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二章
新しい仲間
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「お……おぅ……」
宿を出た僕達を待っていたのは、引き締まった真っ白な身体に、赤茶色の長いたてがみを髪の毛のように垂らしたイケメンの馬だった。
まるでもこもこのブーツを履いているとも見える足毛もお洒落だ。
お洒落のイケメンだ。
「どうだね。気に入ってくれたね?」
ヴィクトラードさんが誇らしげに言う。
馬も凄いが、それだけじゃない。
荷馬車だと思っていたが、それは幌馬車で、まさに貴族が乗るのに相応しい装飾がなされた立派なモノだった。
立派過ぎて――僕達は引いた。
「き、気に入るわけないでしょ! 馬はともかくとして、こんな恥ずかしい馬車に乗ってなんていられないわ。さっさと取り替えてもらえる?」
「何……だと……? こ、ここを良く見てくれ! シキラバの上質な部分だけを使った御者台だ! 長時間乗っても疲れる事はない! それにこの幌だって、タップリと油を染み込ませた革を使っている。例え大雨に打たれようとも――」
「無理。恥ずかしい」
必死に馬車の素晴らしさを力説するヴィクトラードさんをニーヤが一蹴した。
彼女に心を折れない相手はいない。
交換されるのに大して時間はかからなかった。
馬車が質素な物に交換されたが、イケメンの馬はそのままだった。
逆に後ろが質素な分、馬のイケメンさが一層際立っている。
ちょっと嫉妬した。
馬に嫉妬とか、馬鹿じゃないかと思うけれど。馬だけに。
ともかく、これから一緒に旅を続ける仲間が増えた。その事実は僕のテンションを上げる。
「この馬、名前なんていうんですか?」
「名前? いや、名前はないが」
ヴィクトラードさんが不思議な顔で言った。
「じゃあさ、名前考えようよ。かっこいいやつがいいな。男らしくて、強そうなやつ!」
トウカイテイオーとか! ホワイトフォンテンとか! 白王《はくおう》とか!
そんな僕をよそに、彼女達の反応は薄かった。
まるで温度差が違った。
「名前をつけるのは……その……」
モミさんが少し困惑した様子で言葉を濁す。それにニーヤが続く。
「馬に名前をつけるのは止めたほうがいい」
真面目な顔で、諭すように。
「名前をつけたら情が沸く。犬や猫はともかく、家畜に名前をつけたりしないわ」
「そう……かな? でもさ、名前がなきゃ可哀想じゃないか?」
「可哀想――ね。もし馬が途中で怪我をしたら、アンタは自分が名づけた馬の首を落とせる?」
ニーヤの言葉は、とても薄情で意地悪に聞こえるけどそうじゃない。
割り切らないと、この世界で生きていくには辛すぎるんだ。
彼女達が普通で、当たり前。
「そっか。そうだよね。ごめん、変な事言った」
「そもそも、男らしい名前っておかしいけどね。牝馬だし」
牝だった。
そう言われると、今度は貴婦人の様に見えてくるから不思議だ。
「牡馬の方がいいかとも思ったんだが、生憎いい馬がいなかったんでな」
ヴィクトラードさんはそう言うと、小声で僕に耳打ちする。
――山羊や羊と違って、馬は危ないからな。ムラムラしても我慢するんだぞ。
「そんな事しませんよ! 何を言ってるんですか!」
まんまエロ親父じゃねーか! 貴族の仮面外しすぎだろ。
……山羊や羊ならいいのか。
こうして、僕達は町を後にした。
次の目的地はウイリア。
新しく出来た仲間のお陰で、道中は楽になるだろう。
名前をつけるなと言われていたけれど、僕は勝手に、こっそりつけていた。
愛と美を司る、ミロのヴィーナスのモチーフになったと言われる女神アフロディテ。
美神と称された神の名を借りた。美しい彼女にぴったりだと思う。
――これからよろしく、ディーナス。
心の中で彼女に言った。
僕のネーミングセンスがイマイチだなんて、自分では気づいていなかった。
宿を出た僕達を待っていたのは、引き締まった真っ白な身体に、赤茶色の長いたてがみを髪の毛のように垂らしたイケメンの馬だった。
まるでもこもこのブーツを履いているとも見える足毛もお洒落だ。
お洒落のイケメンだ。
「どうだね。気に入ってくれたね?」
ヴィクトラードさんが誇らしげに言う。
馬も凄いが、それだけじゃない。
荷馬車だと思っていたが、それは幌馬車で、まさに貴族が乗るのに相応しい装飾がなされた立派なモノだった。
立派過ぎて――僕達は引いた。
「き、気に入るわけないでしょ! 馬はともかくとして、こんな恥ずかしい馬車に乗ってなんていられないわ。さっさと取り替えてもらえる?」
「何……だと……? こ、ここを良く見てくれ! シキラバの上質な部分だけを使った御者台だ! 長時間乗っても疲れる事はない! それにこの幌だって、タップリと油を染み込ませた革を使っている。例え大雨に打たれようとも――」
「無理。恥ずかしい」
必死に馬車の素晴らしさを力説するヴィクトラードさんをニーヤが一蹴した。
彼女に心を折れない相手はいない。
交換されるのに大して時間はかからなかった。
馬車が質素な物に交換されたが、イケメンの馬はそのままだった。
逆に後ろが質素な分、馬のイケメンさが一層際立っている。
ちょっと嫉妬した。
馬に嫉妬とか、馬鹿じゃないかと思うけれど。馬だけに。
ともかく、これから一緒に旅を続ける仲間が増えた。その事実は僕のテンションを上げる。
「この馬、名前なんていうんですか?」
「名前? いや、名前はないが」
ヴィクトラードさんが不思議な顔で言った。
「じゃあさ、名前考えようよ。かっこいいやつがいいな。男らしくて、強そうなやつ!」
トウカイテイオーとか! ホワイトフォンテンとか! 白王《はくおう》とか!
そんな僕をよそに、彼女達の反応は薄かった。
まるで温度差が違った。
「名前をつけるのは……その……」
モミさんが少し困惑した様子で言葉を濁す。それにニーヤが続く。
「馬に名前をつけるのは止めたほうがいい」
真面目な顔で、諭すように。
「名前をつけたら情が沸く。犬や猫はともかく、家畜に名前をつけたりしないわ」
「そう……かな? でもさ、名前がなきゃ可哀想じゃないか?」
「可哀想――ね。もし馬が途中で怪我をしたら、アンタは自分が名づけた馬の首を落とせる?」
ニーヤの言葉は、とても薄情で意地悪に聞こえるけどそうじゃない。
割り切らないと、この世界で生きていくには辛すぎるんだ。
彼女達が普通で、当たり前。
「そっか。そうだよね。ごめん、変な事言った」
「そもそも、男らしい名前っておかしいけどね。牝馬だし」
牝だった。
そう言われると、今度は貴婦人の様に見えてくるから不思議だ。
「牡馬の方がいいかとも思ったんだが、生憎いい馬がいなかったんでな」
ヴィクトラードさんはそう言うと、小声で僕に耳打ちする。
――山羊や羊と違って、馬は危ないからな。ムラムラしても我慢するんだぞ。
「そんな事しませんよ! 何を言ってるんですか!」
まんまエロ親父じゃねーか! 貴族の仮面外しすぎだろ。
……山羊や羊ならいいのか。
こうして、僕達は町を後にした。
次の目的地はウイリア。
新しく出来た仲間のお陰で、道中は楽になるだろう。
名前をつけるなと言われていたけれど、僕は勝手に、こっそりつけていた。
愛と美を司る、ミロのヴィーナスのモチーフになったと言われる女神アフロディテ。
美神と称された神の名を借りた。美しい彼女にぴったりだと思う。
――これからよろしく、ディーナス。
心の中で彼女に言った。
僕のネーミングセンスがイマイチだなんて、自分では気づいていなかった。
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