「君は自分の利益しか考えてないのか?」と私の成果をタダで配る偽善者の浮気夫。〜やりがい搾取に疲れたので、すべての権利をいただいて去ります〜

水上

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第6話:夫の良い顔のために消費される妻の努力

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 自分が文字通り身を削り、針で指を刺しながら流した血と汗の結晶が、目の前で夫の高潔な名声という実体のないものにすり替えられていく。

 約束されていた正当な報酬は、セドリックの素晴らしい人格者というメッキを分厚くするための道具として、跡形もなく消え去った。

 会頭夫人が見送られ、応接室に二人きりになると、セドリックは機嫌よく振り返った。

「うまくいったな、オリヴィア! これで商会とのパイプは強固になったし、王宮での僕の評価もうなぎ登りだ。君の作ったレースは、最高の宣伝材料になったよ」

「……領地の事業資金は、どうするおつもりですか」

 オリヴィアの声は、ひどく掠れていた。

「金貨七百枚がなければ、明日にでも職人たちの賃金が支払えなくなります。あの事業は、私が作ったレースの売り上げで補填する計画だったはずです」

「ああ、あれか。心配ないよ」

 セドリックは全く意に介さない様子で、軽快に答えた。

「君がもう少し頑張って、別の品を作ってくれればいいだけじゃないか。幸い、君の腕前は素晴らしい。あと五十枚ほど作れば、別の商人が買ってくれるだろう」

「……五十、枚……?」

「そうだ。君ならできるだろう? 領民のために、そして僕たちの名声のために。期待しているよ」

 ポン、とセドリックの手がオリヴィアの肩を軽く叩いた。
 彼はそのまま、鼻歌を歌いながら応接室を出て行った。

 残されたオリヴィアは、空っぽになったベルベットの箱を見つめていた。

 五十枚。
 物理的に不可能だ。

 また数日、一睡もせずに働き続けろというのか。
 しかも、その対価が支払われる保証はどこにもない。

 また彼が無私の心を振りかざして寄付に回してしまうかもしれないのだ。

「……っ」

 膝から力が抜け、オリヴィアは床にへたり込んだ。
 疲労と絶望が、冷たい泥のように体の内側を満たしていく。

(私は何のために働いているのだろう。誰のために、命を削っているのだろう)

『君は本当に、目先の利益にこだわるね』

 セドリックの言葉が、呪いのように耳の奥でリフレインする。

 報酬を求めることは強欲なのか。
 正当な対価を要求することは、罪なのか。

 自分の努力が、他人の良い顔のために無料で消費され、搾取され続けている。
 その事実が、ゆっくりとオリヴィアの心を蝕み始めていた。

 しかし、彼女はまだ声を上げることはできなかった。

 それは、長年植え付けられた、自分が我慢すればうまくいくという歪んだ自己犠牲の呪縛が、彼女の足を重く鎖のように縛り付けていたからだった。
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