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第24話:光を支配する者は海を制す
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王都の地下をスライムたちが浄化し、街に清涼な空気が戻ってきた頃。
私は、王都から馬車で半日ほどの距離にある、王国の主要港湾都市、ポート・ロイヤルを見下ろす丘の上に立っていました。
眼下に広がる海は、荒れていました。
この季節特有の濃霧と、複雑な海流。
そして何より、港の入り口付近に散らばる岩礁地帯が、多くの船乗りたちを恐怖させています。
「……また一隻、座礁したか」
隣で双眼鏡を覗いていたルーカス殿下が、苦々しげに舌打ちしました。
霧の向こうで、商船らしき影が傾き、救助を求める狼煙を上げています。
「王立灯台の光が弱すぎるんだ。あんな蝋燭みたいな火じゃ、この濃霧は貫けない。おかげで俺の商会の船も、入港を諦めて沖で待機することが増えた」
「しかも、王家は最近、座礁事故の多発を理由に入港税を引き上げましたわね。危険手当だとか言って」
私は呆れてため息をつきました。
本来なら、その税金で灯台を改修し、水先案内人を増やすべきです。
しかし、ジェラルド殿下は、船が下手だからぶつかるのだ、もっと気合を入れて舵を取れ、と精神論を説き、集めた税金を自分の新しい遊覧船(例の納涼船の代わり)の建造費に充ててしまいました。
インフラ投資を怠り、利用者から搾取するだけの港。
そんなものは、物流の拠点とは呼べません。
「ですので、新しい目印を作ることにしましたの」
「目印?」
「ええ。……そろそろ時間ですわ」
私は懐中時計を確認し、パチンと指を鳴らしました。
その瞬間。
私たちが立っている丘のさらに向こう、沖合に浮かぶ無人の岩礁島から、一条の強烈な光が放たれました。
それは拡散する頼りない炎の光ではありません。
魔法で励起された光を、特殊なクリスタルレンズで収束させ、一直線に海を切り裂く魔導レーザーの光条です。
青白く輝くその光は、分厚い濃霧をバターのように切り裂き、はるか沖合まで到達しました。
「な、なんだあの光は!? 灯台か? いや、あんな遠くまで届く光なんて見たことがないぞ!」
「アークライト式・魔導指向性灯台ですわ」
私は誇らしげに、その光の塔を指差しました。
「従来の松明式灯台の百倍の光量を持ち、さらに回転しながら、安全な航路を光の道として海上に描き出します。船乗りたちは、あの光のラインの上をなぞって進むだけで、岩礁にぶつかることなく入港できるのです」
海を見れば、一目瞭然でした。
沖で立ち往生していた商船たちが、一斉にその光の道へと群がり始めたのです。
ただし……、その光が導く先は、王家の管理するポート・ロイヤルではありません。
その数キロ隣、ルーカス殿下が私財を投じて秘密裏に整備していた新しい民間港、アークライト・ポートです。
「……エグいな。王立港へのルートは霧で真っ白。俺たちの港へのルートだけが、光り輝くレッドカーペットってわけか」
「ええ。命が惜しい船長なら、どちらに舵を切るかは明白でしょう?」
*
(※ジェラルド視点)
王都、王太子宮殿。
「どうなっているんだ! なぜ今月は入港税がゼロなんだ!」
私は、港湾局長を怒鳴りつけた。
局長は涙目で報告する。
「船が……、来ないのです。すべての商船が、隣の新しい港に行ってしまって……」
「新しい港だと? 許可していないぞ! そんな違法な港、閉鎖させろ!」
「それが……、あちらの港は、アークライト商会の私有地でして、しかも、緊急避難港という名目で運営されています。『霧が深くて危険だから、人道的な措置として船を受け入れているだけです』と言われると、手が出せません」
さらに局長は、絶望的な事実を付け加えた。
「それに、あちらの港には最新鋭の魔導クレーンがあり、荷下ろしが王立港の十倍の速さで終わるそうです。船乗りたちは『もう二度と王立港には行かない』と……」
「おのれ……、おのれエリーゼェェッ!」
私は、窓の外を見た。
遥か遠くの海の方角から、夜空を切り裂く青白い光の柱が、嫌味なほど鮮やかに見えている。
あの光が回るたびに、王家の金貨がごっそりとアークライト領へ流れていくのだ。
「あの光を消せ! 石を投げてレンズを割れ!」
「無理です! あそこは海の上、しかも周囲は荒波と岩礁。近づけるのは、あの光の道を知っているアークライトの船だけです!」
私はその場に崩れ落ちた。
陸の鉄道も、地下の下水道も、そして海の航路も……。
気づけば、この国の動脈はすべて、元婚約者に握られていたのだった……。
*
アークライト・ポートの埠頭にて。
次々と入港する大型船を見上げながら、私は潮風に吹かれていました。
「これで物流は完成しましたわ。陸海空……、あ、空はまだでしたわね」
「勘弁してくれ。空まで支配されたら、俺たち商人は鳥の背中に乗って商売しなきゃならなくなる」
ルーカス殿下が苦笑いしながら、積荷のリストを渡してきました。
そこには、世界中から集まった珍しい物産、最新の書物、そして多額の関税収入が記されています。
「光を支配する者は、海を制す。そして海を制する者は、世界経済を制す」
私は回転する灯台の光を見上げました。
その光は、王都の古い権威を照らし出すスポットライトではなく、彼らの没落を照らすサーチライトなのです。
「さあ、次はどんな改革をお望みかしら、ジェラルド殿下?」
私の手の中で、海図が音を立てて風に揺れました。
それはまるで、新しい世界の地図へと書き換わる音のようでした。
私は、王都から馬車で半日ほどの距離にある、王国の主要港湾都市、ポート・ロイヤルを見下ろす丘の上に立っていました。
眼下に広がる海は、荒れていました。
この季節特有の濃霧と、複雑な海流。
そして何より、港の入り口付近に散らばる岩礁地帯が、多くの船乗りたちを恐怖させています。
「……また一隻、座礁したか」
隣で双眼鏡を覗いていたルーカス殿下が、苦々しげに舌打ちしました。
霧の向こうで、商船らしき影が傾き、救助を求める狼煙を上げています。
「王立灯台の光が弱すぎるんだ。あんな蝋燭みたいな火じゃ、この濃霧は貫けない。おかげで俺の商会の船も、入港を諦めて沖で待機することが増えた」
「しかも、王家は最近、座礁事故の多発を理由に入港税を引き上げましたわね。危険手当だとか言って」
私は呆れてため息をつきました。
本来なら、その税金で灯台を改修し、水先案内人を増やすべきです。
しかし、ジェラルド殿下は、船が下手だからぶつかるのだ、もっと気合を入れて舵を取れ、と精神論を説き、集めた税金を自分の新しい遊覧船(例の納涼船の代わり)の建造費に充ててしまいました。
インフラ投資を怠り、利用者から搾取するだけの港。
そんなものは、物流の拠点とは呼べません。
「ですので、新しい目印を作ることにしましたの」
「目印?」
「ええ。……そろそろ時間ですわ」
私は懐中時計を確認し、パチンと指を鳴らしました。
その瞬間。
私たちが立っている丘のさらに向こう、沖合に浮かぶ無人の岩礁島から、一条の強烈な光が放たれました。
それは拡散する頼りない炎の光ではありません。
魔法で励起された光を、特殊なクリスタルレンズで収束させ、一直線に海を切り裂く魔導レーザーの光条です。
青白く輝くその光は、分厚い濃霧をバターのように切り裂き、はるか沖合まで到達しました。
「な、なんだあの光は!? 灯台か? いや、あんな遠くまで届く光なんて見たことがないぞ!」
「アークライト式・魔導指向性灯台ですわ」
私は誇らしげに、その光の塔を指差しました。
「従来の松明式灯台の百倍の光量を持ち、さらに回転しながら、安全な航路を光の道として海上に描き出します。船乗りたちは、あの光のラインの上をなぞって進むだけで、岩礁にぶつかることなく入港できるのです」
海を見れば、一目瞭然でした。
沖で立ち往生していた商船たちが、一斉にその光の道へと群がり始めたのです。
ただし……、その光が導く先は、王家の管理するポート・ロイヤルではありません。
その数キロ隣、ルーカス殿下が私財を投じて秘密裏に整備していた新しい民間港、アークライト・ポートです。
「……エグいな。王立港へのルートは霧で真っ白。俺たちの港へのルートだけが、光り輝くレッドカーペットってわけか」
「ええ。命が惜しい船長なら、どちらに舵を切るかは明白でしょう?」
*
(※ジェラルド視点)
王都、王太子宮殿。
「どうなっているんだ! なぜ今月は入港税がゼロなんだ!」
私は、港湾局長を怒鳴りつけた。
局長は涙目で報告する。
「船が……、来ないのです。すべての商船が、隣の新しい港に行ってしまって……」
「新しい港だと? 許可していないぞ! そんな違法な港、閉鎖させろ!」
「それが……、あちらの港は、アークライト商会の私有地でして、しかも、緊急避難港という名目で運営されています。『霧が深くて危険だから、人道的な措置として船を受け入れているだけです』と言われると、手が出せません」
さらに局長は、絶望的な事実を付け加えた。
「それに、あちらの港には最新鋭の魔導クレーンがあり、荷下ろしが王立港の十倍の速さで終わるそうです。船乗りたちは『もう二度と王立港には行かない』と……」
「おのれ……、おのれエリーゼェェッ!」
私は、窓の外を見た。
遥か遠くの海の方角から、夜空を切り裂く青白い光の柱が、嫌味なほど鮮やかに見えている。
あの光が回るたびに、王家の金貨がごっそりとアークライト領へ流れていくのだ。
「あの光を消せ! 石を投げてレンズを割れ!」
「無理です! あそこは海の上、しかも周囲は荒波と岩礁。近づけるのは、あの光の道を知っているアークライトの船だけです!」
私はその場に崩れ落ちた。
陸の鉄道も、地下の下水道も、そして海の航路も……。
気づけば、この国の動脈はすべて、元婚約者に握られていたのだった……。
*
アークライト・ポートの埠頭にて。
次々と入港する大型船を見上げながら、私は潮風に吹かれていました。
「これで物流は完成しましたわ。陸海空……、あ、空はまだでしたわね」
「勘弁してくれ。空まで支配されたら、俺たち商人は鳥の背中に乗って商売しなきゃならなくなる」
ルーカス殿下が苦笑いしながら、積荷のリストを渡してきました。
そこには、世界中から集まった珍しい物産、最新の書物、そして多額の関税収入が記されています。
「光を支配する者は、海を制す。そして海を制する者は、世界経済を制す」
私は回転する灯台の光を見上げました。
その光は、王都の古い権威を照らし出すスポットライトではなく、彼らの没落を照らすサーチライトなのです。
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