「君は自分の利益しか考えてないのか?」と私の成果をタダで配る偽善者の浮気夫。〜やりがい搾取に疲れたので、すべての権利をいただいて去ります〜

水上

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第5話:すり替えられた報酬

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「いやいや、夫人。お気遣いは無用に願います」

 セドリックが、芝居がかった手つきで夫人の言葉を遮った。

「え……?」

 オリヴィアは弾かれたように顔を上げた。
 セドリックは、この上なく高潔で、慈愛に満ちた表情を浮かべていた。

「我がウィンザー伯爵家は、皆様の笑顔のために尽くすことを無上の喜びとしております。これほどの品を金銭に変えてしまうのは、私たちの純粋な奉仕の精神を汚すことになりかねません」

「まあ、伯爵……。それでは、この素晴らしい品をどうされるおつもりで?」

 夫人が驚きの声を上げる。

「今回は、我が伯爵家から商会へのとしてお納めください。そして、もし可能であれば……、次回の王宮での晩餐会にて、このレースがウィンザー伯爵家の無私の心から贈られたものであると、皆様にお広めいただければ幸いです」

(……何を言っているの?)

 オリヴィアの頭の中で、何かが真っ白に弾けた。

「む、無償……? セドリック様、何を……」

 オリヴィアは思わず声を絞り出した。
 彼女のその声は、震えていた。

 金貨七百枚。
 それは単なる贅沢のためのお金ではない。

 領地の職人たちの生活費であり、彼が安請け合いした事業の補填のための、絶対に必要不可欠な資金のはずだ。

「オリヴィア、君も賛成だろう?」

 セドリックは、まるで慈悲深い聖者のような顔でオリヴィアを振り返った。

「僕たちは貴族だ。金銭的な利益を求める商人ではない。我々の真の財産は、人々からの信頼と称賛だ。君の徹夜の努力が、王都の貴族たちに感動を与え、我が領地への多大な支援へと繋がる。これほど素晴らしい投資はないじゃないか」

「ですが……!」

 オリヴィアは反論しようと一歩前に出た。
 しかし、セドリックはそれを許さなかった。

「君は本当に、目先の利益にこだわるね」

 彼は声を潜め、会頭夫人には聞こえないように、しかし冷たく鋭い声でオリヴィアを咎めた。

「君のその強欲さが、僕たちの崇高な理念に泥を塗るんだよ。少しは、ステラのように無償の愛を知りなさい」

 また、ステラの名前が出た。
 オリヴィアの反論の言葉は、喉の奥で氷のように固まってしまった。

 ここで口論になれば、商会の前でウィンザー家の恥を晒すことになる。
 波風を立てることを何よりも恐れるオリヴィアの性格を、セドリックは熟知していた。

 そして、彼はそれを巧みに利用していた。

「……素晴らしいお心がけですわ、伯爵」

 会頭夫人は、セドリックの言葉にすっかり感動し、ハンカチで目頭を押さえていた。

「まさか、これほどの芸術品を無償で提供してくださるとは……。王都の皆様にも、伯爵のその高潔なお人柄を必ずお伝えいたしますわ。ウィンザー伯爵家は、まさに貴族の鑑ですね」

「もったいないお言葉です。すべては、皆様の幸福のためですから」

 セドリックは爽やかに笑い、会頭夫人の手を取った。

 オリヴィアは、ただその光景を立ち尽くして見ていることしかできなかった。
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