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第77話:ピーターの法則(無能の証明)
「……それで? あなた方は『自分たちには責任がない』と仰るのですか?」
王城の大会議室。
かつて国王が座っていた上座には、今はマックス様が腕組みをして座り、その隣に私が立っています。
目の前に並んでいるのは、宰相をはじめとする旧体制の大臣や高官たちです。
彼らは王家が没落した途端、掌を返したように新摂政(マックス様)にすり寄り、保身を図ろうとしていました。
「もちろんですとも! 我々は、愚かな国王と王太子に無理やり従わされていただけの被害者です!」
「そうです! 国を動かしてきたのは我々官僚です。我々がいなければ、明日の行政も滞りましょう」
宰相が脂ぎった顔で揉み手をします。
彼らの主張はこうです。
「王は変わっても、実務を知る我々は不可欠だ。だから地位と給料を保証しろ」
「……なるほど。実務、ですか」
私は手元にある、彼らの人事評価ファイルをパラパラとめくりました。
「マックス様。組織論におけるピーターの法則をご存知ですか?」
「いや。……どんな法則だ?」
「能力主義の階層社会において、人間は能力の極限(無能になるレベル)まで出世する。その結果、高位のポストは職務を果たせない無能者で埋め尽くされる、という法則です」
私は大臣たちを見回しました。
「例えば、現場で優秀だった役人が出世して管理職になると、現場のスキルは役に立たず、管理能力の無さを露呈する。……しかし、一度上がった地位からは降格されないため、組織の上層部ほど無能な人々が滞留することになるのです」
「なっ……! 無能だと!? 我々は長年、国の中枢を担ってきたのだぞ!」
財務大臣が顔を真っ赤にして反論します。
「では、テストをしましょう」
私は一枚の書類――王都の道路補修計画書をテーブルに滑らせました。
「これは、私が作成した復興計画の一部です。……財務大臣。この予算配分を見て、問題点を三秒以内に指摘してください」
「えっ? さ、三秒? ……ええと、その、予算が……、多い? 少ない?」
財務大臣は書類に目を泳がせ、しどろもどろになりました。
数字の羅列を見ただけで、内容を把握できていないのが丸わかりです。
「時間切れです。……正解は、単位の桁が間違っている、でした。わざと二桁ずらしておきましたが、気づきもしませんでしたね?」
「そ、それは……、細かい数字は部下に任せているから……」
「部下に丸投げして、チェックもできない。……それを無能と呼びます」
次は、建設大臣の方を向きました。
「建設大臣。現在、王都で不足しているセメントの在庫数と、来月の必要量を即答できますか?」
「えっ……、た、たくさん必要です!」
「……子供の回答ですね。具体的な数字(データ)を持たない人間に、物流の指揮は任せられません」
私は次々と大臣たちに質問を浴びせました。
法務大臣には法律の条文を。
農務大臣には今年の小麦の収穫予想を。
誰一人として、まともな答えを返せた者はいませんでした。
彼らは長年、王のご機嫌取りと責任逃れのスキルだけを磨き、実務能力を完全に喪失していたのです。
「証明終了ですわ」
私はファイルを閉じ、マックス様に頷きました。
「彼らは現在の地位に見合う能力を持っていません。ピーターの法則通り、組織のになっています」
「……わかった」
マックス様が立ち上がりました。
その威圧感に、大臣たちが震え上がります。
「旧体制の役人は、全員解雇だ」
「な、なんだとぉぉぉ!? そんなことをすれば国が回らなくなるぞ!」
「誰が実務をやるんだ!」
「心配無用だ。……優秀な部下たちがいるだろう?」
マックス様が合図をすると、会議室の扉が開き、若い官僚や、現場で働いていた実務担当者たちが入ってきました。
彼らは皆、上司の無茶振りに耐え、裏で必死に国を支えてきた人々です。
「君たちには、今日から大臣代行を任せる。……給料は二倍だ。文句はないな?」
「は、はいっ! 喜んで!」
「やっと……、やっとまともな指示が出せる!」
若い官僚たちの目が輝きました。
上(蓋)がなくなれば、下の有能な人材が伸びる。
組織の新陳代謝(メタボリズム)です。
「そ、そんな……。我々の退職金は!? 年金は!?」
縋り付く元・宰相に、私は冷酷に告げました。
「ありませんよ。……あなた方が裏で承認していた王家の横領の補填に充てられましたから」
「ひぃぃぃっ!」
「どうぞ、スラム街へ。……元王族の方々が、寂しがっておいでですよ」
衛兵に引きずり出されていく元大臣たちの絶叫が、廊下に消えていきました。
これで、王城の空気も完全に入れ替わりました。
「……せいせいしたな」
マックス様が、空になった上座の椅子を見つめました。
「ああ。だが、これからが大変だぞ。……俺たちは、素人の寄せ集めで国を運営しなきゃならん」
「いいえ。素人ではありません」
私は新しいスタッフたちを見渡しました。
「彼らは実務のプロです。そして私たちには、科学と論理という設計図があります。……権威だけでふんぞり返っていたプロよりも、よほど良い仕事ができますわ」
こうして、王国の行政機構は完全リセットされました。
無能な上層部が消え、風通しの良くなった新政府。
その効率的な働きぶりは、復興のスピードを劇的に加速させることになります。
さあ、邪魔者は誰もいなくなりました。
ここからは、私が描く理想の国家を、ノンストップで建設する時間です。
王城の大会議室。
かつて国王が座っていた上座には、今はマックス様が腕組みをして座り、その隣に私が立っています。
目の前に並んでいるのは、宰相をはじめとする旧体制の大臣や高官たちです。
彼らは王家が没落した途端、掌を返したように新摂政(マックス様)にすり寄り、保身を図ろうとしていました。
「もちろんですとも! 我々は、愚かな国王と王太子に無理やり従わされていただけの被害者です!」
「そうです! 国を動かしてきたのは我々官僚です。我々がいなければ、明日の行政も滞りましょう」
宰相が脂ぎった顔で揉み手をします。
彼らの主張はこうです。
「王は変わっても、実務を知る我々は不可欠だ。だから地位と給料を保証しろ」
「……なるほど。実務、ですか」
私は手元にある、彼らの人事評価ファイルをパラパラとめくりました。
「マックス様。組織論におけるピーターの法則をご存知ですか?」
「いや。……どんな法則だ?」
「能力主義の階層社会において、人間は能力の極限(無能になるレベル)まで出世する。その結果、高位のポストは職務を果たせない無能者で埋め尽くされる、という法則です」
私は大臣たちを見回しました。
「例えば、現場で優秀だった役人が出世して管理職になると、現場のスキルは役に立たず、管理能力の無さを露呈する。……しかし、一度上がった地位からは降格されないため、組織の上層部ほど無能な人々が滞留することになるのです」
「なっ……! 無能だと!? 我々は長年、国の中枢を担ってきたのだぞ!」
財務大臣が顔を真っ赤にして反論します。
「では、テストをしましょう」
私は一枚の書類――王都の道路補修計画書をテーブルに滑らせました。
「これは、私が作成した復興計画の一部です。……財務大臣。この予算配分を見て、問題点を三秒以内に指摘してください」
「えっ? さ、三秒? ……ええと、その、予算が……、多い? 少ない?」
財務大臣は書類に目を泳がせ、しどろもどろになりました。
数字の羅列を見ただけで、内容を把握できていないのが丸わかりです。
「時間切れです。……正解は、単位の桁が間違っている、でした。わざと二桁ずらしておきましたが、気づきもしませんでしたね?」
「そ、それは……、細かい数字は部下に任せているから……」
「部下に丸投げして、チェックもできない。……それを無能と呼びます」
次は、建設大臣の方を向きました。
「建設大臣。現在、王都で不足しているセメントの在庫数と、来月の必要量を即答できますか?」
「えっ……、た、たくさん必要です!」
「……子供の回答ですね。具体的な数字(データ)を持たない人間に、物流の指揮は任せられません」
私は次々と大臣たちに質問を浴びせました。
法務大臣には法律の条文を。
農務大臣には今年の小麦の収穫予想を。
誰一人として、まともな答えを返せた者はいませんでした。
彼らは長年、王のご機嫌取りと責任逃れのスキルだけを磨き、実務能力を完全に喪失していたのです。
「証明終了ですわ」
私はファイルを閉じ、マックス様に頷きました。
「彼らは現在の地位に見合う能力を持っていません。ピーターの法則通り、組織のになっています」
「……わかった」
マックス様が立ち上がりました。
その威圧感に、大臣たちが震え上がります。
「旧体制の役人は、全員解雇だ」
「な、なんだとぉぉぉ!? そんなことをすれば国が回らなくなるぞ!」
「誰が実務をやるんだ!」
「心配無用だ。……優秀な部下たちがいるだろう?」
マックス様が合図をすると、会議室の扉が開き、若い官僚や、現場で働いていた実務担当者たちが入ってきました。
彼らは皆、上司の無茶振りに耐え、裏で必死に国を支えてきた人々です。
「君たちには、今日から大臣代行を任せる。……給料は二倍だ。文句はないな?」
「は、はいっ! 喜んで!」
「やっと……、やっとまともな指示が出せる!」
若い官僚たちの目が輝きました。
上(蓋)がなくなれば、下の有能な人材が伸びる。
組織の新陳代謝(メタボリズム)です。
「そ、そんな……。我々の退職金は!? 年金は!?」
縋り付く元・宰相に、私は冷酷に告げました。
「ありませんよ。……あなた方が裏で承認していた王家の横領の補填に充てられましたから」
「ひぃぃぃっ!」
「どうぞ、スラム街へ。……元王族の方々が、寂しがっておいでですよ」
衛兵に引きずり出されていく元大臣たちの絶叫が、廊下に消えていきました。
これで、王城の空気も完全に入れ替わりました。
「……せいせいしたな」
マックス様が、空になった上座の椅子を見つめました。
「ああ。だが、これからが大変だぞ。……俺たちは、素人の寄せ集めで国を運営しなきゃならん」
「いいえ。素人ではありません」
私は新しいスタッフたちを見渡しました。
「彼らは実務のプロです。そして私たちには、科学と論理という設計図があります。……権威だけでふんぞり返っていたプロよりも、よほど良い仕事ができますわ」
こうして、王国の行政機構は完全リセットされました。
無能な上層部が消え、風通しの良くなった新政府。
その効率的な働きぶりは、復興のスピードを劇的に加速させることになります。
さあ、邪魔者は誰もいなくなりました。
ここからは、私が描く理想の国家を、ノンストップで建設する時間です。
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