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第17話:妻の冷徹な決意
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セドリックは言い捨てると、ステラの肩を抱き寄せた。
「行こう、ステラ。こんな醜い女の顔を見ていると、僕の心まで貧しくなりそうだ。君の美しい笑顔で、僕を癒してくれないか」
「はい、セドリック様。私、全力であなたをお支えしますわ」
二人は寄り添うようにして、部屋を出て行った。
重厚な扉が閉まり、再び部屋には静寂が落ちる。
床に倒れ込んだまま、オリヴィアは動けなかった。
打たれた頬の痛みよりも、心の中で何かが決定的に砕け散る音が、耳の奥で鳴り響いていた。
『君は、我が家の癌だ』
『君の才能を鼻にかけ、僕たちの崇高な活動を邪魔するな』
(私は、癌……。私は、邪魔者)
徹夜で実務をこなし、事業の黒字化を支え、彼らの無謀な尻拭いを一人で引き受けてきたオリヴィアに対して、彼が下した評価がこれだ。
実務者の命を削る労働は、彼らにとっては当然の義務であり、贖罪ですらない。
彼らは本気で、口先だけで愛を語る自分たちの方が、上位の存在であると信じ込んでいるのだ。
「……っ、ふふ……」
不意に、オリヴィアの口から、乾いた笑い声が漏れた。
それは、狂気でもなく、悲哀でもなく——完全な諦めの音だった。
(ああ……、そうね。私は、間違っていた)
彼らは、話が通じる相手ではない。
現実や数字や「労をいくら訴えても、彼らはそれを「心が貧しい」「傲慢だ」という道徳の刃で切り捨ててしまう。
彼らの辞書に、他者への真の思いやりや、実務への敬意など存在しない。
あるのは、無限に膨張する自己愛と名声欲だけだ。
オリヴィアがここで血を吐いて倒れても、彼らは可哀想な妻のために祈る美しい自分たちに酔いしれるだけで、痛痒など感じないのだ。
(もう、十分だわ。……もう、いい)
オリヴィアは、ゆっくりと体を起こした。
床に散らばった最高級のレース。
編みかけの銀のボビン。
それらを見下ろす彼女の瞳からは、先ほどまでの絶望も、悲痛さも、全て消え去っていた。
残っていたのは、底冷えするような、静かな氷の意志だけ。
心の中で、何かが音を立てて切れた。
それは長年彼女を縛り付けていた、自分が我慢すれば、波風を立てたくないという、呪いのような鎖が断ち切られた音だった。
「完成させてやるわ。あなたの望む通りに」
オリヴィアは、切れた唇の血を手の甲で拭いながら、誰もいない部屋で静かに呟いた。
怒りはなく、冷徹な決意。
彼らが一番困るタイミングで、全てを捨てて姿を消す。
オリヴィアという実務者がいなければ、彼らは何も生み出せないただの無能だという現実を、国家規模の舞台で、嫌というほど思い知らせてやるために……。
「行こう、ステラ。こんな醜い女の顔を見ていると、僕の心まで貧しくなりそうだ。君の美しい笑顔で、僕を癒してくれないか」
「はい、セドリック様。私、全力であなたをお支えしますわ」
二人は寄り添うようにして、部屋を出て行った。
重厚な扉が閉まり、再び部屋には静寂が落ちる。
床に倒れ込んだまま、オリヴィアは動けなかった。
打たれた頬の痛みよりも、心の中で何かが決定的に砕け散る音が、耳の奥で鳴り響いていた。
『君は、我が家の癌だ』
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実務者の命を削る労働は、彼らにとっては当然の義務であり、贖罪ですらない。
彼らは本気で、口先だけで愛を語る自分たちの方が、上位の存在であると信じ込んでいるのだ。
「……っ、ふふ……」
不意に、オリヴィアの口から、乾いた笑い声が漏れた。
それは、狂気でもなく、悲哀でもなく——完全な諦めの音だった。
(ああ……、そうね。私は、間違っていた)
彼らは、話が通じる相手ではない。
現実や数字や「労をいくら訴えても、彼らはそれを「心が貧しい」「傲慢だ」という道徳の刃で切り捨ててしまう。
彼らの辞書に、他者への真の思いやりや、実務への敬意など存在しない。
あるのは、無限に膨張する自己愛と名声欲だけだ。
オリヴィアがここで血を吐いて倒れても、彼らは可哀想な妻のために祈る美しい自分たちに酔いしれるだけで、痛痒など感じないのだ。
(もう、十分だわ。……もう、いい)
オリヴィアは、ゆっくりと体を起こした。
床に散らばった最高級のレース。
編みかけの銀のボビン。
それらを見下ろす彼女の瞳からは、先ほどまでの絶望も、悲痛さも、全て消え去っていた。
残っていたのは、底冷えするような、静かな氷の意志だけ。
心の中で、何かが音を立てて切れた。
それは長年彼女を縛り付けていた、自分が我慢すれば、波風を立てたくないという、呪いのような鎖が断ち切られた音だった。
「完成させてやるわ。あなたの望む通りに」
オリヴィアは、切れた唇の血を手の甲で拭いながら、誰もいない部屋で静かに呟いた。
怒りはなく、冷徹な決意。
彼らが一番困るタイミングで、全てを捨てて姿を消す。
オリヴィアという実務者がいなければ、彼らは何も生み出せないただの無能だという現実を、国家規模の舞台で、嫌というほど思い知らせてやるために……。
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