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恐怖の水分補給
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一晩明け翌朝、最悪の目覚めだった。
身体中を包む倦怠感と鈍痛。吐き気と眩暈。
具合が悪いなんてもんじゃない。
このまま死んでも不思議じゃない。そう思わせるほどの体調だった。
小、中と皆勤賞の僕だったが、もはや学校に行こうと微塵も考えないレベル。
息も絶え絶えにスマホに手を伸ばし、学園に電話をかける。
ちなみに登録されているのは未だに父と学園のみだ。
「おう、愛染か? どうした?」
優雅な保留音の後、子供先生の声が聞こえた。
「あ……おはようございます……。起きてから体調が悪くて……もしかしたら死ぬか――」
「おー風邪か。分かった。気をつけろよー」
全てを言い終わる前にきられてしまった。ああ無常。
黒影の餌……扉の向こうに置いてあるのかな。
馬子がタイミング良く現われてくれないかな。
喉がカラカラで息が詰まりそうだ。全身が熱い、視界がかすむ。
生誕が馬小屋なら、某神様みたいに解釈と脚色で美談に仕上げる事も出来ようが、死に場所が馬小屋では悲惨すぎる。
最期を看取るのが黒影ってのもヤバイ。
誰にも伝えられない。
薄れゆく意識の中、そんな下らない事を考えていた。
「ん――ひぃっ!?」
目を開けた瞬間、心臓がギュウウウウウウン! と音を立てた。
これはオノマトペの類ではない。確かに聞いた。マジで聞こえた。
どうしてそんな音を立てたかと言うと驚いたからだ。
心臓が悲鳴を上げるほど驚いたからに他ならない。
目の前にいたのは、女子高生のオバケ。
いや、正確にはオバケじゃない。山棟蛇纏だ。
でもその見た目は完全にオバケ。突然目の前に現れたら貞子も裸足で逃げ出すはずだ。
もっとも普段靴を履いているかは不明だが。
何だろう。何で彼女はここに居るんだろう。
表情も見えず、無言。
かろうじて身に纏った制服が、こっちを向いている事を示しているだけだ。
怖い。マジ怖い。
「み……水……」
カラッカラに乾いた喉では、それを口にするので精一杯だった。
幻覚や、本当に幽霊だったらどうしよう。
そんな事を考えるほどの間が空いて、彼女はゆっくりと歩き出した。
水ホースの繋がれた蛇口の前で立ち止まると、キョロキョロと辺りを見回している。
多分コップを探しているんだと思うが――残念、生憎だが常に直飲みだ。
さてどうする。ってかマジでどうする。
頼んだ僕ですら分からない。どうやって水を持ってくる?
すると、彼女は少し蛇口を緩め、ホースから出る水を両手に溜め始めた。
凄い。天才。マジリスペクト。
満タンになったのか、彼女が戻ってくる。餌をねだる雛鳥よろしく、僕は口を開けた。
ピチョンと水滴が舌を濡らす。だがそれだけ。いくら待っても落ちてこない。
そりゃそうだ。水が入っていないんだから。
再び蛇口へ、手をお椀の形に水を溜め、また僕も口を開ける。ぴちょん。以上。
発想は間違ってない。間違ってはいないのだが――彼女は不器用すぎた。
水を運んでくる間に下からドバドバと零れている。
それを四~五回繰り返し、彼女は蛇口の前で活動を停止した。
この間、会話はゼロだ。
活動を停止したかに見えた彼女の肩がピクリと動いた。
多分方法を探していたんだろう。そしてそれを発見した。
ネバーギブアップの精神を称えたい。
彼女はゆっくりとホースに顔を近づけると――飲んでる……のか?
いや違う。口に含んでいるんだ。まさかの口移し。
どんだけハイレベルなんだ。でも手段はこの際何でもいい。水が欲しい。
戻って来た彼女に、僕は必死に口を開ける。やっと飲める。やっと――。
彼女が口を開けた瞬間、長い前髪が水を遮り、彼女の制服を濡らした。
その時僕は気付いてしまったのだ。
――この子、馬鹿なのかもしれない。
身体中を包む倦怠感と鈍痛。吐き気と眩暈。
具合が悪いなんてもんじゃない。
このまま死んでも不思議じゃない。そう思わせるほどの体調だった。
小、中と皆勤賞の僕だったが、もはや学校に行こうと微塵も考えないレベル。
息も絶え絶えにスマホに手を伸ばし、学園に電話をかける。
ちなみに登録されているのは未だに父と学園のみだ。
「おう、愛染か? どうした?」
優雅な保留音の後、子供先生の声が聞こえた。
「あ……おはようございます……。起きてから体調が悪くて……もしかしたら死ぬか――」
「おー風邪か。分かった。気をつけろよー」
全てを言い終わる前にきられてしまった。ああ無常。
黒影の餌……扉の向こうに置いてあるのかな。
馬子がタイミング良く現われてくれないかな。
喉がカラカラで息が詰まりそうだ。全身が熱い、視界がかすむ。
生誕が馬小屋なら、某神様みたいに解釈と脚色で美談に仕上げる事も出来ようが、死に場所が馬小屋では悲惨すぎる。
最期を看取るのが黒影ってのもヤバイ。
誰にも伝えられない。
薄れゆく意識の中、そんな下らない事を考えていた。
「ん――ひぃっ!?」
目を開けた瞬間、心臓がギュウウウウウウン! と音を立てた。
これはオノマトペの類ではない。確かに聞いた。マジで聞こえた。
どうしてそんな音を立てたかと言うと驚いたからだ。
心臓が悲鳴を上げるほど驚いたからに他ならない。
目の前にいたのは、女子高生のオバケ。
いや、正確にはオバケじゃない。山棟蛇纏だ。
でもその見た目は完全にオバケ。突然目の前に現れたら貞子も裸足で逃げ出すはずだ。
もっとも普段靴を履いているかは不明だが。
何だろう。何で彼女はここに居るんだろう。
表情も見えず、無言。
かろうじて身に纏った制服が、こっちを向いている事を示しているだけだ。
怖い。マジ怖い。
「み……水……」
カラッカラに乾いた喉では、それを口にするので精一杯だった。
幻覚や、本当に幽霊だったらどうしよう。
そんな事を考えるほどの間が空いて、彼女はゆっくりと歩き出した。
水ホースの繋がれた蛇口の前で立ち止まると、キョロキョロと辺りを見回している。
多分コップを探しているんだと思うが――残念、生憎だが常に直飲みだ。
さてどうする。ってかマジでどうする。
頼んだ僕ですら分からない。どうやって水を持ってくる?
すると、彼女は少し蛇口を緩め、ホースから出る水を両手に溜め始めた。
凄い。天才。マジリスペクト。
満タンになったのか、彼女が戻ってくる。餌をねだる雛鳥よろしく、僕は口を開けた。
ピチョンと水滴が舌を濡らす。だがそれだけ。いくら待っても落ちてこない。
そりゃそうだ。水が入っていないんだから。
再び蛇口へ、手をお椀の形に水を溜め、また僕も口を開ける。ぴちょん。以上。
発想は間違ってない。間違ってはいないのだが――彼女は不器用すぎた。
水を運んでくる間に下からドバドバと零れている。
それを四~五回繰り返し、彼女は蛇口の前で活動を停止した。
この間、会話はゼロだ。
活動を停止したかに見えた彼女の肩がピクリと動いた。
多分方法を探していたんだろう。そしてそれを発見した。
ネバーギブアップの精神を称えたい。
彼女はゆっくりとホースに顔を近づけると――飲んでる……のか?
いや違う。口に含んでいるんだ。まさかの口移し。
どんだけハイレベルなんだ。でも手段はこの際何でもいい。水が欲しい。
戻って来た彼女に、僕は必死に口を開ける。やっと飲める。やっと――。
彼女が口を開けた瞬間、長い前髪が水を遮り、彼女の制服を濡らした。
その時僕は気付いてしまったのだ。
――この子、馬鹿なのかもしれない。
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