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二章
揺るがない絆
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「どうして――来たのよ……」
噛み締めるように呟くニーヤの両拳は、硬く握られ震えている。
彼がいつか、ガジガラに行くという事は知っていた。
行ってしまったら、もう二度と会えないんじゃないかと。
いつそれを言い出すのか恐れながら、ニーヤは毎日を過ごしていた。
その反面、時が来たらしっかりと送り出してあげようとも決めていた。
戻ってくると言った彼の言葉を信じていたから。
でも――それは今じゃない。
「何で――アイツに伝えに来たのよ……」
シラが来なければ、彼は行かなかった。
それが理不尽な怒りだという事は、ニーヤ本人も分かっていた。
それでも言わずには居られない。
いくら魔王の力を持っているとは言っても、彼は決して強くはない。
淫魔の王に勝てるとは思えない。
そして、自分達が行く事で彼の足枷になってしまうというもどかしさ。
シラの話を聞いても、自分は大丈夫だという根拠のない自信を完全に払拭する事は出来なかった。
でも、もし、彼の前で痴態を晒してしまったら――。
それが何よりも――怖い。
シラはそんなニーヤの気持ちを痛いほど感じていた。
シラ自身、彼がインキュバスに勝てる可能性は低いと思っている。
それこそ奇跡でも起こらなければ。
それでも、もしかしたら彼なら。
彼なら奇跡を起こしてくれそうな気がした。
だからここに来た。瀕死の重傷を負いつつも、死を覚悟の上で来た。
その考えは、やはり間違いだったんだろうか。
そんな事を思った瞬間だった。
「行く」
声を発したのはペロだ。その表情に浮かぶのは、確かな決意。
「何か――策があるのですか?」
ペロが受け継いでいるのは、神の血だけではない。
決して知りえないペヌスリンや、エルフの事も彼女は知っていた。言うなればそれは、神の英知。
インキュバスの魅了に対抗できる手段を知っているのかもしれない。
一筋の光を見出したモミの問いかけに、しかし彼女は首を振った。
「ない」
「インキュバスの魔力には――勝てない」
ペロの言葉は神の言葉。
だからこそそれは、絶望的な言葉でもあった。
「で、では……やはり行くべきではないのじゃありませんか?」
「そ、そうだよ! もしペロが魅了されたら……」
神の力を奪われたら、その時はもう、確実に世界は終わる。
でも、彼女の表情に迷いは無い。
「その時は、死ぬ」
胸に手をあて、彼女ははっきりといった。
彼が居なかったら、ペロはここにはいなかった。
魔王を倒せない事は分かっていても、それでも命をかけて死んでいただろう。
「この命は、ケンセイのモノ」
辱めを受けるくらいなら、自らその命を捨てる。
彼女の純粋な想いは、命よりも重かった。
「だったら。私も行きます。ペロ様を守るのは、私の使命ですからね」
それはモミの本心でもあり、建前でもあった。
自分の命がペロを守る盾となり、自分の死が彼を奮い立たせる糧となるなら、この命も無駄じゃない。
「結局さ。黙って待ってる事なんて出来ないのよね」
単純な事。そうニーヤは思った。
彼に痴態を見せるのが何よりも怖い。死よりも恐ろしい。
だったら、死んじゃえばいいんだ。
彼が死ぬより、自分が死んだ方がずっといい。
自分が死ねば、彼は悲しみ、そして怒るだろう。
でもソレが――彼の力になるはずだ。
後の事なんて考えない。
単純で――簡単な話だった。
三人が顔を見合わせ、頷く。
「じゃあ、どうやっていこうか――」
その覚悟が、揺らぐことは無い。
噛み締めるように呟くニーヤの両拳は、硬く握られ震えている。
彼がいつか、ガジガラに行くという事は知っていた。
行ってしまったら、もう二度と会えないんじゃないかと。
いつそれを言い出すのか恐れながら、ニーヤは毎日を過ごしていた。
その反面、時が来たらしっかりと送り出してあげようとも決めていた。
戻ってくると言った彼の言葉を信じていたから。
でも――それは今じゃない。
「何で――アイツに伝えに来たのよ……」
シラが来なければ、彼は行かなかった。
それが理不尽な怒りだという事は、ニーヤ本人も分かっていた。
それでも言わずには居られない。
いくら魔王の力を持っているとは言っても、彼は決して強くはない。
淫魔の王に勝てるとは思えない。
そして、自分達が行く事で彼の足枷になってしまうというもどかしさ。
シラの話を聞いても、自分は大丈夫だという根拠のない自信を完全に払拭する事は出来なかった。
でも、もし、彼の前で痴態を晒してしまったら――。
それが何よりも――怖い。
シラはそんなニーヤの気持ちを痛いほど感じていた。
シラ自身、彼がインキュバスに勝てる可能性は低いと思っている。
それこそ奇跡でも起こらなければ。
それでも、もしかしたら彼なら。
彼なら奇跡を起こしてくれそうな気がした。
だからここに来た。瀕死の重傷を負いつつも、死を覚悟の上で来た。
その考えは、やはり間違いだったんだろうか。
そんな事を思った瞬間だった。
「行く」
声を発したのはペロだ。その表情に浮かぶのは、確かな決意。
「何か――策があるのですか?」
ペロが受け継いでいるのは、神の血だけではない。
決して知りえないペヌスリンや、エルフの事も彼女は知っていた。言うなればそれは、神の英知。
インキュバスの魅了に対抗できる手段を知っているのかもしれない。
一筋の光を見出したモミの問いかけに、しかし彼女は首を振った。
「ない」
「インキュバスの魔力には――勝てない」
ペロの言葉は神の言葉。
だからこそそれは、絶望的な言葉でもあった。
「で、では……やはり行くべきではないのじゃありませんか?」
「そ、そうだよ! もしペロが魅了されたら……」
神の力を奪われたら、その時はもう、確実に世界は終わる。
でも、彼女の表情に迷いは無い。
「その時は、死ぬ」
胸に手をあて、彼女ははっきりといった。
彼が居なかったら、ペロはここにはいなかった。
魔王を倒せない事は分かっていても、それでも命をかけて死んでいただろう。
「この命は、ケンセイのモノ」
辱めを受けるくらいなら、自らその命を捨てる。
彼女の純粋な想いは、命よりも重かった。
「だったら。私も行きます。ペロ様を守るのは、私の使命ですからね」
それはモミの本心でもあり、建前でもあった。
自分の命がペロを守る盾となり、自分の死が彼を奮い立たせる糧となるなら、この命も無駄じゃない。
「結局さ。黙って待ってる事なんて出来ないのよね」
単純な事。そうニーヤは思った。
彼に痴態を見せるのが何よりも怖い。死よりも恐ろしい。
だったら、死んじゃえばいいんだ。
彼が死ぬより、自分が死んだ方がずっといい。
自分が死ねば、彼は悲しみ、そして怒るだろう。
でもソレが――彼の力になるはずだ。
後の事なんて考えない。
単純で――簡単な話だった。
三人が顔を見合わせ、頷く。
「じゃあ、どうやっていこうか――」
その覚悟が、揺らぐことは無い。
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