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第45話:塵となる虚飾
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王宮の大聖堂は、荘厳な音楽と各国の賓客たちの熱気に包まれ、建国記念の大祭典の始まりを今か今かと待ちわびていた。
祭壇の前には、王族が鎮座する特別席が設けられており、その周囲を飾るはずのウィンザー伯爵家が無償で献上する、十五メートルの最高級レースの到着を、全ての視線が探していた。
「ウィンザー伯爵はまだか? 献上の儀式が遅れれば、祭典の進行に関わるぞ」
「なんでも、ステラ・ノースコート嬢が愛の象徴として広げるという演出らしいが……」
貴族たちの囁き声が広がる中、大聖堂の重厚な扉がギィッと開いた。
しかし、そこに現れたのは、誇らしげに巨大な装飾品を掲げる名君でも、輝く笑顔で愛を振り撒く聖女でもなかった。
青ざめ、滝のような冷や汗を流しながら、手ぶらでよろめくように歩みを進めるセドリックと、純白のドレスの裾を震わせ、今にも泣き出しそうな顔で彼にすがりつくステラだった。
「……ウィンザー伯爵? 装飾品はどちらに?」
式典を取り仕切る王室の重鎮が、怪訝な顔で問い詰めた。
セドリックは、王族の冷ややかな視線と、何百人もの貴族たちの好奇の目に晒され、膝の震えを止めることができなかった。
「も、申し訳ございません……っ!」
彼は、その場に崩れ落ちるように土下座をした。
「装飾は……、間に合いませんでした……! 妻が……、妻のオリヴィアが、直前になって重い病に倒れ、最後の仕上げがどうしても……!」
彼が絞り出したのは、オリヴィアが「自分の名に傷がつく」と拒否した、最低の言い訳だった。
大聖堂は一瞬の静寂の後、どよめきに包まれた。
「間に合わなかっただと……? 国家の祭典で、王室の依頼を反故にしたというのか!」
「無償で担うと大見得を切っておきながら、手ぶらで現れるとは何事か!」
重鎮の怒号が響く。
「伯爵! 妻が倒れたのなら、なぜ他の職人を手配しなかった! 王室の紋章を編み込むだけの図案なら、王都のギルドにいくらでも腕利きがいるだろう!」
「そ、それは……!」
セドリックは、息を呑み、言葉に詰まった。
言えるはずがない。
「妻の特許製法だから、彼女の許可なしには誰も作れない」などと。
しかも、その特許を自らの手で譲渡してしまった大間抜けであると、公の場で告白することなど、彼の肥大したプライドが許さなかった。
「ステラ嬢! あなたは『私が王族の方々に愛を届ける』と、連日お茶会で吹聴していたではないか!」
非難の矛先は、ステラにも向かった。
「ち、違います! 私は悪くありません!」
ステラは、パニックになり、顔を真っ赤にして甲高い声を上げた。
「全部、奥様のせいなんです! あの女が……、私の晴れ舞台を嫉妬して、わざとレースを隠したんです! 私が悪いわけじゃ……!」
「……見苦しいぞ、ノースコート男爵令嬢」
冷ややかな声が、王族の席から降ってきた。
「手柄を独占しようとする時は前に出て、責任を取る時は裏方に押し付ける。それが、あなたの言う無私の愛か」
ステラは、王族からの直接の叱責にヒッっと息を呑み、そのまま床にへたり込んで泣き崩れた。
彼女の聖女としてのメッキは、この瞬間、王都の全貴族の前で完全に剥がれ落ちたのだ。
「ウィンザー伯爵。国家への不敬、および祭典の進行を妨害した罪は極めて重い。追って沙汰を下すが、莫大な違約金は免れないと思え。……今すぐ、この神聖な場から立ち去れ!」
「あ……」
セドリックは、完全なる社会的な公開処刑を受け、頭の中が真っ白になった。
彼が長年、妻の命を削って築き上げてきた名君という虚飾は、彼自身の無能さと傲慢さによって、ものの数分で塵と消えた。
衛兵に両脇を抱えられ、ステラと共に大聖堂から引きずり出される彼の背中には、かつての称賛ではなく、侮蔑と嘲笑の視線だけが突き刺さっていた。
祭壇の前には、王族が鎮座する特別席が設けられており、その周囲を飾るはずのウィンザー伯爵家が無償で献上する、十五メートルの最高級レースの到着を、全ての視線が探していた。
「ウィンザー伯爵はまだか? 献上の儀式が遅れれば、祭典の進行に関わるぞ」
「なんでも、ステラ・ノースコート嬢が愛の象徴として広げるという演出らしいが……」
貴族たちの囁き声が広がる中、大聖堂の重厚な扉がギィッと開いた。
しかし、そこに現れたのは、誇らしげに巨大な装飾品を掲げる名君でも、輝く笑顔で愛を振り撒く聖女でもなかった。
青ざめ、滝のような冷や汗を流しながら、手ぶらでよろめくように歩みを進めるセドリックと、純白のドレスの裾を震わせ、今にも泣き出しそうな顔で彼にすがりつくステラだった。
「……ウィンザー伯爵? 装飾品はどちらに?」
式典を取り仕切る王室の重鎮が、怪訝な顔で問い詰めた。
セドリックは、王族の冷ややかな視線と、何百人もの貴族たちの好奇の目に晒され、膝の震えを止めることができなかった。
「も、申し訳ございません……っ!」
彼は、その場に崩れ落ちるように土下座をした。
「装飾は……、間に合いませんでした……! 妻が……、妻のオリヴィアが、直前になって重い病に倒れ、最後の仕上げがどうしても……!」
彼が絞り出したのは、オリヴィアが「自分の名に傷がつく」と拒否した、最低の言い訳だった。
大聖堂は一瞬の静寂の後、どよめきに包まれた。
「間に合わなかっただと……? 国家の祭典で、王室の依頼を反故にしたというのか!」
「無償で担うと大見得を切っておきながら、手ぶらで現れるとは何事か!」
重鎮の怒号が響く。
「伯爵! 妻が倒れたのなら、なぜ他の職人を手配しなかった! 王室の紋章を編み込むだけの図案なら、王都のギルドにいくらでも腕利きがいるだろう!」
「そ、それは……!」
セドリックは、息を呑み、言葉に詰まった。
言えるはずがない。
「妻の特許製法だから、彼女の許可なしには誰も作れない」などと。
しかも、その特許を自らの手で譲渡してしまった大間抜けであると、公の場で告白することなど、彼の肥大したプライドが許さなかった。
「ステラ嬢! あなたは『私が王族の方々に愛を届ける』と、連日お茶会で吹聴していたではないか!」
非難の矛先は、ステラにも向かった。
「ち、違います! 私は悪くありません!」
ステラは、パニックになり、顔を真っ赤にして甲高い声を上げた。
「全部、奥様のせいなんです! あの女が……、私の晴れ舞台を嫉妬して、わざとレースを隠したんです! 私が悪いわけじゃ……!」
「……見苦しいぞ、ノースコート男爵令嬢」
冷ややかな声が、王族の席から降ってきた。
「手柄を独占しようとする時は前に出て、責任を取る時は裏方に押し付ける。それが、あなたの言う無私の愛か」
ステラは、王族からの直接の叱責にヒッっと息を呑み、そのまま床にへたり込んで泣き崩れた。
彼女の聖女としてのメッキは、この瞬間、王都の全貴族の前で完全に剥がれ落ちたのだ。
「ウィンザー伯爵。国家への不敬、および祭典の進行を妨害した罪は極めて重い。追って沙汰を下すが、莫大な違約金は免れないと思え。……今すぐ、この神聖な場から立ち去れ!」
「あ……」
セドリックは、完全なる社会的な公開処刑を受け、頭の中が真っ白になった。
彼が長年、妻の命を削って築き上げてきた名君という虚飾は、彼自身の無能さと傲慢さによって、ものの数分で塵と消えた。
衛兵に両脇を抱えられ、ステラと共に大聖堂から引きずり出される彼の背中には、かつての称賛ではなく、侮蔑と嘲笑の視線だけが突き刺さっていた。
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