性剣セクシーソード

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二章

ダンディー貴族

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 しばらく二人で星を見上げていたら、お腹の虫がなった。
 幼女と星空の組み合わせは時間を忘れさせてくれたけど、空腹までは忘れさせてくれないらしい。
「流石にお腹空いたな」
 ペロ様も頷く。
 デカフグリに着く前に貰った食料が残っているはずだが、酒場に置いて来ている。

「どうしようか」
 口に出してみたところで、実際どうしようもない。
 中に入って食料を調達するという手もあるが、それなら最初にしびれをきらした時点で行くべきだった。ここまで待ってしまった以上、選択肢は無いに等しい。
「丁度良くニーヤかモミさんが出てきてくれたりしないかな」
 そんな淡い期待を呟いてみると、まるで星が願いを叶えてくれたかのように扉が開いた。
 そのタイミングの良さに空を見上げるも流れ星はなく、出てきたのはニーヤでもモミさんでもない。

「んん? おお! これはきゃわいいのぉ~」
 脂でテカった顔を真っ赤に染めた貴族が声を上げる。
 その視線は――ペロ様だ。
「どれ、そんなとこにいても退屈だろう? うへへ、わしと遊ぼうじゃないか」
 千鳥足でこっちに向かってくると、その手をペロ様の頭へ伸ばす。
――パアン!
「な、貴様っ! 何をする!?」
 鳴り響いた音に自分でも驚いた。
 軽くはたくつもりだったんだけど、無意識に力がはいっていたらしい。
 まぁ、薄ら笑いを浮かべ幼女に手を伸ばす輩にロクなやつはいない。多少の嫌悪感がプラスされたのだろう。
 決して同族嫌悪ではない。

「し、失礼! でも、突然女性に触れようとするのは、あ、あまり感心しませんね!」
 半分しどろもどろだが、別にびびってるわけじゃない。  
 そう――護衛らしく振舞おうとして失敗しただけだ。

「くっ。まぁいい。いくらだ?」
「え?」
 男は嫌らしく笑うと、懐から皮袋を取り出すと、僕の足元に放り投げた。
 目の前の男と同じ、まるまると太った皮袋を。
「お前が汗水たらして働いても到底手に入らぬ金額だ。一晩でこれなら十分すぎる額だろう?」
 その言葉は、僕の拳を握らせるには十分すぎた。
 だが、そんな僕の拳を、ペロ様が包むように握り首を振る。
 ああそうだ。こんな奴。殴る価値もないんだ。
「もうしわけありませんが、こちらは地面に放り投げられるほど安くはないのです。お引取り下さい」
 地面に落ちた皮袋を拾い上げ、男に突き出す。
――きまった! 僕かっこいい! と心で思った。

「ば、ば、馬鹿にしおって! わしを誰だと思ってるんだ!」
 皮袋が叩き落とされ、その拍子に中身がちらばる。
 突然発せられた大声に身体がすくむ。
 え、そこは大人しく引き上げる場面じゃないの? スマートに終わらせるんじゃないの!?
「あ、え、ちょっとおちつい――」
「どうしたんだ?」
 声がした方を振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
 綺麗に整えられた髭が上品さをかもし出す、ダンディーな中年男性だ。
 多分貴族だろうが、同じ貴族でも目の前の男より貴族らしい。

「おお! いいところに! この門番がわしに恥をかかせたのだ!」
 いつの間にか僕は門番になっていたらしい。それなら賃金の一つや二つもらえてもいいんじゃないかと思った。
「門番? ふむ……」
 ダンディー貴族が、いぶかしむ様に僕の顔を見る。
 続けて、足元に散らばる金貨に視線を落とした。
「大金を払ってやると言ってるんだ。夜更けにこんな場所にいるんだ。どうせ大した身分ではないのだろう!」
 一度収めたはずの怒りが。ほどいたはずの指が再び固まっていく。
 中で必死に働いている二人の事もすっかり忘れ、そのまま感情に身を任せ。
「ぐはぁっ!?」
 太った男が地面に転がる。

 あれ? 一体何が起こったんだ?
 僕の拳は、発射準備に入っているけどまだ射出されていない。
 そうか! コレが噂に聞く闘気か!
 相手に触れることなく吹き飛ばす――なんて特技はない。少なくとも僕には。

 真実は単純だ。
 ダンディー貴族の握り締めた拳が全てを物語っている。
「なっ、何をする!」
「何をするだと? 自分の敷地に迷い込んだ不届き者に制裁を加えただけだ。さぁ、今すぐお引取り願おう!」
「きっ、貴様! 何を言っているのか分かってるのか! 今後の取引がどうなってもいいと言うんだな!?」
「私が取引するのは人だ。豚ではない」
 嫌悪感あらわにそう言い捨てると、貴族は僅かにたじろぎつつ足元の金貨を拾い集める。
 その姿は、本当に餌に群がる豚のようだった。豚さんに失礼だが。

「あ、ありがとうございます」
 ダンディー貴族にお礼を言うと、彼は優しく微笑む。
「いや、こちらの方こそ面倒をかけた。ところで、君達は一体何故こんなところにいるのかね? 門番を雇った覚えはないんだが」
 事情を説明すると、彼はいかにも弱ったという風に額を押さえた。
「……すまない。あの従者だが、どうも最近は物忘れがひどくなっているようで、大方仕度に手間取っているうちに忘れてしまっていたのだろう。主人として詫びよう。本当に申し訳ない」
「いえいえ、気にしないで下さい。……主人って――もしかしてヴィクトラードさんですか?」
「さよう、私がヴィクトラードだ」
 目の前のダンディー貴族がヴィクトラード。
 トートさんの娘を奴隷として奪った張本人。
 だが、何故だろう。彼に嫌悪感を抱くことは出来なかった。
 さっきの貴族とのやり取りを見ても、彼がそんな事をする人間には思えなかった。

「あ、あの――」
 僕が口を開くと同時に、屋敷の門が勢いよく空いた。
 飛び跳ねるように出てきたのは真っ白なうさぎ――じゃない、ニーヤだ。そして、それを追うように黒うさぎ――モミさんも。
「う、う、う、あ、あ――」
 両拳を握り締めうめき声を漏らすニーヤ。何かを必死に抑えているのだろうが、抑えきれず咆哮に変わった。

「あああああああああああああ! 何なのよあいつら! ベッタベタ触ってきてさ! ほんっと気持ち悪いったらないわ! 短剣があったらその手をまとめて串刺しにしてそのままテーブルに載せてやりたいくらいよ! 死ね! くたばれ! 貴族なんて皆死んでしまえばいいのよ! ああ! もう、ほんっと頭にくるわ!」
 よっぽど頭に来ているんだろう。両手をはためかせながら憎悪を撒き散らす様は、見ていてちょっと引く。でも、中で爆発させなかっただけ僕は彼女を称えたい。
「って――何でアンタ達ここにいるわけ? 姿が見えなかったからてっきり娘を探してるんだと思ってたんだけど。もしかしてずっとここにいたわけ!?」
 僕は苦笑いで頭をかく事しかできない。
 少し呆れ顔のニーヤは隣に立つヴィクトラードを見て、「誰それ?」みたいな視線を投げかけてきた。

「あ、この人がヴィクトラードさん――みたい……」
「げっ」
 あからさまに「しまった!」みたいな表情に変わるニーヤ。
 まぁ。雇い主の前で吐き捨てるには少し度が過ぎた内容だったのかもしれない。
 ってか会ってないのかよ。紹介すらされてないのかよ。あのじいさんどんだけボケているんだ。

「娘……? 一体何の事だね?」
 首をかしげるヴィクトラードを見て、僕は全てを話す事にした。
 トートさんに頼まれたわけじゃないと前置きをしつつ、娘を奪った理由を聞かせて欲しいと。出来る事なら取り返したいとも。
 これは危険な賭けだったのかもしれない。相手が逆上して話がややこしくパターンもあるんだろう。
 でも、僕はそうならないと確信していた。
 彼は焦燥した顔で「そうか」と呟き。
「そろそろ宴も終わる頃だ。話を聞いてもらえるかね?」
 と、僅かに懇願を含んだ声を出したのだった。
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