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二章
最後までこんな不条理で
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背筋を震えさせる冷気が、時間をも凍らせてしまったかのように。
彼女達は、動けずにいた。
戦闘と呼べるほど純粋なモノではなく、殺戮というのは生温い。
アミルの両手を縛る魔力の鎖が未だ消えないのは、術士であるザフズがまだ生きているから。
血だまりが血の海に変わってもザフズが生きているのは、彼が治しているからだ。
何度も何度も殴りつけては、何度も何度も傷を癒す。
死ぬ事さえも許さない。悪魔の所業。
聖衣と呼ばれたその姿には、神々しさの欠片もない。
ペロが、モミの背中に隠れてからどれくらい経っただろうか。
精神を蝕むような異音に、ミーが耳を塞いだのはいつだろうか。
ニーヤの身体が、震えだしたのはいつからだ。
モミの涙は、いつから流れている。
地獄の様な光景を、誰も止める事が出来ない。
一心不乱に拳を振り下ろす彼を止める事は出来ない。
駆け寄ることはおろか、声をかけることすら出来ない。
血の飛沫に狂気を混ぜて、全身に塗りたくった。
凄惨に笑う魔王を、止める事は出来ない。
――たった一人を除いては。
「ケンセイ!」
その声で、時間は動き出す。
今では力を失った、元魔界の王。パララ・アミルの一言。
「もう――殺してやれ」
誰もが言えなかったそんな一言に、彼は困ったように、
「どうやって殺そうか考えてたんだけど――」
苦笑いを浮かべた。
「――僕、武器持ってないんだよね」
それは、まるで予想外の答えだった。
初めて聞いた異国の言葉の様に、誰もが耳を疑った。
――武器がない。
相手を素手で殺すほどの力を持ちながら、彼はそう言った。
「いや、やっぱり僕も最後はかっこいい技とかで決めたいじゃん? かっこいい武器とかでさ」
日常会話でもするかのように。
気がふれているのか、冷静なのかも分からない。
「ぶ、武器なら――今のお前なら創り出せるはずだ……。頭で……思い浮かべるがいい」
アミル自身も、自分が何を言っているのか分かっていなかった。
ただ、恐れは抱かなかった。
それは勿論、彼女が魔王を務めるほどの器の持ち主であったから。
そして、気になった。
彼が創り出した武器が、どんなモノになるのかを。
「頭で、思い浮かべるか――」
彼はそう呟くと、瞳を閉じ、片手を高く上げた。
その動作を、誰もが見つめていた。
何が出てくるのか、その手に何が収まるのか。
剣か斧か、それとも槍か。
だが、ソレが彼の手に収まることはなかった。
――ゴトン。と床に落ちたソレは、誰の目にも、武器には映らなかった。
格好つけて手をかざしてみたが、その手には何も現れず。
鈍い音と共に地面に落ちたのは、武器らしからぬ外見だった。
大砲――と言うより大筒。
先端が綺麗に丸まった円柱で、どこか女性のウエストを連想されるようなくびれがあり、その両側には、持ち手のような棒が突き出ていた。
根元には、何かを差し込むように穴が空いている。
「くっくっくっ」
湧き上がる、乾いた笑いを抑えられない。
目の前にある、それが何なのかは理解した。
だけど。何でこのタイミングで。
馬鹿らしい。
「な、何だソレは……」
ザフズが驚きの声を上げる。
魔力で回復させた、傷一つないその顔は――イケメンだ。
流石淫魔の王、と言ったところか。
恐怖と戦慄で顔を引きつらせてもなお、余りあるほどの美貌。
「これは――お前には分からないよ」
先人達の知識と努力。血と汗と汁を流し、辿り着いた一つの到着点。
まごうことなき、童貞の武器!
「だからと言って……このタイミングかよ……」
床に落ちたソレの取っ手に手を伸ばす。
そして、光り輝く股間のセクシーソードに装着した。
世界は、どうしても僕に格好をつけさせたくないらしい。
ならば――抗うまで!
「冥途の土産に教えてやる! この武器の名前は――」
全身のエネルギーが一点に集中していくのが分かる。
「伝説の名器――『TEN・GUN』だ!」
光が濃縮され、一気にはじけ飛ぶ。
「リア充は死ねええええええええええええっ!」
本当に世界は不条理だ。
どうやっても、格好なんてつかないんだから。
彼女達は、動けずにいた。
戦闘と呼べるほど純粋なモノではなく、殺戮というのは生温い。
アミルの両手を縛る魔力の鎖が未だ消えないのは、術士であるザフズがまだ生きているから。
血だまりが血の海に変わってもザフズが生きているのは、彼が治しているからだ。
何度も何度も殴りつけては、何度も何度も傷を癒す。
死ぬ事さえも許さない。悪魔の所業。
聖衣と呼ばれたその姿には、神々しさの欠片もない。
ペロが、モミの背中に隠れてからどれくらい経っただろうか。
精神を蝕むような異音に、ミーが耳を塞いだのはいつだろうか。
ニーヤの身体が、震えだしたのはいつからだ。
モミの涙は、いつから流れている。
地獄の様な光景を、誰も止める事が出来ない。
一心不乱に拳を振り下ろす彼を止める事は出来ない。
駆け寄ることはおろか、声をかけることすら出来ない。
血の飛沫に狂気を混ぜて、全身に塗りたくった。
凄惨に笑う魔王を、止める事は出来ない。
――たった一人を除いては。
「ケンセイ!」
その声で、時間は動き出す。
今では力を失った、元魔界の王。パララ・アミルの一言。
「もう――殺してやれ」
誰もが言えなかったそんな一言に、彼は困ったように、
「どうやって殺そうか考えてたんだけど――」
苦笑いを浮かべた。
「――僕、武器持ってないんだよね」
それは、まるで予想外の答えだった。
初めて聞いた異国の言葉の様に、誰もが耳を疑った。
――武器がない。
相手を素手で殺すほどの力を持ちながら、彼はそう言った。
「いや、やっぱり僕も最後はかっこいい技とかで決めたいじゃん? かっこいい武器とかでさ」
日常会話でもするかのように。
気がふれているのか、冷静なのかも分からない。
「ぶ、武器なら――今のお前なら創り出せるはずだ……。頭で……思い浮かべるがいい」
アミル自身も、自分が何を言っているのか分かっていなかった。
ただ、恐れは抱かなかった。
それは勿論、彼女が魔王を務めるほどの器の持ち主であったから。
そして、気になった。
彼が創り出した武器が、どんなモノになるのかを。
「頭で、思い浮かべるか――」
彼はそう呟くと、瞳を閉じ、片手を高く上げた。
その動作を、誰もが見つめていた。
何が出てくるのか、その手に何が収まるのか。
剣か斧か、それとも槍か。
だが、ソレが彼の手に収まることはなかった。
――ゴトン。と床に落ちたソレは、誰の目にも、武器には映らなかった。
格好つけて手をかざしてみたが、その手には何も現れず。
鈍い音と共に地面に落ちたのは、武器らしからぬ外見だった。
大砲――と言うより大筒。
先端が綺麗に丸まった円柱で、どこか女性のウエストを連想されるようなくびれがあり、その両側には、持ち手のような棒が突き出ていた。
根元には、何かを差し込むように穴が空いている。
「くっくっくっ」
湧き上がる、乾いた笑いを抑えられない。
目の前にある、それが何なのかは理解した。
だけど。何でこのタイミングで。
馬鹿らしい。
「な、何だソレは……」
ザフズが驚きの声を上げる。
魔力で回復させた、傷一つないその顔は――イケメンだ。
流石淫魔の王、と言ったところか。
恐怖と戦慄で顔を引きつらせてもなお、余りあるほどの美貌。
「これは――お前には分からないよ」
先人達の知識と努力。血と汗と汁を流し、辿り着いた一つの到着点。
まごうことなき、童貞の武器!
「だからと言って……このタイミングかよ……」
床に落ちたソレの取っ手に手を伸ばす。
そして、光り輝く股間のセクシーソードに装着した。
世界は、どうしても僕に格好をつけさせたくないらしい。
ならば――抗うまで!
「冥途の土産に教えてやる! この武器の名前は――」
全身のエネルギーが一点に集中していくのが分かる。
「伝説の名器――『TEN・GUN』だ!」
光が濃縮され、一気にはじけ飛ぶ。
「リア充は死ねええええええええええええっ!」
本当に世界は不条理だ。
どうやっても、格好なんてつかないんだから。
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