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彼女の森
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「まぁ! 一体どうなさったのです!?」
城へ戻ったアミルは、目の前の信じられない光景に思わず声を上げた。
玉座に座るその男の身体には、まだ真新しく、夥しい数の傷が刻まれていた。
頭に生えた対の大きな角も、精悍な顔も、筋骨隆々とした身体も。
無傷な部分を探すのが難しいほどに。
周りでは、数人の女魔族が男に向けて治癒魔法を詠唱していた。
「お父様…?」
命すら危うい深手を負って尚、その男は笑っていた。
「あのエルフ共……。クックック。やはり、そう易くはないか」
その名はオルガニック。
ガジガラを統べる魔族の王であり、
アミルの父親であった。
「おお、アミルよ。戻ったか」
オルガニックが、アミルに気づいて声をかけた。
「あ、はい。お父様、その傷は一体?」
「ん? ああ、これか。なに、大した傷ではない。言うなればそう――愛の鞭。愛の鞭を受けただけだ」
一人納得し頷いたオルガニックの意味不明な言葉に、アミルはそれ以上何も聞かなかった。
大方、どこぞの女性を襲ってつけられた傷なのだろう。
傷の理由よりも、魔王に深手を負わせた相手の方が気になったが、やはり何も聞かなかった。
「それより、今日はお前の婚約者が来る予定であったはずだ。知らなかったわけではあるまい」
咎める様な父親の言葉に、アミルは少しだけ俯いた。
「また、あの森に行っていたのか?」
その問いに、アミルは答えなかった。
暇を見つけては森に行っているのは周知の事実であったが、オルガニックはそれを良しとはしなかった。禁止こそされないものの、控えるように言われている。
「来客を待たせるなど言語道断だ。そんな様になるのなら、あの森を消してしまってもいいのだぞ?」
「そんなっ!」
オルガニックの一言に、アミルが悲痛な声をあげた。
「ならば、二度とそのような真似はするな」
「はい……申し訳ありませんでした……」
オルガニックは、治癒魔法を唱えている周囲の魔族を手で制すと、玉座を立ち、深く俯いたアミルの頭に軽く手を置いた。
「失ったモノに縛られていても何も生まれん。お前には果たすべき使命があるのだ」
――早く――子を生め。
その言葉は、子供を諭すようでも、言い捨てるようでもあった。
「はい……お父様……」
去っていく父の足音を聞きながら、アミルはドレスの胸元を握り締めた。
城へ戻ったアミルは、目の前の信じられない光景に思わず声を上げた。
玉座に座るその男の身体には、まだ真新しく、夥しい数の傷が刻まれていた。
頭に生えた対の大きな角も、精悍な顔も、筋骨隆々とした身体も。
無傷な部分を探すのが難しいほどに。
周りでは、数人の女魔族が男に向けて治癒魔法を詠唱していた。
「お父様…?」
命すら危うい深手を負って尚、その男は笑っていた。
「あのエルフ共……。クックック。やはり、そう易くはないか」
その名はオルガニック。
ガジガラを統べる魔族の王であり、
アミルの父親であった。
「おお、アミルよ。戻ったか」
オルガニックが、アミルに気づいて声をかけた。
「あ、はい。お父様、その傷は一体?」
「ん? ああ、これか。なに、大した傷ではない。言うなればそう――愛の鞭。愛の鞭を受けただけだ」
一人納得し頷いたオルガニックの意味不明な言葉に、アミルはそれ以上何も聞かなかった。
大方、どこぞの女性を襲ってつけられた傷なのだろう。
傷の理由よりも、魔王に深手を負わせた相手の方が気になったが、やはり何も聞かなかった。
「それより、今日はお前の婚約者が来る予定であったはずだ。知らなかったわけではあるまい」
咎める様な父親の言葉に、アミルは少しだけ俯いた。
「また、あの森に行っていたのか?」
その問いに、アミルは答えなかった。
暇を見つけては森に行っているのは周知の事実であったが、オルガニックはそれを良しとはしなかった。禁止こそされないものの、控えるように言われている。
「来客を待たせるなど言語道断だ。そんな様になるのなら、あの森を消してしまってもいいのだぞ?」
「そんなっ!」
オルガニックの一言に、アミルが悲痛な声をあげた。
「ならば、二度とそのような真似はするな」
「はい……申し訳ありませんでした……」
オルガニックは、治癒魔法を唱えている周囲の魔族を手で制すと、玉座を立ち、深く俯いたアミルの頭に軽く手を置いた。
「失ったモノに縛られていても何も生まれん。お前には果たすべき使命があるのだ」
――早く――子を生め。
その言葉は、子供を諭すようでも、言い捨てるようでもあった。
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去っていく父の足音を聞きながら、アミルはドレスの胸元を握り締めた。
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