88 / 154
二章
非道で残虐な神の一族
しおりを挟む
「ペロディア神の末裔――か。これは面白い。まだ生きていたんだねぇ」
まるで森全体で発しているような声に、全身が総毛立つ。
絶対的で、圧倒的な格の違い。位の違い。
「で、何の用だい? 真実を司る神よ」
その声の主は、すぐ目の前にいた。
地面につくほど長い翠玉色《エメラルドグリーン》の髪。
胸と腰、そして革を編みこんだブーツ。
最低限の装備が引き立たせる、贅肉の無い、鍛えられあげた身体。
切りつける様な瞳の下には、威圧感のある模様が刻まれている。
この女性が――エルフ。
「ペヌスリンを貰いに来た」
馬車の上。ペロ様が口を開く。
「ペヌスリン――か。確かにある。だが、理由を聞かせてもらえるかな?」
エルフの言葉に、ペロ様は答えない。
ただ黙ったまま、馬車の屋根から彼女を見下ろすだけ。
その態度に、エルフが一瞬顔を歪める。
「神の所有物をどう使おうが神の勝手――とでも言いたげだな」
そう吐き捨てる彼女に、思わず口が開いた。
「あ、あの――」
「黙れ」
殺意すら超越した鋭い眼差しを向けられる。
「汚らわしい下賎《げせん》の豚め。誰が口を開けと言った?」
めっちゃ嫌われてる! 初対面なのに!
「これだから豚は嫌いだ。同じ空気を吸っていると思うだけで吐き気がする。まぁ良い――」
吐き捨てるように言って、再びペロ様に視線を向ける。
「真実の神よ。お前に免じてペヌスリンは渡してやる」
エルフの口から飛び出した言葉に、僕達は驚いた。
交渉は難航、いや、決裂とさえ思えた雰囲気。
まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「その代わり――」
だが、そんなに上手く話が進むわけではない。
「対価は払ってもらうぞ」
エルフは深い森のような、不気味な笑みを浮かべた。
――良くない事が起こる。
いつか聞いたペロ様の言葉が、僕の頭の中を駆け巡っていた。
「何を望む」
ペロ様の顔が、若干険しいモノに変わる。
「愚問だな。今も昔も、神に捧げるモノと言えば決まっているだろ?」
ソレが何であるか知っていて当然。
その態度に、ペロ様が両手を広げた。
その両手には、蒼い炎。
焼かれたモノは灰一つ残さぬ。神の炎――神火《しんか》。
「おっと、早まるなよ。何が気に障ったのか知らないが、ソレはダメだ。後に引けなくなる」
彼女がそう言った瞬間。ソレらは姿を現した。
僕達をぐるりと取り囲む、無数のエルフ。
その全てが女性だが、手にはいつでも放たれるように弓が構えられている。
「勘違いするな、真実の神よ」
「神宝を使うにはそれなりの理由が必要だ。世界を動かす程の、まさに神の力が必要とされた時。言わないのは、下らない理由だからだろう?」
僕達は――あまりにも無知だった。
求めたモノが、それほどまでに重要なモノだとは知らなかった。
理由だって、世界と天秤に比べたら、秤《はかり》に乗せるのも躊躇われるほど。
神頼みだなんて言ったけど。これは冒涜だ。
浅はかで――無礼すぎる。
「だが、敬意を表して渡してやると言っているんだ。対価を払えば――な」
「ね、ねぇペロ……。対価って何なの……?」
ニーヤの問いにも、ペロ様は答えない。
「ふん。言えぬか。なら代わりに教えてやろう。神に捧げるモノはただ一つ――」
――生贄だ。
「生贄って――」
「何も捧げずに神の力を得ようなどと、本気で考えているのか?」
その言葉に、僕達は言い返す言葉を持たない。
「一人――置いていけ。それだけでいい」
最終通告。
そんな雰囲気を纏わせてエルフが言った。
「断る」
ペロ様の炎が、より一層燃え上がる。
「大人しく渡さないなら。力を行使するまで」
「横暴だな。いや、神は往々にして横暴。神らしいと言えばそうなのだろう。しかし、勝てると思っているのか? いや、お前なら無理でもない。だが、仲間はそうもいかんぞ」
ペロ様の表情が僅かに歪む。
「戦えは確実にその人間共は死ぬ。万が一も無い。確実に殺す。だが、たった一人の犠牲で、求めるものが手に入るのだ。無駄な血も流さす、五体満足で三人は帰れると言っているんだ。どれほど譲歩しているか分かっているだろう」
その言葉に、ペロ様の手から炎が消えた。
それと同時にその神々しい雰囲気も。
「帰る」
彼女は御者台に飛び移ると、呟くように言った。
これ以上の話し合いは無駄。暗にそう告げた。
「ふん。まぁよい。所詮その程度の理由。有事の際にはまた改めて来るが良い」
――その程度の理由。
一人の魔族が、人間の姉妹と共に暮らす為。
言ってみれば。世界の一大事と比べてしまえば。
そんな理由なんてとてもちっほけで、確かにその程度と言われてもしょうがない。
でも、その思いを。そんな小さな願いを。
否定して、潰して、無かった事にしてしまうのは。
僕には――出来ない。したくない。
些細な事だと、ないがしろにはしない。
どんな大樹だろうと、最初は小さな種なんだから。
まるで森全体で発しているような声に、全身が総毛立つ。
絶対的で、圧倒的な格の違い。位の違い。
「で、何の用だい? 真実を司る神よ」
その声の主は、すぐ目の前にいた。
地面につくほど長い翠玉色《エメラルドグリーン》の髪。
胸と腰、そして革を編みこんだブーツ。
最低限の装備が引き立たせる、贅肉の無い、鍛えられあげた身体。
切りつける様な瞳の下には、威圧感のある模様が刻まれている。
この女性が――エルフ。
「ペヌスリンを貰いに来た」
馬車の上。ペロ様が口を開く。
「ペヌスリン――か。確かにある。だが、理由を聞かせてもらえるかな?」
エルフの言葉に、ペロ様は答えない。
ただ黙ったまま、馬車の屋根から彼女を見下ろすだけ。
その態度に、エルフが一瞬顔を歪める。
「神の所有物をどう使おうが神の勝手――とでも言いたげだな」
そう吐き捨てる彼女に、思わず口が開いた。
「あ、あの――」
「黙れ」
殺意すら超越した鋭い眼差しを向けられる。
「汚らわしい下賎《げせん》の豚め。誰が口を開けと言った?」
めっちゃ嫌われてる! 初対面なのに!
「これだから豚は嫌いだ。同じ空気を吸っていると思うだけで吐き気がする。まぁ良い――」
吐き捨てるように言って、再びペロ様に視線を向ける。
「真実の神よ。お前に免じてペヌスリンは渡してやる」
エルフの口から飛び出した言葉に、僕達は驚いた。
交渉は難航、いや、決裂とさえ思えた雰囲気。
まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「その代わり――」
だが、そんなに上手く話が進むわけではない。
「対価は払ってもらうぞ」
エルフは深い森のような、不気味な笑みを浮かべた。
――良くない事が起こる。
いつか聞いたペロ様の言葉が、僕の頭の中を駆け巡っていた。
「何を望む」
ペロ様の顔が、若干険しいモノに変わる。
「愚問だな。今も昔も、神に捧げるモノと言えば決まっているだろ?」
ソレが何であるか知っていて当然。
その態度に、ペロ様が両手を広げた。
その両手には、蒼い炎。
焼かれたモノは灰一つ残さぬ。神の炎――神火《しんか》。
「おっと、早まるなよ。何が気に障ったのか知らないが、ソレはダメだ。後に引けなくなる」
彼女がそう言った瞬間。ソレらは姿を現した。
僕達をぐるりと取り囲む、無数のエルフ。
その全てが女性だが、手にはいつでも放たれるように弓が構えられている。
「勘違いするな、真実の神よ」
「神宝を使うにはそれなりの理由が必要だ。世界を動かす程の、まさに神の力が必要とされた時。言わないのは、下らない理由だからだろう?」
僕達は――あまりにも無知だった。
求めたモノが、それほどまでに重要なモノだとは知らなかった。
理由だって、世界と天秤に比べたら、秤《はかり》に乗せるのも躊躇われるほど。
神頼みだなんて言ったけど。これは冒涜だ。
浅はかで――無礼すぎる。
「だが、敬意を表して渡してやると言っているんだ。対価を払えば――な」
「ね、ねぇペロ……。対価って何なの……?」
ニーヤの問いにも、ペロ様は答えない。
「ふん。言えぬか。なら代わりに教えてやろう。神に捧げるモノはただ一つ――」
――生贄だ。
「生贄って――」
「何も捧げずに神の力を得ようなどと、本気で考えているのか?」
その言葉に、僕達は言い返す言葉を持たない。
「一人――置いていけ。それだけでいい」
最終通告。
そんな雰囲気を纏わせてエルフが言った。
「断る」
ペロ様の炎が、より一層燃え上がる。
「大人しく渡さないなら。力を行使するまで」
「横暴だな。いや、神は往々にして横暴。神らしいと言えばそうなのだろう。しかし、勝てると思っているのか? いや、お前なら無理でもない。だが、仲間はそうもいかんぞ」
ペロ様の表情が僅かに歪む。
「戦えは確実にその人間共は死ぬ。万が一も無い。確実に殺す。だが、たった一人の犠牲で、求めるものが手に入るのだ。無駄な血も流さす、五体満足で三人は帰れると言っているんだ。どれほど譲歩しているか分かっているだろう」
その言葉に、ペロ様の手から炎が消えた。
それと同時にその神々しい雰囲気も。
「帰る」
彼女は御者台に飛び移ると、呟くように言った。
これ以上の話し合いは無駄。暗にそう告げた。
「ふん。まぁよい。所詮その程度の理由。有事の際にはまた改めて来るが良い」
――その程度の理由。
一人の魔族が、人間の姉妹と共に暮らす為。
言ってみれば。世界の一大事と比べてしまえば。
そんな理由なんてとてもちっほけで、確かにその程度と言われてもしょうがない。
でも、その思いを。そんな小さな願いを。
否定して、潰して、無かった事にしてしまうのは。
僕には――出来ない。したくない。
些細な事だと、ないがしろにはしない。
どんな大樹だろうと、最初は小さな種なんだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる