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二章
森の喧騒
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何人たりともその侵入を許さぬエルフの聖地、栗花の森。
その一画に、死骸がうず高く積み上げられていた。
「ミルネルドトーリ様。侵入者、全て一層しました」
エルフの女性の報告に、木を削りだして作られた椅子に腰掛けたミルネルドトーリが「ご苦労」と声をかけた。
うず高く積まれた死骸は、醜い魔族のモノ。
突如現れた魔物の軍勢は、族長である彼女が手を下すまでも無く、いとも簡単に全滅させられた。 エルフ側には負傷者はおろか、かすり傷一つ負ったものはいない。
「最近は客が多いねぇ」
一人呟いた。
百年以上生きている彼女だが、これほどまでに大々的な魔族の侵攻は記憶に無い。
外界に何か変化が起こっている事は明らかだったが、正直どうでもよかった。
「ミ、ミルネルドトーリ様!」
遠くから血相を変えて走ってくるエルフに視線を向ける。
「し、侵入者です!」
その言葉に、彼女はため息交じりで返す。
「今更わざわざ言いに来なくても、勝手に処理しなさいな」
「い、いえっ! そ、それが……」
困惑するエルフの背後から、馬の蹄の音が聞こえる。姿は今だ見えないが、彼女達の聴覚はとても鋭い。その数はたったの一頭。つまりは一人だ。
この森に一騎駆けとは、余程の実力者だろう。彼女の記憶でも、過去に二度、二人だけだ。
「……面白い」
彼女の口元が残虐につり上がる。椅子から立ち上がりこそはしなかったが、その手には神器、エルヴントリステンボウが握られていた。
「あっ……」
それを見たエルフが声をあげる。
「どうした?」
「い、いえ。何でもありません……」
族長である彼女に対し、一介のエルフが気軽に意見などできない。
ミルネルドトーリがそのエルフの態度の意味に気づいたのは、馬の蹄の音が大きくなり、その姿が見えた時だった。
「あれは……」
前方から歩いてくるのは、白い体に赤毛のたてがみを携えた見覚えのある一頭の馬。
だが、その背には誰も見えない。
馬が一匹だけ迷い込んだようにも見えるその光景だったが、よく目を凝らしてみると、その背から力なく投げ出された手足が見えた。
その瞬間、彼女は立ち上がり走り出した。
族長の行動に驚いた周囲のエルフ達を気にも留めず、馬に駆け寄る。
馬の背に乗っていたのは、気を失ったケンセイだった。
「うっ! これは……!」
背中に大きな染みが出来ているシャツをめくれば、化膿した傷口にまとわりつく膿が悪臭を放っている。
「泉で傷を洗い流して治療しろ! グズグズするな!」
これほどまでに放置された傷なら、体の内部で感染症を起こしていても不思議ではなかった。
魔法で傷は治せるが、病魔までは治せない。
ミルネルドトーリの声で、エルフが一斉に動き出した。
「一体……どうしちまったっていうんだい?」
ディーナスの首元を撫でながら彼女は呟いた。
それは何が起こっているのか尋ねている様でも。
彼の姿に動揺して大声を出してしまった自分に尋ねているようでもあった。
「まさか――いや、それはない……」
一瞬脳裏によぎった不安。でも、それは考えすぎだと思い直した。
真実の神、ペロディアの末裔の言葉を思い出す。
でも、違う。まだその時ではない。
今はただ、彼が無事に目を覚ます事を願った。
その一画に、死骸がうず高く積み上げられていた。
「ミルネルドトーリ様。侵入者、全て一層しました」
エルフの女性の報告に、木を削りだして作られた椅子に腰掛けたミルネルドトーリが「ご苦労」と声をかけた。
うず高く積まれた死骸は、醜い魔族のモノ。
突如現れた魔物の軍勢は、族長である彼女が手を下すまでも無く、いとも簡単に全滅させられた。 エルフ側には負傷者はおろか、かすり傷一つ負ったものはいない。
「最近は客が多いねぇ」
一人呟いた。
百年以上生きている彼女だが、これほどまでに大々的な魔族の侵攻は記憶に無い。
外界に何か変化が起こっている事は明らかだったが、正直どうでもよかった。
「ミ、ミルネルドトーリ様!」
遠くから血相を変えて走ってくるエルフに視線を向ける。
「し、侵入者です!」
その言葉に、彼女はため息交じりで返す。
「今更わざわざ言いに来なくても、勝手に処理しなさいな」
「い、いえっ! そ、それが……」
困惑するエルフの背後から、馬の蹄の音が聞こえる。姿は今だ見えないが、彼女達の聴覚はとても鋭い。その数はたったの一頭。つまりは一人だ。
この森に一騎駆けとは、余程の実力者だろう。彼女の記憶でも、過去に二度、二人だけだ。
「……面白い」
彼女の口元が残虐につり上がる。椅子から立ち上がりこそはしなかったが、その手には神器、エルヴントリステンボウが握られていた。
「あっ……」
それを見たエルフが声をあげる。
「どうした?」
「い、いえ。何でもありません……」
族長である彼女に対し、一介のエルフが気軽に意見などできない。
ミルネルドトーリがそのエルフの態度の意味に気づいたのは、馬の蹄の音が大きくなり、その姿が見えた時だった。
「あれは……」
前方から歩いてくるのは、白い体に赤毛のたてがみを携えた見覚えのある一頭の馬。
だが、その背には誰も見えない。
馬が一匹だけ迷い込んだようにも見えるその光景だったが、よく目を凝らしてみると、その背から力なく投げ出された手足が見えた。
その瞬間、彼女は立ち上がり走り出した。
族長の行動に驚いた周囲のエルフ達を気にも留めず、馬に駆け寄る。
馬の背に乗っていたのは、気を失ったケンセイだった。
「うっ! これは……!」
背中に大きな染みが出来ているシャツをめくれば、化膿した傷口にまとわりつく膿が悪臭を放っている。
「泉で傷を洗い流して治療しろ! グズグズするな!」
これほどまでに放置された傷なら、体の内部で感染症を起こしていても不思議ではなかった。
魔法で傷は治せるが、病魔までは治せない。
ミルネルドトーリの声で、エルフが一斉に動き出した。
「一体……どうしちまったっていうんだい?」
ディーナスの首元を撫でながら彼女は呟いた。
それは何が起こっているのか尋ねている様でも。
彼の姿に動揺して大声を出してしまった自分に尋ねているようでもあった。
「まさか――いや、それはない……」
一瞬脳裏によぎった不安。でも、それは考えすぎだと思い直した。
真実の神、ペロディアの末裔の言葉を思い出す。
でも、違う。まだその時ではない。
今はただ、彼が無事に目を覚ます事を願った。
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