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(※ジャック視点)
「実は君は……」
先生が何と言うのか、僕は息を呑んで待った。
不安がまったくなかったといえば嘘になるが、それ以上に知りたい気持ちの方が強かった。
「心臓病を患っているんだ。残念ながら、治る見込みはない。……余命はあと、半年だ」
先生は、静かにそう語った。
「え……」
それ以上、僕は言葉が出てこなかった。
どんなことを聞かされても取り乱さないように覚悟していた。
しかし、さすがにショックが大きく、僕の中は悲しみで溢れていた。
ベラの泣き声が、部屋の中に響いている。
彼女はこの事を僕に悟られないように、隠していたのだ。
今ならわかる……。
今朝、彼女との会話で感じた違和感の正体が……。
彼女は、少しでも愛する人と一緒にいたいと思うのは当然だと言った。
それは、単に好きな人と一緒にいたいという意味に、普通ならとらえるだろう。
しかし、彼女はそのあと僕から顔をそらした。
あの言葉は、僕の余命が残りわずかだという意味にも捉えられる。
彼女が顔をそらしたのは、寝起きの顔を見られたくないからだと思ったが、そうではなかった。
あれは、失言して焦っている表情を見られないように、顔をそらしたのだ。
寝起きで頭が回っていなかったせいで、うっかり失言をしてしまったのだろう。
「僕の余命が、あと半年……」
気づけば僕は呟いていた。
そうか……、絶望というのは、こういうことなのだな……。
僕はその事を、最悪の形で実感していた。
「退院は、今日からでも構わない。君の好きにするといい。もちろん、また胸が苦しくなったらうちへ来ること。まあ、発作が起こるタイミングは予想できないから、一人きりで行動しないことくらいが、注意点かな。日常生活は、普通に送れるはずだ。もちろん、少しでも違和感を感じたら、すぐにうちへ来なさい。……残りの余生、どう過ごすかは、奥さんと相談するといい」
先生はそう言うと、部屋から出ていった。
僕はベラの方を向いた。
彼女はまだ、泣き止んでいない。
「こんな辛い隠し事をさせるなんて、僕はまた、知らないうちに君に苦労をかけていたみたいだね」
僕はベラを抱き寄せ、うつむいた彼女の頭を撫でながらそう言った。
「……いいえ、あなたは、なにも悪くないわ。まさか、こんなことになるなんて……」
「……しかたがないさ。嘆いたところで、病気が治るわけでもない。それよりも、今後のことについて話し合おう」
僕は強がってそう言ったが、内心ではまだ、突然訪れた不幸を受け入れられずにいた。
しかし、それを表に出してしまっては、ベラはさらに暗くなってしまうだろう。
そんなことになれば、これからの残りわずかな余生が台無しになってしまう。
「これからは、あなたのやりたいことを、たくさんしましょう。私が力になるから、どんなことでも言ってね」
ベラは笑顔を向けてそう言った。
まだ涙のあとは残っているが、いつまでも泣いていられないと思ったのだろう。
「ああ、二人で最高の毎日を送ろう。残り時間なんて気にしている暇もないくらい、今を全力で楽しむんだ」
「ええ、そうね。最高の思い出を作りましょう」
ベラは満面の笑みを浮かべていた。
僕もそんな彼女を見て、自然と笑顔になっていた。
「ところで、君はずっと夜通しで僕のそばにいてくれたのだろう? シャワーでも浴びてスッキリして、食事もしてくるといい。僕はその間に、退院のための身支度を済ませておくよ」
「ええ、そうね。そうさせてもらうわ。それじゃあ、またあとで。少しでも具合が悪くなったら、すぐに看護師さんを呼ぶのよ」
ベラは部屋から出て行きながらそう言った。
「ああ、わかっているよ」
そんな彼女を笑顔で見送りながら、僕は言った。
ベラがいなくなって、急に部屋の中が静かに感じた。
気づけば僕は、嗚咽しながら大粒の涙を流していた。
まさか、こんなことになるなんて……。
せっかく試練を乗り越えて、今まで以上に二人の愛は深まったのに……。
これからは、さらに充実した幸せな日々を送れると思っていたのに……。
こんな悲しい気持ちは、生まれて初めてだった。
しかし、悲しんでばかりもいられない……。
僕には、ベラがいる。
残りの人生は、彼女と精一杯楽しんで、幸せを謳歌したい。
そして、僕がこの世からいなくなったあとも、彼女には苦労もなく、楽しい日々を送ってほしい。
そのために、僕にできることはなんだろう……。
身支度をしながら、僕は今後のことについて色々と考えていた。
*
「それはね……、ジャックが余命宣告されるというものだ」
ジャックたちにどんな不幸が訪れるのかと尋ねた私に、シャーディー様はそう答えた。
「余命宣告、ですか……」
「ああ、残り半年だ。その事を知ったジャックとベラは、大きく絶望する」
「それが、彼らに訪れる不幸なのですね……」
ジャックが余命半年だと聞いても、私は悲しいとは思わなかった。
ただ、それが彼の運命だったのだなと受け入れていた。
「まあ、確かに二人は、突然訪れた不幸に大きく絶望するけれど、それでも、そこから希望を見出だそうとするんだ。ベラのことを思うジャックが、とんでもない計画を企てることになる」
「とんでもない計画、ですか……。それはいったい、どのようなものなのですか?」
私はシャーディー様に尋ねた。
すると彼は、遠くない未来にジャックが企てることになる計画の内容を教えてくれた。
「え……、そんな、まさか……」
それを聞いた私は驚愕した。
彼の計画は、その内容を聞いてもあり得ないと思うほど、信じられないものだった……。
「実は君は……」
先生が何と言うのか、僕は息を呑んで待った。
不安がまったくなかったといえば嘘になるが、それ以上に知りたい気持ちの方が強かった。
「心臓病を患っているんだ。残念ながら、治る見込みはない。……余命はあと、半年だ」
先生は、静かにそう語った。
「え……」
それ以上、僕は言葉が出てこなかった。
どんなことを聞かされても取り乱さないように覚悟していた。
しかし、さすがにショックが大きく、僕の中は悲しみで溢れていた。
ベラの泣き声が、部屋の中に響いている。
彼女はこの事を僕に悟られないように、隠していたのだ。
今ならわかる……。
今朝、彼女との会話で感じた違和感の正体が……。
彼女は、少しでも愛する人と一緒にいたいと思うのは当然だと言った。
それは、単に好きな人と一緒にいたいという意味に、普通ならとらえるだろう。
しかし、彼女はそのあと僕から顔をそらした。
あの言葉は、僕の余命が残りわずかだという意味にも捉えられる。
彼女が顔をそらしたのは、寝起きの顔を見られたくないからだと思ったが、そうではなかった。
あれは、失言して焦っている表情を見られないように、顔をそらしたのだ。
寝起きで頭が回っていなかったせいで、うっかり失言をしてしまったのだろう。
「僕の余命が、あと半年……」
気づけば僕は呟いていた。
そうか……、絶望というのは、こういうことなのだな……。
僕はその事を、最悪の形で実感していた。
「退院は、今日からでも構わない。君の好きにするといい。もちろん、また胸が苦しくなったらうちへ来ること。まあ、発作が起こるタイミングは予想できないから、一人きりで行動しないことくらいが、注意点かな。日常生活は、普通に送れるはずだ。もちろん、少しでも違和感を感じたら、すぐにうちへ来なさい。……残りの余生、どう過ごすかは、奥さんと相談するといい」
先生はそう言うと、部屋から出ていった。
僕はベラの方を向いた。
彼女はまだ、泣き止んでいない。
「こんな辛い隠し事をさせるなんて、僕はまた、知らないうちに君に苦労をかけていたみたいだね」
僕はベラを抱き寄せ、うつむいた彼女の頭を撫でながらそう言った。
「……いいえ、あなたは、なにも悪くないわ。まさか、こんなことになるなんて……」
「……しかたがないさ。嘆いたところで、病気が治るわけでもない。それよりも、今後のことについて話し合おう」
僕は強がってそう言ったが、内心ではまだ、突然訪れた不幸を受け入れられずにいた。
しかし、それを表に出してしまっては、ベラはさらに暗くなってしまうだろう。
そんなことになれば、これからの残りわずかな余生が台無しになってしまう。
「これからは、あなたのやりたいことを、たくさんしましょう。私が力になるから、どんなことでも言ってね」
ベラは笑顔を向けてそう言った。
まだ涙のあとは残っているが、いつまでも泣いていられないと思ったのだろう。
「ああ、二人で最高の毎日を送ろう。残り時間なんて気にしている暇もないくらい、今を全力で楽しむんだ」
「ええ、そうね。最高の思い出を作りましょう」
ベラは満面の笑みを浮かべていた。
僕もそんな彼女を見て、自然と笑顔になっていた。
「ところで、君はずっと夜通しで僕のそばにいてくれたのだろう? シャワーでも浴びてスッキリして、食事もしてくるといい。僕はその間に、退院のための身支度を済ませておくよ」
「ええ、そうね。そうさせてもらうわ。それじゃあ、またあとで。少しでも具合が悪くなったら、すぐに看護師さんを呼ぶのよ」
ベラは部屋から出て行きながらそう言った。
「ああ、わかっているよ」
そんな彼女を笑顔で見送りながら、僕は言った。
ベラがいなくなって、急に部屋の中が静かに感じた。
気づけば僕は、嗚咽しながら大粒の涙を流していた。
まさか、こんなことになるなんて……。
せっかく試練を乗り越えて、今まで以上に二人の愛は深まったのに……。
これからは、さらに充実した幸せな日々を送れると思っていたのに……。
こんな悲しい気持ちは、生まれて初めてだった。
しかし、悲しんでばかりもいられない……。
僕には、ベラがいる。
残りの人生は、彼女と精一杯楽しんで、幸せを謳歌したい。
そして、僕がこの世からいなくなったあとも、彼女には苦労もなく、楽しい日々を送ってほしい。
そのために、僕にできることはなんだろう……。
身支度をしながら、僕は今後のことについて色々と考えていた。
*
「それはね……、ジャックが余命宣告されるというものだ」
ジャックたちにどんな不幸が訪れるのかと尋ねた私に、シャーディー様はそう答えた。
「余命宣告、ですか……」
「ああ、残り半年だ。その事を知ったジャックとベラは、大きく絶望する」
「それが、彼らに訪れる不幸なのですね……」
ジャックが余命半年だと聞いても、私は悲しいとは思わなかった。
ただ、それが彼の運命だったのだなと受け入れていた。
「まあ、確かに二人は、突然訪れた不幸に大きく絶望するけれど、それでも、そこから希望を見出だそうとするんだ。ベラのことを思うジャックが、とんでもない計画を企てることになる」
「とんでもない計画、ですか……。それはいったい、どのようなものなのですか?」
私はシャーディー様に尋ねた。
すると彼は、遠くない未来にジャックが企てることになる計画の内容を教えてくれた。
「え……、そんな、まさか……」
それを聞いた私は驚愕した。
彼の計画は、その内容を聞いてもあり得ないと思うほど、信じられないものだった……。
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