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第4話:害獣も余り物も、全ては資源
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辺境での生活にも慣れ始めた頃、領主館の執務室に農民たちの悲痛な叫びが響き渡っていた。
「閣下! もう限界です! 今年は猪の発生が異常で……!」
「畑を荒らされるだけじゃねえ。駆除しようにも数が多すぎて、村の若い衆だけじゃ手が回らねえんです!」
床にひれ伏す農民代表の男たち。
グレン様は腕を組み、険しい顔で地図を睨んでいる。
北の森から降りてくる猪が、収穫前の畑を食い荒らす獣害だ。
「……討伐隊は出す。だが、殺した猪の死骸処理が追いつかん。この時期、気温が上がり始めている。放置すれば腐敗し、疫病の原因になるぞ」
「はい……。ですから、泣く泣く穴を掘って埋めております。畑を守るためとはいえ、肉を捨てるのは心苦しくて……」
農民が肩を落とす。
その話を聞いていた私は、口を挟んだ。
「その埋めるという工程、即刻中止してください。機会損失にも程があります」
「ルシア様……?」
私が前に出ると、農民たちは不思議そうな顔をした。
私は羊皮紙を広げ、素早くペンを走らせる。
「猪肉は、豚肉よりも味が濃く、野性味あふれる旨味があります。これをただ廃棄するなど、お金をドブに捨てているのと同じです」
「で、ですが、猪の肉は足が早いんです。血抜きもしねえまま運べば、街に着く頃には腐っちまう」
「ええ。ですから、運ぶ前に加工します」
私はグレン様に向き直った。
「閣下、建設許可をいただきたい施設があります。――巨大な燻製小屋です」
数日後、被害の大きかった農村の広場に、レンガと木材で組まれた巨大な小屋が完成した。
私が設計した、一度に五十頭分の肉を吊るせる業務用スモークハウスだ。
「いいですか、手順を説明します!」
私は集まった農民たちに指示を飛ばした。
「討伐した猪はすぐに血抜きし、解体。塩とスパイスを擦り込んで三日寝かせます。その後、この小屋に吊るし、この地域に自生するヒッコリーの木で燻します!」
もうもうと白い煙が立ち上る。
肉の脂が炭に落ちて焦げる香ばしい匂いと、スパイスの香りが混じり合い、強烈に食欲をそそる芳香となって村を包み込んだ。
一週間後。
小屋の扉が開かれると、そこには飴色に輝く宝の山があった。
猪肉のベーコンと、腸詰めされたソーセージだ。
「こ、これが……、俺たちが埋めていた猪か?」
農民の一人が、完成したソーセージをナイフで切り、口に入れる。
パキッ、という小気味よい音と共に、肉汁が溢れ出した。
「う、うめえええ!!」
「脂が甘い! それに燻製の香りで獣臭さが完全に消えてる!」
「保存期間も、これなら三ヶ月は持ちます。冬の間の貴重な保存食になりますし、街へ売れば高値がつきますよ」
私が淡々と説明すると、農民たちは歓声を上げて抱き合った。
厄介だった害獣が、貴重な資源へと転じた瞬間だった。
その騒ぎの横で、一人の老婆がおずおずと私に声をかけてきた。
「あの……、ルシア様。これ、うちの鶏が産んだ卵なんですが……」
老婆が差し出した籠には、大量の卵が入っていた。
「街まで運ぶと割れちまうし、夏場はすぐに腐っちまうから、余った分は捨ててたんです。これも何とかなりませんか?」
「もちろんです。卵も立派な資源ですから」
私は即座に大鍋を用意させた。
「卵は茹でて殻を剥き、醤油とハーブを煮立たせた液に漬け込みます。そして軽く燻製にした後、オリーブオイルに沈めます」
手際よく瓶詰めされた燻製卵のオイル漬け。
これなら半年は常温で保存できる上、オイルに卵の旨味が溶け出し、そのオイル自体も調味料として使える。
「まあ……! こんなに美味しく!」
「これも、酒場のおつまみとして高く売れますよ」
老婆は私の手を握りしめ、頭を下げた。
「ありがとうございます……! ルシア様は、女神様の生まれ変わりじゃ……!」
「女神様万歳! ルシア様万歳!」
いつの間にか、村中が私を拝むような空気になっていた。
私は困惑して、少しだけ後ずさる。
「私はただ、もったいないことを効率化しただけで……」
「受け取っておけ」
背後から、グレン様が頭をポンと撫でた。
「お前の知識や技術が、こいつらの生活を救ったんだ。感謝されるだけのことはした」
「……そうですか。なら、売上の一部は、設備投資の回収として徴収させていただきますね」
「フッ、ブレないな、お前は」
グレン様が呆れたように、けれど優しく笑う。
村人たちの笑顔と、新しく商品として生まれ変わった食材たち。
これだけの成果が出せれば、私の心も、そして財布の中身も十分に満たされそうだ。
「閣下! もう限界です! 今年は猪の発生が異常で……!」
「畑を荒らされるだけじゃねえ。駆除しようにも数が多すぎて、村の若い衆だけじゃ手が回らねえんです!」
床にひれ伏す農民代表の男たち。
グレン様は腕を組み、険しい顔で地図を睨んでいる。
北の森から降りてくる猪が、収穫前の畑を食い荒らす獣害だ。
「……討伐隊は出す。だが、殺した猪の死骸処理が追いつかん。この時期、気温が上がり始めている。放置すれば腐敗し、疫病の原因になるぞ」
「はい……。ですから、泣く泣く穴を掘って埋めております。畑を守るためとはいえ、肉を捨てるのは心苦しくて……」
農民が肩を落とす。
その話を聞いていた私は、口を挟んだ。
「その埋めるという工程、即刻中止してください。機会損失にも程があります」
「ルシア様……?」
私が前に出ると、農民たちは不思議そうな顔をした。
私は羊皮紙を広げ、素早くペンを走らせる。
「猪肉は、豚肉よりも味が濃く、野性味あふれる旨味があります。これをただ廃棄するなど、お金をドブに捨てているのと同じです」
「で、ですが、猪の肉は足が早いんです。血抜きもしねえまま運べば、街に着く頃には腐っちまう」
「ええ。ですから、運ぶ前に加工します」
私はグレン様に向き直った。
「閣下、建設許可をいただきたい施設があります。――巨大な燻製小屋です」
数日後、被害の大きかった農村の広場に、レンガと木材で組まれた巨大な小屋が完成した。
私が設計した、一度に五十頭分の肉を吊るせる業務用スモークハウスだ。
「いいですか、手順を説明します!」
私は集まった農民たちに指示を飛ばした。
「討伐した猪はすぐに血抜きし、解体。塩とスパイスを擦り込んで三日寝かせます。その後、この小屋に吊るし、この地域に自生するヒッコリーの木で燻します!」
もうもうと白い煙が立ち上る。
肉の脂が炭に落ちて焦げる香ばしい匂いと、スパイスの香りが混じり合い、強烈に食欲をそそる芳香となって村を包み込んだ。
一週間後。
小屋の扉が開かれると、そこには飴色に輝く宝の山があった。
猪肉のベーコンと、腸詰めされたソーセージだ。
「こ、これが……、俺たちが埋めていた猪か?」
農民の一人が、完成したソーセージをナイフで切り、口に入れる。
パキッ、という小気味よい音と共に、肉汁が溢れ出した。
「う、うめえええ!!」
「脂が甘い! それに燻製の香りで獣臭さが完全に消えてる!」
「保存期間も、これなら三ヶ月は持ちます。冬の間の貴重な保存食になりますし、街へ売れば高値がつきますよ」
私が淡々と説明すると、農民たちは歓声を上げて抱き合った。
厄介だった害獣が、貴重な資源へと転じた瞬間だった。
その騒ぎの横で、一人の老婆がおずおずと私に声をかけてきた。
「あの……、ルシア様。これ、うちの鶏が産んだ卵なんですが……」
老婆が差し出した籠には、大量の卵が入っていた。
「街まで運ぶと割れちまうし、夏場はすぐに腐っちまうから、余った分は捨ててたんです。これも何とかなりませんか?」
「もちろんです。卵も立派な資源ですから」
私は即座に大鍋を用意させた。
「卵は茹でて殻を剥き、醤油とハーブを煮立たせた液に漬け込みます。そして軽く燻製にした後、オリーブオイルに沈めます」
手際よく瓶詰めされた燻製卵のオイル漬け。
これなら半年は常温で保存できる上、オイルに卵の旨味が溶け出し、そのオイル自体も調味料として使える。
「まあ……! こんなに美味しく!」
「これも、酒場のおつまみとして高く売れますよ」
老婆は私の手を握りしめ、頭を下げた。
「ありがとうございます……! ルシア様は、女神様の生まれ変わりじゃ……!」
「女神様万歳! ルシア様万歳!」
いつの間にか、村中が私を拝むような空気になっていた。
私は困惑して、少しだけ後ずさる。
「私はただ、もったいないことを効率化しただけで……」
「受け取っておけ」
背後から、グレン様が頭をポンと撫でた。
「お前の知識や技術が、こいつらの生活を救ったんだ。感謝されるだけのことはした」
「……そうですか。なら、売上の一部は、設備投資の回収として徴収させていただきますね」
「フッ、ブレないな、お前は」
グレン様が呆れたように、けれど優しく笑う。
村人たちの笑顔と、新しく商品として生まれ変わった食材たち。
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