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第25話:可愛げがない女と、可愛い女の比較
ミエルは、細かい数字がびっしりと並んだページを見た瞬間、露骨に顔をしかめた。
「やだぁ! なにこれぇ、虫がいっぱいいるみたい!」
「虫じゃない、数字だ! 頼む、君の助けが必要なんだ!」
「無理無理無理ぃ! 私、こういうの頭痛くなっちゃうのぉ!」
ミエルはバタンと帳簿を閉じた。
「そんなことよりぃ、私、可愛いカフェに行きたいなぁ。ここ、埃っぽいし暗いし、もう嫌ぁ!」
ヴィンセントの中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。
かつて、ロザリンドはどうしていただろうか。
彼女は、どんなに複雑な書類でも、一度目を通しただけで「ここ計算が間違っていますわ」「この予算なら、あと三割削減できます」と即答していた。
ヴィンセントはそれを「可愛げがない」「理屈っぽい」と罵った。
だが、その可愛げのなさこそが、バークリー家を破綻から守っていた防波堤だったのだ。
目の前にいるミエルを見る。
ピンク色の部屋着を着て、上目遣いで甘える可愛い幼馴染。
だが、その可愛さは今、何の役にも立たない。
腹の足しにもならなければ、銀行を追い返す盾にもならない。
ただの無能な肉塊だ。
「……君は、何もできないのか?」
ヴィンセントの声が震えた。
「え?」
「計算もできない。掃除もできない。料理もできない。……君は、ただ笑って金を食いつぶすだけなのか?」
ミエルは目を丸くした。
「ひどぉい! ヴィンセント、私のこと愛してるって言ったじゃない! 愛があれば、なんでもできるんでしょ!?」
「愛で腹が膨れるか! 愛で借金が返せるか!!」
ヴィンセントは机を拳で叩きつけた。
その音に、ミエルが「ひっ」と縮み上がる。
帳簿が床に落ちた。
開いたページには、ロザリンドのメモ書きがあった。
『※緊急用予備資金。暗証番号は……』
ヴィンセントは獣のように床に這いつくばり、そのメモを読んだ。
そうだ、予備資金がある!
ロザリンドめ、やはり隠していたか!
彼は震える指で、壁の隠し金庫のダイヤルを回した。
重い扉が開く。
中には――
一枚の紙切れが入っていた。
現金ではない。
ロザリンドの流麗な筆跡で書かれた、短いメッセージカードだ。
『緊急用予備資金につきましては、ミエル様の先月のドレス代、及び宝石代として全額充当いたしました。残高、ゼロでございます』
「あ……、あぁ……」
ヴィンセントは、その場に崩れ落ちた。
喉の奥から、乾いたヒューヒューという音が漏れる。
ゼロ。
何もない。
本当に、一銭も残っていない。
ロザリンドは知っていたのだ。
この日が来ることを。
そして、ヴィンセントが金庫を開ける瞬間すら予測し、この皮肉なメッセージを残したのだ。
「数字は嘘をつきません」
彼女がいつも言っていた言葉が、呪いのようにヴィンセントの脳内を駆け巡る。
彼女の計算通り、バークリー家は破産したのだ。
「う、うそだ……。これは夢だ……」
ヴィンセントはガタガタと震え出した。
ミエルが恐る恐る近づいてくる。
「ねえ、ヴィンセントぉ……。お金、ないの? 私、新しいドレスとか帽子とか予約しちゃったんだけどぉ……」
その甘ったるい声が、今はただの雑音にしか聞こえなかった。
ヴィンセントは虚ろな目で天井を見上げた。
そこには、蜘蛛の巣が張っていた。
ロザリンドがいなくなって数日。
屋敷はすでに、主を失った墓場へと変貌を遂げていた。
「やだぁ! なにこれぇ、虫がいっぱいいるみたい!」
「虫じゃない、数字だ! 頼む、君の助けが必要なんだ!」
「無理無理無理ぃ! 私、こういうの頭痛くなっちゃうのぉ!」
ミエルはバタンと帳簿を閉じた。
「そんなことよりぃ、私、可愛いカフェに行きたいなぁ。ここ、埃っぽいし暗いし、もう嫌ぁ!」
ヴィンセントの中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。
かつて、ロザリンドはどうしていただろうか。
彼女は、どんなに複雑な書類でも、一度目を通しただけで「ここ計算が間違っていますわ」「この予算なら、あと三割削減できます」と即答していた。
ヴィンセントはそれを「可愛げがない」「理屈っぽい」と罵った。
だが、その可愛げのなさこそが、バークリー家を破綻から守っていた防波堤だったのだ。
目の前にいるミエルを見る。
ピンク色の部屋着を着て、上目遣いで甘える可愛い幼馴染。
だが、その可愛さは今、何の役にも立たない。
腹の足しにもならなければ、銀行を追い返す盾にもならない。
ただの無能な肉塊だ。
「……君は、何もできないのか?」
ヴィンセントの声が震えた。
「え?」
「計算もできない。掃除もできない。料理もできない。……君は、ただ笑って金を食いつぶすだけなのか?」
ミエルは目を丸くした。
「ひどぉい! ヴィンセント、私のこと愛してるって言ったじゃない! 愛があれば、なんでもできるんでしょ!?」
「愛で腹が膨れるか! 愛で借金が返せるか!!」
ヴィンセントは机を拳で叩きつけた。
その音に、ミエルが「ひっ」と縮み上がる。
帳簿が床に落ちた。
開いたページには、ロザリンドのメモ書きがあった。
『※緊急用予備資金。暗証番号は……』
ヴィンセントは獣のように床に這いつくばり、そのメモを読んだ。
そうだ、予備資金がある!
ロザリンドめ、やはり隠していたか!
彼は震える指で、壁の隠し金庫のダイヤルを回した。
重い扉が開く。
中には――
一枚の紙切れが入っていた。
現金ではない。
ロザリンドの流麗な筆跡で書かれた、短いメッセージカードだ。
『緊急用予備資金につきましては、ミエル様の先月のドレス代、及び宝石代として全額充当いたしました。残高、ゼロでございます』
「あ……、あぁ……」
ヴィンセントは、その場に崩れ落ちた。
喉の奥から、乾いたヒューヒューという音が漏れる。
ゼロ。
何もない。
本当に、一銭も残っていない。
ロザリンドは知っていたのだ。
この日が来ることを。
そして、ヴィンセントが金庫を開ける瞬間すら予測し、この皮肉なメッセージを残したのだ。
「数字は嘘をつきません」
彼女がいつも言っていた言葉が、呪いのようにヴィンセントの脳内を駆け巡る。
彼女の計算通り、バークリー家は破産したのだ。
「う、うそだ……。これは夢だ……」
ヴィンセントはガタガタと震え出した。
ミエルが恐る恐る近づいてくる。
「ねえ、ヴィンセントぉ……。お金、ないの? 私、新しいドレスとか帽子とか予約しちゃったんだけどぉ……」
その甘ったるい声が、今はただの雑音にしか聞こえなかった。
ヴィンセントは虚ろな目で天井を見上げた。
そこには、蜘蛛の巣が張っていた。
ロザリンドがいなくなって数日。
屋敷はすでに、主を失った墓場へと変貌を遂げていた。
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