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第2話:夫と幼馴染みの共同作業
その日の午後。
王都のホテルで開催された新作展示会は、着飾った貴族たちで溢れかえっていた。
シャンデリアの輝きの下、ヴィンセントは壇上でスポットライトを浴びていた。
「――このアクア・シルクは、我がバークリー家の伝統と、私の革新的な発想が融合して生まれた奇跡の布です」
彼は流暢に語っていた。
まるで、自分が実験室でフラスコを振っていたかのように。
ロザリンドは壇上の端、観葉植物の陰になる位置に立っていた。
彼女の役目は、夫が答えられない専門的な質問が飛んだ時に、こっそりと助言をすることだ。
しかし、今のところその出番はない。
ヴィンセントは表面的な美辞麗句だけで、聴衆を魅了していたからだ。
「素晴らしいわ、バークリー伯爵!」
「まさか、あの赤字続きだった工場からこんな逸品が生まれるとは」
拍手喝采。
ヴィンセントは満足げに微笑み、誇らしげに胸を張る。
その時だった。
「ヴィンセントぉ~! 待ってぇ!」
場違いに甘ったるい声が響き渡った。
会場の視線が一斉に注がれる中、ピンク色のドレスを纏った小柄な女性が壇上に駆け上がってきた。
ミエル・ルブランだ。
彼女はヴィンセントの幼馴染であり、借金取りから逃れるためにバークリー家に居候している見習い助手だった。
「ミエル? どうしたんだい」
ヴィンセントの声が一段と甘くなる。
ミエルは頬を膨らませ、ヴィンセントの腕に絡みついた。
「だってぇ、その布、なんか地味なんだもん! 色が暗いし、おじさま臭いですよぉ」
会場がざわめく。
ロザリンドは息を呑んだ。
その色は、汚れを目立たなくし、かつフォーマルな場でも使えるように計算し尽くしたミッドナイト・ブルーだ。
「だからね、私が可愛くしてあげようと思って!」
ミエルはポケットから、大きなピンク色のリボンと、安っぽい造花を取り出した。
そして、あろうことか、それを安全ピンでアクア・シルクの中央に突き刺したのだ。
ブスリ、という鈍い音が、ロザリンドの耳には雷鳴のように響いた。
「あ……っ!」
ロザリンドは思わず声を上げていた。
撥水加工は、生地の表面張力を利用した繊細な技術だ。
穴を開ければ、そこから水が浸透し、繊維の構造そのものが崩れてしまう。
しかし、ミエルは無邪気に笑った。
「ほら見てぇ! こっちの方が断然可愛い! 愛されシルクって感じしませんかぁ?」
一瞬の沈黙。
そして、貴婦人たちの中から「まあ、素敵!」「確かにさっきより華やかだわ」という声が上がった。
技術的な価値など理解しない層には、ミエルの安直なデコレーションの方が受けたのだ。
「ははは、さすがミエルだ。私の堅苦しい理論に、君の感性が命を吹き込んでくれたね」
ヴィンセントはミエルの頭を撫で、二人で顔を見合わせて笑った。
王都のホテルで開催された新作展示会は、着飾った貴族たちで溢れかえっていた。
シャンデリアの輝きの下、ヴィンセントは壇上でスポットライトを浴びていた。
「――このアクア・シルクは、我がバークリー家の伝統と、私の革新的な発想が融合して生まれた奇跡の布です」
彼は流暢に語っていた。
まるで、自分が実験室でフラスコを振っていたかのように。
ロザリンドは壇上の端、観葉植物の陰になる位置に立っていた。
彼女の役目は、夫が答えられない専門的な質問が飛んだ時に、こっそりと助言をすることだ。
しかし、今のところその出番はない。
ヴィンセントは表面的な美辞麗句だけで、聴衆を魅了していたからだ。
「素晴らしいわ、バークリー伯爵!」
「まさか、あの赤字続きだった工場からこんな逸品が生まれるとは」
拍手喝采。
ヴィンセントは満足げに微笑み、誇らしげに胸を張る。
その時だった。
「ヴィンセントぉ~! 待ってぇ!」
場違いに甘ったるい声が響き渡った。
会場の視線が一斉に注がれる中、ピンク色のドレスを纏った小柄な女性が壇上に駆け上がってきた。
ミエル・ルブランだ。
彼女はヴィンセントの幼馴染であり、借金取りから逃れるためにバークリー家に居候している見習い助手だった。
「ミエル? どうしたんだい」
ヴィンセントの声が一段と甘くなる。
ミエルは頬を膨らませ、ヴィンセントの腕に絡みついた。
「だってぇ、その布、なんか地味なんだもん! 色が暗いし、おじさま臭いですよぉ」
会場がざわめく。
ロザリンドは息を呑んだ。
その色は、汚れを目立たなくし、かつフォーマルな場でも使えるように計算し尽くしたミッドナイト・ブルーだ。
「だからね、私が可愛くしてあげようと思って!」
ミエルはポケットから、大きなピンク色のリボンと、安っぽい造花を取り出した。
そして、あろうことか、それを安全ピンでアクア・シルクの中央に突き刺したのだ。
ブスリ、という鈍い音が、ロザリンドの耳には雷鳴のように響いた。
「あ……っ!」
ロザリンドは思わず声を上げていた。
撥水加工は、生地の表面張力を利用した繊細な技術だ。
穴を開ければ、そこから水が浸透し、繊維の構造そのものが崩れてしまう。
しかし、ミエルは無邪気に笑った。
「ほら見てぇ! こっちの方が断然可愛い! 愛されシルクって感じしませんかぁ?」
一瞬の沈黙。
そして、貴婦人たちの中から「まあ、素敵!」「確かにさっきより華やかだわ」という声が上がった。
技術的な価値など理解しない層には、ミエルの安直なデコレーションの方が受けたのだ。
「ははは、さすがミエルだ。私の堅苦しい理論に、君の感性が命を吹き込んでくれたね」
ヴィンセントはミエルの頭を撫で、二人で顔を見合わせて笑った。
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