性剣セクシーソード

cure456

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二章

最後の戦い

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 ザフズの姿は、壁に開いた大穴と共に消えた。
 ぽっかりと開いた大穴を見て、ろくなもんじゃないな、と思った。
「ケンセイ」
 振り返ると、彼女が居た。
 その両手を縛っていた鎖はもうない。
 気高く、美しい魔界の王。
 この世界ワーワルツで僕が初めて会って、初めて恋をした女性ひと
 彼女が、その両手を広げた。

「迷惑をかけたな。来てくれて、嬉しく思うぞ」
「迷惑なんかじゃ――無事で、よかった」
 その腕の中は懐かしく、そして、変わらずに心地良かった。
「立派な魔王になったな。しかし、あの武器は何だ? 消えてしまったようだが」
「ああ。いいんだ、あれは――」
――使い捨てだから。

 アミルの肩越しに、ニーヤ達が見えた。
 その表情に浮かぶ怯えの色は、顔を洗ったって拭えないだろう。
 少しだけ微笑んだ僕に、ニーヤが口を開いた。
「あっ! アンタねぇ!」
 僅かに震える身体を、ぎゅっと手で抑え。
「べ、別にアンタが何をしようと! アタシの気持ちが変わるわけじゃないから! い、今はちょっと驚いているだけでっ! きっ、嫌いになるとか! そんなのないんだから!」
「そっ、そうですよ! ケンセイさんは、ケンセイさんですから!」
 目の周りを赤く腫らしたモミさんも続く。
 その後ろでは、ペロ様もしきりに頷いている。
 彼女達の気持ちは、僕にとって、とても喜ばしいものなんだろう。
 その想いを、嬉しがるべきなんだろう。
 だけど、今の僕にその気持ちは――重い。
 彼女達が僕に抱く想いが――たまらなく重いんだ。


「終わった――のか?」
 確認するようにミーが呟く。
「いや、まだ終わってはいないよ」
 僕がそう言うと、皆の視線が辺りを彷徨った。
 ただ一人を除いて。
「受けてくれるよな?」
 彼女は、真っ直ぐに僕を見ていた。
 元魔界の王――パララ・アミル。

「ケンセイよ――」
 ゆっくりと、言葉を吐き出すように。
「その言葉の意味、分かっているのか?」
 その瞳には、ありありと浮かんでいた。
 初めて向けられる――純粋な怒り。

「うん。分かってる」
「余に勝てるなどと、思ってはおらぬだろうな?」
「うん。思ってない」 
 戦わずとも感じる。
 いくら僕が魔王の力を持っているとは言え、彼女には勝てないだろう。
 それくらいは、分かる。
「ならば――っ! 余の気持ちを知って尚! それを受けろと言うか!」

 定物定位ていぶつていい
 持ち出したモノは、元の場所へ。
 整理整頓の基本だ。
 彼女から持ち出した力は、彼女に返さなくてはならない。
 ただし、それには死を以って。

「――なぁアミル。僕も――同じなんだろ?」
 途中から、うすうす気づいてはいたんだ。
「セクシーソード――この魔装具はそうだろう?」
 多分アミル本人も分からないほど、僅かな動揺。
 その表情で、確信した。
「ザフズと同じ――なんじゃないか?」


 考えてみれば、おかしな話なんだ。
 十八年間、女っ気の無い人生を歩いてきた。
 彼女はおろか、女友達だっていなかった。
 勿論女の子に告白された事なんてないし、告白出来るほどの距離感にもならなかった。
 だから、おかしな話なんだ。
 もっと早く気づいても良かったんだ。
 何の特徴もない平凡な男が、突然女の子にモテ始める。
 そんな不条理な話があるわけ無い。
 妄想は現実たりえない。

 物事には、必ず理由が存在する。
 この世界に来て、セクシーソードを貰ってから、僕の周囲には常に女の子が居た。
 ニーヤにモミさん、ペロ様。
 洞窟で助けた、チェルともう二人。
 トリナにルエラ。
 ナギさん、レミさん、シラさん。
 ミーとディーナス。
 エルフのミドリさん。
 そして――アミルも。
 様々な粗相を繰り返しても、彼女達は誰一人として、僕を拒絶しない。
 それどころか、好意さえ抱いている。
 それこそ―不条理な程。

「ならば、どうしたと言うのだ?」
 苦虫を噛み潰したような顔で、アミルが言った。
「お前の言うとおり、セクシーソードが女の心を奪うとしてもだ。それがどうしたと言うのだ? 牝に好かれて喜ばぬ雄などおらん。一体何が不満だと言うのだ?」
 確かにそうだ。
 向けられた好意は、素直に嬉しい。 

「不満なんてないさ。でも――」
 頭でイメージする。彼女から貰った、大切な剣。
「自分の力で手に入れたいとも思うんだ」
 セクシーソードが、しっかりと僕の手に収まっていた。
「僕が勝ったら――アミル、貴女を抱く」
 オスだから、男だから。
「それこそ――力づくでも」


「ちょっと……待ちなさいよ……」
 横から挟まれたその台詞を、僕は予想していた。
 彼女なら、多分そうだろうと思ったから。
「黙って聞いてれば、アタシ達の気持ちはどうなるのよ!? アタシ達は蚊帳の外ってわけ!?」
 何度も見た、ニーヤの怒った顔。
 こんな事を言えば怒られるから言わないけど、僕はその顔が好きだ。

「最低な言い方をすれば、皆の気持ちは関係ない。でも、蚊帳の外じゃない」
「アミルを抱いた後――全員抱く」
 僕の言葉に、皆が目を見開いた。
「ニーヤも、モミさんも、ペロ様も。シラさんも、ミーも」
「そして、扉の向こうに隠れてるディーナスもね」
「うひっ!?」
 扉からこっそり中を覗いていたディーナスも鳴いた。
「魔王らしくて、いいだろ」  
 裸に聖衣を身に纏い、股間を目一杯光らせながらも、格好つけてそう言った。 


「さぁ。剣を抜いてくれ。アミル」
 僕の言葉に、彼女は剣を取り出した。
 紫のオーラに包まれた、彼女の剣。
「手加減はせぬぞ」
「勿論だ。それと、最後に聞かせてくれないか? その剣の名前を」
 僕を討つであろう、その剣の名を。
「ふっ。聞かせてやろう。この剣は――」
 僕はすっかり忘れていた。
 セクシーソードの名付け親は、彼女だった事を。 
「『ラブソード』だ」
 聞かなきゃ良かったと思った。

 だけど、誇らしげに語る彼女は格好良かった。
 やはり、格好良さと言うのは、一つの才能なんだろう。
 生まれ持った、天性の才能。
 ならば、それにあやからせてもらおう。
「いくぞアミル! これが最後の戦いだ!」 
 いつか彼女が僕に言った、格好良い台詞を参考に。



 始まりがあれば、終わりがある。
終わりの無い物語ネバー・エンディング・ストーリー』は存在しない。
 広げた風呂敷は、畳まなきゃいけない。
 遺書という格好悪い始まりで綴られた僕の物語は、格好良く締められたのだろうか。
 綺麗に畳めているのだろうか。
 セクシーソードを握りながら、そんな事を考えていた――。
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