れ。告白でも何でもいい。とにかく心拍を上げろ」
無茶だ。
だが、机に置かれた心電図の波形が現実だった。平坦に近い線。
「……どれくらい猶予がありますか」
「三ヶ月。改善が見られなければ精密検査だ」
三ヶ月。
期間が数字になると、急に現実味を帯びる。
*
病院を出ると、空は赤かった。
心臓は、普通に打っている。
だが、いつまた止まるか分からない。
「恋をしろ、か……」
スマホを取り出す。連絡先一覧。女子の名前は数えるほどしかない。しかも、ほとんどクラス連絡用だ。
帰り道、前を歩くカップルが笑っている。手をつなぎ、くだらないことで盛り上がっている。
あれを、やれと?
命のために?
胸に手を当てる。
どくん、と一拍。
遅い。
その夜、ベッドに横になっても眠れなかった。
三ヶ月。九十日。
心拍数を上げなければ、終わる。
「……告白、するしかないのか」
誰に。
思考がぐるぐる回る。
ふと、クラスで一人だけ、やけに冷静な女子の顔が浮かんだ。いつも本を読んでいて、感情の起伏が少ない。
一ノ瀬理央。
恋愛なんて無駄だ、とこの前ホームルームで言い切った女子。
「……いや、あいつは無理だろ」
だが、なぜかその顔が頭から離れない。
静かな瞳。
理屈で切り捨てる声。
あいつを驚かせたら、心拍は上がるだろうか。
翌朝。
教室のドアを開けた瞬間、鼓動が一拍強くなる。
いる。
窓際の席で本を読んでいる。
深呼吸を一つ。
命のためだ。
俺は一歩踏み出した。
「一ノ瀬」
彼女が顔を上げる。
「何?」
感情のない声。
心臓が跳ねる。
どくん。
どくん。
「俺と、付き合ってくれ」
教室の空気が止まった。
そして、彼女は一秒の間も置かずに言った。
「合理的な理由を三つ述べて」
鼓動が、さらに跳ね上がった。
「朝比奈、大丈夫か?」
誰かの声が遠い。机の木目がやけに鮮明に見える。次の瞬間、床が近づいた。
──心臓が、遅い。
鼓動が一拍ごとに重く、間隔が空く。呼吸が浅くなる。冷たい汗が首筋を流れた。
「先生! 朝比奈が!」
教室が騒がしくなる。誰かに肩を揺さぶられ、意識が浮上しかけるが、すぐに沈む。
*
目を開けると、白い天井だった。
消毒液の匂い。カーテン越しの西日。ここは保健室だ。
「気がついた?」
保健の先生が血圧計を外す。
「……また、ですか」
「また、ね。最近多いわよ」
また。三度目だ。理由は分からない。体育でもない、緊張もしていない、ただ座っていただけだ。
胸に手を当てる。鼓動はゆっくりだが、戻っている。
「念のため、病院行きなさい」
軽い口調だったが、目は笑っていなかった。
*
その日の夕方。
病院の待合室は静かだった。壁の時計の音がやけに響く。
「朝比奈湊さん」
呼ばれて立ち上がる。診察室に入ると、白衣の男がカルテをめくっていた。
「心電図は異常なし。血液も正常。だが」
医師、鷹宮は眼鏡の奥でこちらを見る。
「心拍数が極端に低下している時間帯がある」
「……それが?」
「このままだと、危険だ」
言葉は静かだった。
「原因は?」
「まだ断定はできない。ただ──」
彼は一度言葉を切った。
「心因性の可能性が高い」
「ストレス、ですか?」
「単純なものではない。君は最近、強い感情の起伏が少ないだろう」
思い当たる節はあった。毎日同じだ。部活もしていない。帰ってゲームをして寝るだけ。
「仮説だが、君の身体は“刺激”を求めている」
「刺激?」
「強い感情だ。恐怖でも怒りでもいいが……理想は恋愛感情だな」
「は?」
思わず声が出た。
「恋をしなさい。心拍数が上がる状態を意図的に作るんだ」
「冗談ですよね」
「冗談で診断はしない」
淡々としている。
「放置すれば、次は意識だけでは済まない可能性がある」
部屋の空気が重くなる。
「恋、って……好きな人いませんけど」
「なら作れ。告白でも何でもいい。とにかく心拍を上げろ」
無茶だ。
だが、机に置かれた心電図の波形が現実だった。平坦に近い線。
「……どれくらい猶予がありますか」
「三ヶ月。改善が見られなければ精密検査だ」
三ヶ月。
期間が数字になると、急に現実味を帯びる。
*
病院を出ると、空は赤かった。
心臓は、普通に打っている。
だが、いつまた止まるか分からない。
「恋をしろ、か……」
スマホを取り出す。連絡先一覧。女子の名前は数えるほどしかない。しかも、ほとんどクラス連絡用だ。
帰り道、前を歩くカップルが笑っている。手をつなぎ、くだらないことで盛り上がっている。
あれを、やれと?
命のために?
胸に手を当てる。
どくん、と一拍。
遅い。
その夜、ベッドに横になっても眠れなかった。
三ヶ月。九十日。
心拍数を上げなければ、終わる。
「……告白、するしかないのか」
誰に。
思考がぐるぐる回る。
ふと、クラスで一人だけ、やけに冷静な女子の顔が浮かんだ。いつも本を読んでいて、感情の起伏が少ない。
一ノ瀬理央。
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「……いや、あいつは無理だろ」
だが、なぜかその顔が頭から離れない。
静かな瞳。
理屈で切り捨てる声。
あいつを驚かせたら、心拍は上がるだろうか。
翌朝。
教室のドアを開けた瞬間、鼓動が一拍強くなる。
いる。
窓際の席で本を読んでいる。
深呼吸を一つ。
命のためだ。
俺は一歩踏み出した。
「一ノ瀬」
彼女が顔を上げる。
「何?」
感情のない声。
心臓が跳ねる。
どくん。
どくん。
「俺と、付き合ってくれ」
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そして、彼女は一秒の間も置かずに言った。
「合理的な理由を三つ述べて」
鼓動が、さらに跳ね上がった。
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