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二章
未来へと続く夜
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「見えた!」
潮風が鼻をくすぐった頃、ペロ様を肩に乗せたニーヤが屋根の上から叫んだ。
道の奥は開け、空には人がいる事を示す煙が上がっている。
進むにつれ、それははっきりと現れる。
独特な造形をした、植物で作られた家。その後ろにある、一際大きな社も。
そして、人々の姿も。
たまらずニーヤが大声を出す。僕達に気づいた村の人達は一瞬その時を止めた。
再び動き出した時は、歓声と共に。
彼女達は、生まれ故郷に帰ってきた。
彼女達の旅が――終わった。
既に出来上がっていた社に皆を集め、今までのいきさつを話した。
村を襲ったのは魔王の支持ではなく、他の魔物が勝手にやった事。
魔王は善人ではないが、好き好んで人に危害を加えるような人物ではない事。
一度は倒したが、甦らせた事も。
全てをありのまま話した。
果たしてその説明で納得してくれるのかという不安を抱いたが、杞憂だった。
ペロ様の言葉を疑う人は誰もいなかった。
真実の神。ペロディア神の末裔。
彼女の口から出るのは、紛れもない真実なのだから。
誰しもが、彼女達の帰還を喜んだ。
「では鎮魂の儀をはじめましょうか。皆さん、準備をお願いしてもよろしいですか?」
太陽が完全に沈み、話も一段落ついた頃、モミさんが発した一言で皆が動き出した。
鎮魂の儀。
ペロリン亭で見た、お葬式のようなものだ。
「あれは簡単な方法で、これからするのが正式なモノになります。私達は準備がありますので、外で待っていてください」
モミさんに促され、社の外へ。
テヘペロ村の敷地は大きな円形になっていて、社を基点に、円を描くように建物が並んでいる。
その中心は大きな広場のよう。
その広場を取り囲むように、村人が等間隔で丸太を置いていく。
準備が終わり、村を照らしていた松明の明かりが消される。
周囲を照らすのは僅かな月明かりだけ。
儀式の始まりに、神聖なる空気が立ち込めた。
村の人と同じように、地面に座ってその時を待つ。
社の入り口の左右にいた女性が、笛を吹き鳴らした。
暗闇に響き渡る、細い木製の横笛が奏でる音色は、繊細にして荘厳。
そして、社の扉が開いた。
左右に侍女を携え、現れたのは小さな少女。そのシルエットから、ペロ様だという事が分かる。
ゆっくりと段を降り、両手を天高く掲げた瞬間。等間隔に置かれた丸太に炎が灯る。
神聖なる青い炎――神火。
祈りを捧げるように胸の前で手を組み、膝をつく。
燃え盛る蒼い炎が広場を包み、彼女達の姿を照らす。
左右に立っていた侍女は、白と黒の民族衣装に身を包んだニーヤとモミさんだった。
幾重にも重ねられた丈の違う上着。
下はスカートというよりは袴に近く。額にはまっさらな布が巻かれている。
そして、彼女達は舞った。
祈るペロ様を囲むように、笛の音色に合わせて。
袖をはためかし、額に巻いた布の端がひらひらと揺れる。
左右対称、一糸乱れぬ二人の舞は、空を翔ける神の使い。
それは、息をするのも忘れるほど。
炎が燃え尽きるまで、天使のような神々しさに、僕はすっかりと魅せられていた。
儀式が終わると、すぐに宴会の準備が始まった。
突然の帰還な事もあり、決して豪華ではないけれど。
僕達を入れても十数人しかいない、静かで、小さな宴。
今は亡き誰かを偲び、新たな未来に思いを馳せる。
ここからまた始まっていくんだろう。
そう思わせてくれる――いい夜だった。
もう少しだけ、この場所にいたい。
もう少しだけ、彼女達と過ごしたい。
そんな想いが心を埋めていく。
それが大変な間違いである事に、僕は全く気づかなかった。
気づかないフリをしていた。
旅は終わったが、全てが終わったわけではない事に。
彼女達の旅は終わったが、僕の旅が終わったわけではない事に。
潮風が鼻をくすぐった頃、ペロ様を肩に乗せたニーヤが屋根の上から叫んだ。
道の奥は開け、空には人がいる事を示す煙が上がっている。
進むにつれ、それははっきりと現れる。
独特な造形をした、植物で作られた家。その後ろにある、一際大きな社も。
そして、人々の姿も。
たまらずニーヤが大声を出す。僕達に気づいた村の人達は一瞬その時を止めた。
再び動き出した時は、歓声と共に。
彼女達は、生まれ故郷に帰ってきた。
彼女達の旅が――終わった。
既に出来上がっていた社に皆を集め、今までのいきさつを話した。
村を襲ったのは魔王の支持ではなく、他の魔物が勝手にやった事。
魔王は善人ではないが、好き好んで人に危害を加えるような人物ではない事。
一度は倒したが、甦らせた事も。
全てをありのまま話した。
果たしてその説明で納得してくれるのかという不安を抱いたが、杞憂だった。
ペロ様の言葉を疑う人は誰もいなかった。
真実の神。ペロディア神の末裔。
彼女の口から出るのは、紛れもない真実なのだから。
誰しもが、彼女達の帰還を喜んだ。
「では鎮魂の儀をはじめましょうか。皆さん、準備をお願いしてもよろしいですか?」
太陽が完全に沈み、話も一段落ついた頃、モミさんが発した一言で皆が動き出した。
鎮魂の儀。
ペロリン亭で見た、お葬式のようなものだ。
「あれは簡単な方法で、これからするのが正式なモノになります。私達は準備がありますので、外で待っていてください」
モミさんに促され、社の外へ。
テヘペロ村の敷地は大きな円形になっていて、社を基点に、円を描くように建物が並んでいる。
その中心は大きな広場のよう。
その広場を取り囲むように、村人が等間隔で丸太を置いていく。
準備が終わり、村を照らしていた松明の明かりが消される。
周囲を照らすのは僅かな月明かりだけ。
儀式の始まりに、神聖なる空気が立ち込めた。
村の人と同じように、地面に座ってその時を待つ。
社の入り口の左右にいた女性が、笛を吹き鳴らした。
暗闇に響き渡る、細い木製の横笛が奏でる音色は、繊細にして荘厳。
そして、社の扉が開いた。
左右に侍女を携え、現れたのは小さな少女。そのシルエットから、ペロ様だという事が分かる。
ゆっくりと段を降り、両手を天高く掲げた瞬間。等間隔に置かれた丸太に炎が灯る。
神聖なる青い炎――神火。
祈りを捧げるように胸の前で手を組み、膝をつく。
燃え盛る蒼い炎が広場を包み、彼女達の姿を照らす。
左右に立っていた侍女は、白と黒の民族衣装に身を包んだニーヤとモミさんだった。
幾重にも重ねられた丈の違う上着。
下はスカートというよりは袴に近く。額にはまっさらな布が巻かれている。
そして、彼女達は舞った。
祈るペロ様を囲むように、笛の音色に合わせて。
袖をはためかし、額に巻いた布の端がひらひらと揺れる。
左右対称、一糸乱れぬ二人の舞は、空を翔ける神の使い。
それは、息をするのも忘れるほど。
炎が燃え尽きるまで、天使のような神々しさに、僕はすっかりと魅せられていた。
儀式が終わると、すぐに宴会の準備が始まった。
突然の帰還な事もあり、決して豪華ではないけれど。
僕達を入れても十数人しかいない、静かで、小さな宴。
今は亡き誰かを偲び、新たな未来に思いを馳せる。
ここからまた始まっていくんだろう。
そう思わせてくれる――いい夜だった。
もう少しだけ、この場所にいたい。
もう少しだけ、彼女達と過ごしたい。
そんな想いが心を埋めていく。
それが大変な間違いである事に、僕は全く気づかなかった。
気づかないフリをしていた。
旅は終わったが、全てが終わったわけではない事に。
彼女達の旅は終わったが、僕の旅が終わったわけではない事に。
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