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第7話:軽い調子で告げる夫
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正当な報酬を奪われ、さらに五十枚の追加制作という絶望的な指示を受けた日から一週間。
オリヴィアはほとんど寝ることすらできず、針とボビンを動かし続けた。
食欲がないので、食事はメイドのマーサが運んできた温かいスープを数口すすり込むだけ。
髪を梳かす余裕すらなく、亜麻色の髪は疲労で艶を失い、乱れたまま適当に結い上げられていた。
指先のタコは硬さを増し、時折誤って針で刺した箇所から滲む血を、布の端で無造作に拭いながら作業を続けた。
彼女の顔色は、土気色をしており、目の下の隈は深く暗い窪みとなって定着していた。
(あと、少し……。これを納品すれば、領地の職人たちに……)
朦朧とする意識の中、オリヴィアを突き動かしていたのは、貴族としての義務感と、自分がやらなければ領民が路頭に迷うという強迫観念だけだった。
夫のセドリックが安請け合いした事業の赤字は、雪だるま式に膨れ上がっており、オリヴィアの作るレースの売り上げだけが唯一の補填材料になっていたのだ。
そしてついに、五十枚の最高級ボビンレースが完成した。
最後の糸を切り落とした瞬間、オリヴィアは机に突っ伏した。
泥のような疲労が全身を打ち据え、指一本動かすことすら億劫だった。
「……奥様、完成なさいましたか」
マーサが心配そうに声をかけてくる。
「ええ……。あとはこれを、商会へ……」
「奥様、まずは少しお休みくださいませ! お顔の色が尋常ではありません」
「ダメよ……。明日は、領民への冬の配給品を配る式典があるの。このレースの売り上げで、配給の毛布と食料を買い付けなければ……」
這うようにして立ち上がったオリヴィアは、完成したレースを箱に詰め、セドリックの執務室へと向かった。
これだけの数を短期間で仕上げたのだ。
さすがの彼も、今度こそこの売り上げを事業資金として正当に使ってくれるはずだ。
いや、使ってもらわなければ本当に領地が破綻する。
執務室の扉を叩き、中へ入ると、セドリックは上機嫌で書類に目を通していた。
「おお、オリヴィア! できたのかい?」
「はい……。五十枚、仕上げました。これで明日の式典の資金は……」
「素晴らしい! 君は本当に、我が家の誇りだよ」
セドリックは立ち上がり、大げさにオリヴィアの肩を抱き寄せようとしたが、彼女はそっと身を引いた。
彼の甘い言葉は、もはやオリヴィアの心に何の波紋も起こさなかった。
「すぐに商会へ使いを出します。これほどの品なら、前回の倍の金額で買い取ってくれるはずです。それで毛布と小麦を……」
「ああ、そのことなんだがね」
セドリックは、まるで些細な予定変更を告げるかのように、軽い調子で言った。
「そのレースは、商会には売らないことにしたんだ」
オリヴィアはほとんど寝ることすらできず、針とボビンを動かし続けた。
食欲がないので、食事はメイドのマーサが運んできた温かいスープを数口すすり込むだけ。
髪を梳かす余裕すらなく、亜麻色の髪は疲労で艶を失い、乱れたまま適当に結い上げられていた。
指先のタコは硬さを増し、時折誤って針で刺した箇所から滲む血を、布の端で無造作に拭いながら作業を続けた。
彼女の顔色は、土気色をしており、目の下の隈は深く暗い窪みとなって定着していた。
(あと、少し……。これを納品すれば、領地の職人たちに……)
朦朧とする意識の中、オリヴィアを突き動かしていたのは、貴族としての義務感と、自分がやらなければ領民が路頭に迷うという強迫観念だけだった。
夫のセドリックが安請け合いした事業の赤字は、雪だるま式に膨れ上がっており、オリヴィアの作るレースの売り上げだけが唯一の補填材料になっていたのだ。
そしてついに、五十枚の最高級ボビンレースが完成した。
最後の糸を切り落とした瞬間、オリヴィアは机に突っ伏した。
泥のような疲労が全身を打ち据え、指一本動かすことすら億劫だった。
「……奥様、完成なさいましたか」
マーサが心配そうに声をかけてくる。
「ええ……。あとはこれを、商会へ……」
「奥様、まずは少しお休みくださいませ! お顔の色が尋常ではありません」
「ダメよ……。明日は、領民への冬の配給品を配る式典があるの。このレースの売り上げで、配給の毛布と食料を買い付けなければ……」
這うようにして立ち上がったオリヴィアは、完成したレースを箱に詰め、セドリックの執務室へと向かった。
これだけの数を短期間で仕上げたのだ。
さすがの彼も、今度こそこの売り上げを事業資金として正当に使ってくれるはずだ。
いや、使ってもらわなければ本当に領地が破綻する。
執務室の扉を叩き、中へ入ると、セドリックは上機嫌で書類に目を通していた。
「おお、オリヴィア! できたのかい?」
「はい……。五十枚、仕上げました。これで明日の式典の資金は……」
「素晴らしい! 君は本当に、我が家の誇りだよ」
セドリックは立ち上がり、大げさにオリヴィアの肩を抱き寄せようとしたが、彼女はそっと身を引いた。
彼の甘い言葉は、もはやオリヴィアの心に何の波紋も起こさなかった。
「すぐに商会へ使いを出します。これほどの品なら、前回の倍の金額で買い取ってくれるはずです。それで毛布と小麦を……」
「ああ、そのことなんだがね」
セドリックは、まるで些細な予定変更を告げるかのように、軽い調子で言った。
「そのレースは、商会には売らないことにしたんだ」
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