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二章
力、及ばず
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「まさか――どうして!?」
どうして人殺しなんだ。
困ってる人を助けるような人が、どうしてこんな事をしているんだ。
「どうしてだと? ああ、お前は道で死にそうになっていた奴だったな」
「そうだ。お前は――僕達を助けてくれたじゃないか! なのにどうして人殺しなんてするんだ!」
「ふ、ははっ」
目の前の男が笑う。
「人殺しが人を助ける事はありえないか? 人を助けるものが人を殺す事はありえないか? 違うだろう? 行動などその瞬間の気分にしか過ぎない。お前は機嫌がいい時も悪い時も同じ行動をとるのか?」
何も言い返す事が出来ない。
「お前も俺と同じだよ。貴族の娘に随分恨まれたみたいじゃないか。一緒に旅をしていた女はどうした? 三人いてもまだ足りなかったらしい。人の事を言えた義理か?」
「そっ、それは――!」
そうか、僕はそういう設定になっているんだった。
「――おしゃべりが過ぎたな。殺す相手に口を開いたのは久しぶりだ。心配するな。一瞬で終わる」
そう言って男が構える。
相手の武器が見えない。何を持っている? 短剣か? 勝てるか?
万が一襲われたら逃げなよ。アンタじゃ絶対敵わないから――。
ニーヤの言葉を思い出す。
もしかして――ニーヤは知っていた?
こいつから食料を貰ったとき、ニーヤはどこか不機嫌そうな顔をしていた。
見抜いていたんだ。こいつが悪人だって事を。
そして、もしかしたら人喰らいの凶手かもしれないと思った。
だから言い切ったんだ。
実力を見抜いた上で、僕じゃ敵わないと。
――やっぱニーヤはすごいよ。
セクシーソードを鞘に収める。
「どうした? 覚悟を決めたのか?」
「いや、そうじゃない――」
ニーヤの観察眼に間違いは無い。
だったら信じるだけだ。
「――逃げる!」
走った。ひたすら走った。
とりあえず何処か人気のある場所へ――。
その時、突然身体が宙に浮いた。
つまづいた! そう思った瞬間、勢いよく地面に転がる。
――だせぇ! 僕めっちゃダサい! つまづいてる場合かよ!
だが立ち上がった直後、つまづいたわけじゃない事に気づく。
足首を締め付ける違和感に。
「逃がすと思ったか?」
僕の足首から伸びる一本の線は、男の手元へと繋がっていた。
これは――鞭!?
「甘いんだよっ!」
強烈な力が足首にかかり、身体が地面から離れる。
遠心力が速度を上げていく。なすすべもなく、そのまま壁に叩きつけられた。
「がはっ!」
高所から突き落とされたような衝撃が、鎧の防御力を貫通して全身に伝わる。
「一度は助けておいて――悪いな。これも仕事なんでね」
身体が動かない。視界が霞む。
男が何かを振り上げた。
もう――ダメか。
ズン! と衝撃で地面が揺れた。
僕の目の前には、鼻先には、見覚えのある鋼鉄のメイスが地面に突き刺さっている。
「モ……モミさん……」
「チッ! 外れましたか。ケンセイさん、大丈夫ですか!?」
モミさんが悔しそうに顔を歪ませる。来てくれたんだ。
「なんとか……大丈夫……です」
でも、後数センチずれてたら殺されてました。モミさんに。
「邪魔をするな女。そんな屑をかばったところで良い事などない。お前も一緒に殺すぞ」
「その前に、貴方の骨が砕ける音を聞かせてもらえませんか?」
モミさんが浮かべた微笑からは、慈愛の面影が消えていた。
勢いよく飛び出すと、男の脳天にメイスを振り下ろす。
地面をえぐる音。飛び散る破片。
かわされた!
だが、すぐさま振りかぶり猛攻をしかける。
かすっただけで肉をえぐり、直撃すれば骨を押しつぶすメイス。
だが男を捕らえることは出来ない。
振り下ろしたメイスに、モミさんが苦悶の表情を浮かべた時だった。
「中々だな――だがそこまでだ」
地面にめり込んだ一瞬の隙に、鞭がそれをからめとった。
だが、モミさんはすぐさま手を離し、胸の間から短剣を抜き取った。
ってそんなとこに!?
「単調すぎますわよ!」
一瞬で距離を詰める。
男の鞭はまだメイスに巻き付いたまま。
――やった!
そう思った瞬間だった。
まるで見えない壁に遮られているかのように、短剣は男の首元で止まっている。
「単調なのはどっちだろうな?」
短剣――いや、モミさんの手は鞭で縛られていた、
「一本だけかと思ったか? 残念だったな」
そう言って、もう一本の鞭をモミさんの足に絡ませる。
「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
彼女の身体が宙に浮く。
壁が鈍い音を響かせた。
「モミさん! モミさん!」
激しく壁に叩きつけられた彼女は、意識こそなかったものの、かろうじて生きている。
「どうして女と言うのはこれほど馬鹿な生き物なんだろうな。こんな男、救う価値などないただの屑だと気づかない。哀れなものだ」
「この野郎――」
柄にかけた手が、鞭によって束縛される。剣が――抜けない。
「もう諦めろ。心配するな、殺すのはお前だけだ」
その言葉は多分嘘じゃない。敵ながら――そう信じられた。
「ははっ」
僕は笑った。これから殺されるのに、何故か笑いがこみ上げてきた。
「何がおかしい?」
「馬鹿はお前だよ。モミさんが騙されてる? 騙されてるのが自分だって事にまだ気づかないのか?」
「……何だと?」
「僕が貴族の娘に恨まれてるって? そんな娘がどこにいるんだ? 童貞の僕が弄んだ金髪の美女はどこにいるんだよ。会ってみたいよ。連れて来てくれよ」
――出来る事なら弄ばせてくれよ。
「なっ! まさか!」
「そうだよ。お前も知ってるだろ? 僕達は四人でいたんだ。そこにいるモミさんと、小さい女の子。そして赤毛の女の子。お前のアジトが今どうなって――」
もう一本の鞭が、僕の首を絞めつける。
「貴様等……何が目的だ!」
「お前に……さらわれた女の子……ドラーシュの子達は……きっと彼女達が助け出してるはずだ……」
ニーヤ達なら大丈夫。きっと皆を助けてるはずだ。
「かっこ……悪いぜ……お前……。何が人喰らいの凶手……だよ……。顔を隠してるその布……僕のしょんべんまみれだって……忘れてるのか……?」
頭がボーっとする。男の姿はもう見えない。
「しょんべん……小僧に……改名しやが……れ……」
バッドエンド?
いや、これでいい。
誰かを助けられたなら――悔いはないさ。
どうして人殺しなんだ。
困ってる人を助けるような人が、どうしてこんな事をしているんだ。
「どうしてだと? ああ、お前は道で死にそうになっていた奴だったな」
「そうだ。お前は――僕達を助けてくれたじゃないか! なのにどうして人殺しなんてするんだ!」
「ふ、ははっ」
目の前の男が笑う。
「人殺しが人を助ける事はありえないか? 人を助けるものが人を殺す事はありえないか? 違うだろう? 行動などその瞬間の気分にしか過ぎない。お前は機嫌がいい時も悪い時も同じ行動をとるのか?」
何も言い返す事が出来ない。
「お前も俺と同じだよ。貴族の娘に随分恨まれたみたいじゃないか。一緒に旅をしていた女はどうした? 三人いてもまだ足りなかったらしい。人の事を言えた義理か?」
「そっ、それは――!」
そうか、僕はそういう設定になっているんだった。
「――おしゃべりが過ぎたな。殺す相手に口を開いたのは久しぶりだ。心配するな。一瞬で終わる」
そう言って男が構える。
相手の武器が見えない。何を持っている? 短剣か? 勝てるか?
万が一襲われたら逃げなよ。アンタじゃ絶対敵わないから――。
ニーヤの言葉を思い出す。
もしかして――ニーヤは知っていた?
こいつから食料を貰ったとき、ニーヤはどこか不機嫌そうな顔をしていた。
見抜いていたんだ。こいつが悪人だって事を。
そして、もしかしたら人喰らいの凶手かもしれないと思った。
だから言い切ったんだ。
実力を見抜いた上で、僕じゃ敵わないと。
――やっぱニーヤはすごいよ。
セクシーソードを鞘に収める。
「どうした? 覚悟を決めたのか?」
「いや、そうじゃない――」
ニーヤの観察眼に間違いは無い。
だったら信じるだけだ。
「――逃げる!」
走った。ひたすら走った。
とりあえず何処か人気のある場所へ――。
その時、突然身体が宙に浮いた。
つまづいた! そう思った瞬間、勢いよく地面に転がる。
――だせぇ! 僕めっちゃダサい! つまづいてる場合かよ!
だが立ち上がった直後、つまづいたわけじゃない事に気づく。
足首を締め付ける違和感に。
「逃がすと思ったか?」
僕の足首から伸びる一本の線は、男の手元へと繋がっていた。
これは――鞭!?
「甘いんだよっ!」
強烈な力が足首にかかり、身体が地面から離れる。
遠心力が速度を上げていく。なすすべもなく、そのまま壁に叩きつけられた。
「がはっ!」
高所から突き落とされたような衝撃が、鎧の防御力を貫通して全身に伝わる。
「一度は助けておいて――悪いな。これも仕事なんでね」
身体が動かない。視界が霞む。
男が何かを振り上げた。
もう――ダメか。
ズン! と衝撃で地面が揺れた。
僕の目の前には、鼻先には、見覚えのある鋼鉄のメイスが地面に突き刺さっている。
「モ……モミさん……」
「チッ! 外れましたか。ケンセイさん、大丈夫ですか!?」
モミさんが悔しそうに顔を歪ませる。来てくれたんだ。
「なんとか……大丈夫……です」
でも、後数センチずれてたら殺されてました。モミさんに。
「邪魔をするな女。そんな屑をかばったところで良い事などない。お前も一緒に殺すぞ」
「その前に、貴方の骨が砕ける音を聞かせてもらえませんか?」
モミさんが浮かべた微笑からは、慈愛の面影が消えていた。
勢いよく飛び出すと、男の脳天にメイスを振り下ろす。
地面をえぐる音。飛び散る破片。
かわされた!
だが、すぐさま振りかぶり猛攻をしかける。
かすっただけで肉をえぐり、直撃すれば骨を押しつぶすメイス。
だが男を捕らえることは出来ない。
振り下ろしたメイスに、モミさんが苦悶の表情を浮かべた時だった。
「中々だな――だがそこまでだ」
地面にめり込んだ一瞬の隙に、鞭がそれをからめとった。
だが、モミさんはすぐさま手を離し、胸の間から短剣を抜き取った。
ってそんなとこに!?
「単調すぎますわよ!」
一瞬で距離を詰める。
男の鞭はまだメイスに巻き付いたまま。
――やった!
そう思った瞬間だった。
まるで見えない壁に遮られているかのように、短剣は男の首元で止まっている。
「単調なのはどっちだろうな?」
短剣――いや、モミさんの手は鞭で縛られていた、
「一本だけかと思ったか? 残念だったな」
そう言って、もう一本の鞭をモミさんの足に絡ませる。
「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
彼女の身体が宙に浮く。
壁が鈍い音を響かせた。
「モミさん! モミさん!」
激しく壁に叩きつけられた彼女は、意識こそなかったものの、かろうじて生きている。
「どうして女と言うのはこれほど馬鹿な生き物なんだろうな。こんな男、救う価値などないただの屑だと気づかない。哀れなものだ」
「この野郎――」
柄にかけた手が、鞭によって束縛される。剣が――抜けない。
「もう諦めろ。心配するな、殺すのはお前だけだ」
その言葉は多分嘘じゃない。敵ながら――そう信じられた。
「ははっ」
僕は笑った。これから殺されるのに、何故か笑いがこみ上げてきた。
「何がおかしい?」
「馬鹿はお前だよ。モミさんが騙されてる? 騙されてるのが自分だって事にまだ気づかないのか?」
「……何だと?」
「僕が貴族の娘に恨まれてるって? そんな娘がどこにいるんだ? 童貞の僕が弄んだ金髪の美女はどこにいるんだよ。会ってみたいよ。連れて来てくれよ」
――出来る事なら弄ばせてくれよ。
「なっ! まさか!」
「そうだよ。お前も知ってるだろ? 僕達は四人でいたんだ。そこにいるモミさんと、小さい女の子。そして赤毛の女の子。お前のアジトが今どうなって――」
もう一本の鞭が、僕の首を絞めつける。
「貴様等……何が目的だ!」
「お前に……さらわれた女の子……ドラーシュの子達は……きっと彼女達が助け出してるはずだ……」
ニーヤ達なら大丈夫。きっと皆を助けてるはずだ。
「かっこ……悪いぜ……お前……。何が人喰らいの凶手……だよ……。顔を隠してるその布……僕のしょんべんまみれだって……忘れてるのか……?」
頭がボーっとする。男の姿はもう見えない。
「しょんべん……小僧に……改名しやが……れ……」
バッドエンド?
いや、これでいい。
誰かを助けられたなら――悔いはないさ。
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