何の変哲もない違和感

欲しさの強盗

 ある日の深夜、あるコンビニに一人の客がやってきた。
 フードを被ってパーカーを着ている。顔は見えない。だから、男か女かも分からない。
 その客はしばらく店内をうろつき、何も取らず持たぬままレジへと向かった。
 バイト風の青年はその客について、何も取らないまま来たが、タバコでも買いに来たのかな、と思った。
 と、次の瞬間、その客はものすごい速さでズボンのポケットから拳銃らしきものを出し、青年に向けた。
「おい、おとなしく…を出せ」
 意外と普通の顔をした男の強盗であることがわかった。
 銃を向けられた青年は恐怖でパニック状態になってしまった。
 そして青年は、『おとなしく…』から『…を出せ』までの間に強盗がいったい何を言ったのかも聞き取れていなかった。
 しかしこういう場合、強盗であるから金を要求しているのだろうと青年は考えたので、千円札十枚(計一万円)を強盗に渡そうとした。
 それを見た強盗は首を横にぶんぶんと振った。
 まだ足りないのか、と考えた青年は精算機から更に一万円札十枚(計十万円)を加えて強盗に渡そうとした。しかし強盗は再び首を横に振る。
 そしてなんと、精算機の中の金が綺麗になくなってしまった。
「これ以上は無理です！許してください。もし殺すなら、ひと思いに殺してもらっても構いません。ですから、このわずかなお金だけはどうか盗らないでくださいお願いします……」
 青年が強盗に必死に懇願すると、強盗はなぜか首を傾げた。
「さっきからおまえは何を言っているんだ。おれが欲しいのは、それだ」
 そう言って強盗が指さしたのは、紛れもない精算機そのものであった。
「金はいらない。金全部抜いてこちらに渡すんだ」 
 この突然の出来事に青年は拍子抜けしたが、言われた通りのことをしてやった。
 すると強盗は精算機を抱えて店を飛び出して行ってしまった。
 何だったんだあいつは。青年はそう思ったのと同時に、不敵な笑みを浮かべていた。
「しかし、やつがまさか精算機を盗むとは思わなかった。だが、おかげでこれはすべてぼくのものだ」
 そう言って青年はレジの下に隠しておいた約三十万ほどの金が入ったリュックサックを引っ張り出した。
「ぼくのあとに違う強盗が来たのはちょっぴり予想外で驚いたが、ばかでおかしいやつでよかった。精巧に作られたこの偽札にも気付かず首を横に振っていたな。まったく、おかしな話だ。おっと、忘れていた。バックヤードで拘束しておいたあのバイトを早く始末しなくては……」