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三章~魔界冒険譚~
ドワーフパラダイス
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僕の首を自分の身体ごと、右へ左へと傾けながら道案内するドワーフの指示に従い、森の中を進んで行く。
開けた場所に、その村はあった。
木や土で出来た建物は確かにコンパクトだが、意外にもそれほど小さいモノではない。
だが、クワやつるはし、荷車などの生活道具はドワーフサイズだった。
そして、いっぱいいた。
ちっさい彼らが、わらわらと集まってきた。
「おきゃくをつれてきたのです」
僕の肩に乗ったドワーフは、馬車を取り囲む大量の彼らに告げた。
「おきゃくかー」
「おきゃくじゃしかたないな」
「ごちそうでる? ごちそうだす?」
「ちょうどよい。きょうはえんかいだ」
物珍しそうに僕達を見上げていたドワーフ達は、その言葉をかわきりにわいわいと騒ぎ出し、そして蜘蛛の子を散らすようにさっさと散らばっていった。
その間僕は、ただただ彼らの多さに驚いていただけだ。
「おま、おま――」
「僕はケンセイだよ! こっちのお姉ちゃんがアミ――」
僕を指差したドワーフが口を開いた瞬間、とっさに言葉をかぶせる。
何度も繰り返してたまるか。
「アミだ」
かぶせてきたのは、アミルも同じだった。
「――こ、こっちのお姉ちゃんがアミだよ」
その行動の意味が分からないほど鈍くは無い。
城を出た時に決めておくべきだったのだ。
魔王である事を隠すなら、名前もまた、隠す必要があるんだから。
「ケンセイ? なまえ、ケンセイ。むらをあんないするのです」
首から降りて、僕の足をくいくいと引っ張る。
名前を言った時に一瞬だけアミルをチラリと見たが、興味がなさそうにすぐ視線を逸らした。
懐かれたのは純粋に嬉しいけれど、そのドワーフの態度を、アミルがどう思うかが不安でもある。
「行くが良い。余はここにおる」
「でも……」
アミルは首を振った。
馬車には荷物を積んでいる。その中にはもちろん貴重品も含まれているわけで。
元は盗まれた物を取り戻しにきたのだ。
警戒するのも当然だろう。
「ケンセイ。ケンセイ。はやくはやく」
「じゃあ、すぐ戻って来るから」
ドワーフにせかされ、ぼくはそう言い残してその場を離れた。
「ケンセイ。つぎはあっち」
再び僕の肩に陣取ったドワーフに操作されながら、村の中を歩き回る。
物が小さい事をのぞけば、それほど変わった様子は見られなかった。
家の中も見せてもらったが、背伸びは出来ずとも、入り口以外で頭をぶつける心配もない。
宴の準備に追われる村はとても賑やかで、ここは新種のテーマパークかと錯覚してしまうほど、ちょこちょこと走り回るドワーフ達ははどれも愛らしい。
そんな中、ふと目に入ったモノが気になった。
「あれはどうしたの?」
視界に入ったのは、ドワーフ達によって絶賛解体中な馬車の荷台部分だ。
どうしてそんなモノが気になったのかと言うと、明らかにソレだけ大きさが違ったからだ。
僕からすると普通だが、彼らには大きすぎる。車輪を二人で運ぶくらいには。
「あれはおみやげ」
「おみやげ?」
「ケンセイ。つぎはあっち」
僕の質問は軽くスルーされた。意図的ではないだろう。
何となく分かったが、基本彼らはマイペースなのだ。
操舵されるがまま、違和感も置き去りにして、僕は歩を進めた。
村の傍には、綺麗な川が流れていた。
太陽に照らされて白く輝きはしないが、月に照らされて紅く輝いている。
「水あびする? さっぱりする?」
「う~ん。とりあえず今はいいかな」
長旅のおかげで、川で身体を洗う事に抵抗はもうない。
ここまでの道中で汗も沢山かいているから、今すぐ飛び込みたいのが本音だ。
でも、アミルを残しているのに僕だけが水浴びをするのは違う気がする。
何気なく川の流れを見ていると、上流が洞窟になっている事に気づいた。
「あの洞窟――」
「なにもないのです」
訊ねようとした僕に、彼は言葉をかぶせた。その反応に違和感を覚える。
「何かあるの?」
「なにもないのです。くらくてすぐに行きどまりでおそろしい魔物がいっぱいいていちど入ったら迷って二度ともどれないのです」
やけに饒舌になった態度も、淡々と話すその内容も。
むしろあの洞窟に何かがあると言っているのに他ならないだろうか。
「ケンセイ。もどるの。ようじをおもいだしたのです」
「そっか。用事があるならしょうがないね」
どうにも怪しい。あからさまに怪しい。
ぐいぐいと腰を動かす彼に急かされながら、その場を後にした。
「どうだった?」
馬車に戻ると、アミルは退屈そうに荷台で寝転んでいた。
先程まで肩に乗っていた彼はどこかへ行ってしまって、近くにドワーフはいない。
「うーん。あまり変わった所はない、かな? 怪しい洞窟はあったけど」
「村の中に他の魔族はおらんかったか?」
ドワーフ以外の魔族は見ていない。見ていたら流石に気づく。
紅白の眼鏡男を捜すより簡単な間違い探しだ。
「そうか。ならばもう殺られておるだろうな」
「殺られてる……って……?」
アミルが放った物騒な一言に、思わず聞き返す。
「我等より先に回収屋が来ているはずだ。途中ですれ違ったわけでもない。姿が見えぬのなら、既に殺されていると考えるのが当然だろう」
すっかり忘れていたが、そう言えば――そんな話をしていた。
そして、ふと思い出す。
解体されていたあの荷台を。
「ちょ、ちょっと待って。僕には彼らがそんな事をするようには見えないんだけど。何かの間違いとかじゃないよね?」
彼らが誰かを殺すシーンなど、僕には想像もつかない。
その外見と同じく、子供のように純粋なドワーフなんだから。
だが、アミルはそんな僕を叱るように、鋭い視線を向けた。
「見た目に惑わされるな。お前が思っているより、奴等はずっと恐ろしい」
そう言って荷台から起き上がると、アミルはおもむろに馬と馬車を繋いでいる皮のベルトを外した。
馬にしてみれば、枷がないのだから今にでも走って逃げられる。
暴挙とも思えるアミルの行動だが、そんな状況にも関わらず、馬は動かない。
「危険を感じたら、すぐに逃げろ」
背を撫でながら、アミルは馬に向かってそう言った。
もちろん、ただの馬なのだから言葉など分かる筈も無い。
だけど、まるでその言葉を理解しているかのように鳴いた。
その行動の意味が、僕には全く分からなかった。
まるで荷台に積んである貴重品よりも、馬を奪われる事を恐れているよう。
確かに良い馬らしいが、アミルがそこまで愛着を抱いているのかと言えば、多分そうではない。
「まぁ。何も無ければそれで良いがな」
それは、確実に何か起こるような口ぶりだった。
同じくして、とことこと歩いてきたドワーフが僕を呼んだ。
「ケンセイ。ケンセイ。えんかいがはじまるのです」
そして、僕は自分の認識の甘さを知ることとなるのだった。
開けた場所に、その村はあった。
木や土で出来た建物は確かにコンパクトだが、意外にもそれほど小さいモノではない。
だが、クワやつるはし、荷車などの生活道具はドワーフサイズだった。
そして、いっぱいいた。
ちっさい彼らが、わらわらと集まってきた。
「おきゃくをつれてきたのです」
僕の肩に乗ったドワーフは、馬車を取り囲む大量の彼らに告げた。
「おきゃくかー」
「おきゃくじゃしかたないな」
「ごちそうでる? ごちそうだす?」
「ちょうどよい。きょうはえんかいだ」
物珍しそうに僕達を見上げていたドワーフ達は、その言葉をかわきりにわいわいと騒ぎ出し、そして蜘蛛の子を散らすようにさっさと散らばっていった。
その間僕は、ただただ彼らの多さに驚いていただけだ。
「おま、おま――」
「僕はケンセイだよ! こっちのお姉ちゃんがアミ――」
僕を指差したドワーフが口を開いた瞬間、とっさに言葉をかぶせる。
何度も繰り返してたまるか。
「アミだ」
かぶせてきたのは、アミルも同じだった。
「――こ、こっちのお姉ちゃんがアミだよ」
その行動の意味が分からないほど鈍くは無い。
城を出た時に決めておくべきだったのだ。
魔王である事を隠すなら、名前もまた、隠す必要があるんだから。
「ケンセイ? なまえ、ケンセイ。むらをあんないするのです」
首から降りて、僕の足をくいくいと引っ張る。
名前を言った時に一瞬だけアミルをチラリと見たが、興味がなさそうにすぐ視線を逸らした。
懐かれたのは純粋に嬉しいけれど、そのドワーフの態度を、アミルがどう思うかが不安でもある。
「行くが良い。余はここにおる」
「でも……」
アミルは首を振った。
馬車には荷物を積んでいる。その中にはもちろん貴重品も含まれているわけで。
元は盗まれた物を取り戻しにきたのだ。
警戒するのも当然だろう。
「ケンセイ。ケンセイ。はやくはやく」
「じゃあ、すぐ戻って来るから」
ドワーフにせかされ、ぼくはそう言い残してその場を離れた。
「ケンセイ。つぎはあっち」
再び僕の肩に陣取ったドワーフに操作されながら、村の中を歩き回る。
物が小さい事をのぞけば、それほど変わった様子は見られなかった。
家の中も見せてもらったが、背伸びは出来ずとも、入り口以外で頭をぶつける心配もない。
宴の準備に追われる村はとても賑やかで、ここは新種のテーマパークかと錯覚してしまうほど、ちょこちょこと走り回るドワーフ達ははどれも愛らしい。
そんな中、ふと目に入ったモノが気になった。
「あれはどうしたの?」
視界に入ったのは、ドワーフ達によって絶賛解体中な馬車の荷台部分だ。
どうしてそんなモノが気になったのかと言うと、明らかにソレだけ大きさが違ったからだ。
僕からすると普通だが、彼らには大きすぎる。車輪を二人で運ぶくらいには。
「あれはおみやげ」
「おみやげ?」
「ケンセイ。つぎはあっち」
僕の質問は軽くスルーされた。意図的ではないだろう。
何となく分かったが、基本彼らはマイペースなのだ。
操舵されるがまま、違和感も置き去りにして、僕は歩を進めた。
村の傍には、綺麗な川が流れていた。
太陽に照らされて白く輝きはしないが、月に照らされて紅く輝いている。
「水あびする? さっぱりする?」
「う~ん。とりあえず今はいいかな」
長旅のおかげで、川で身体を洗う事に抵抗はもうない。
ここまでの道中で汗も沢山かいているから、今すぐ飛び込みたいのが本音だ。
でも、アミルを残しているのに僕だけが水浴びをするのは違う気がする。
何気なく川の流れを見ていると、上流が洞窟になっている事に気づいた。
「あの洞窟――」
「なにもないのです」
訊ねようとした僕に、彼は言葉をかぶせた。その反応に違和感を覚える。
「何かあるの?」
「なにもないのです。くらくてすぐに行きどまりでおそろしい魔物がいっぱいいていちど入ったら迷って二度ともどれないのです」
やけに饒舌になった態度も、淡々と話すその内容も。
むしろあの洞窟に何かがあると言っているのに他ならないだろうか。
「ケンセイ。もどるの。ようじをおもいだしたのです」
「そっか。用事があるならしょうがないね」
どうにも怪しい。あからさまに怪しい。
ぐいぐいと腰を動かす彼に急かされながら、その場を後にした。
「どうだった?」
馬車に戻ると、アミルは退屈そうに荷台で寝転んでいた。
先程まで肩に乗っていた彼はどこかへ行ってしまって、近くにドワーフはいない。
「うーん。あまり変わった所はない、かな? 怪しい洞窟はあったけど」
「村の中に他の魔族はおらんかったか?」
ドワーフ以外の魔族は見ていない。見ていたら流石に気づく。
紅白の眼鏡男を捜すより簡単な間違い探しだ。
「そうか。ならばもう殺られておるだろうな」
「殺られてる……って……?」
アミルが放った物騒な一言に、思わず聞き返す。
「我等より先に回収屋が来ているはずだ。途中ですれ違ったわけでもない。姿が見えぬのなら、既に殺されていると考えるのが当然だろう」
すっかり忘れていたが、そう言えば――そんな話をしていた。
そして、ふと思い出す。
解体されていたあの荷台を。
「ちょ、ちょっと待って。僕には彼らがそんな事をするようには見えないんだけど。何かの間違いとかじゃないよね?」
彼らが誰かを殺すシーンなど、僕には想像もつかない。
その外見と同じく、子供のように純粋なドワーフなんだから。
だが、アミルはそんな僕を叱るように、鋭い視線を向けた。
「見た目に惑わされるな。お前が思っているより、奴等はずっと恐ろしい」
そう言って荷台から起き上がると、アミルはおもむろに馬と馬車を繋いでいる皮のベルトを外した。
馬にしてみれば、枷がないのだから今にでも走って逃げられる。
暴挙とも思えるアミルの行動だが、そんな状況にも関わらず、馬は動かない。
「危険を感じたら、すぐに逃げろ」
背を撫でながら、アミルは馬に向かってそう言った。
もちろん、ただの馬なのだから言葉など分かる筈も無い。
だけど、まるでその言葉を理解しているかのように鳴いた。
その行動の意味が、僕には全く分からなかった。
まるで荷台に積んである貴重品よりも、馬を奪われる事を恐れているよう。
確かに良い馬らしいが、アミルがそこまで愛着を抱いているのかと言えば、多分そうではない。
「まぁ。何も無ければそれで良いがな」
それは、確実に何か起こるような口ぶりだった。
同じくして、とことこと歩いてきたドワーフが僕を呼んだ。
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