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プロローグ
しおりを挟むここは、地球より離れた世界、【グラフ】。
この世界の一つの王国の神殿で、勇者召喚が執り行われた。
────コウウルト王国。
王城の北側にある神殿の最奥に、百人ほど入る大きな部屋の中に、白色の幾何学模様の魔法陣がある。その周囲を白いローブを着た男女が囲む。
膝を着いた状態で両手を床に付け、小さな声で呪文らしきものを唱えている。
「これで、我らの望みが叶うのだな……!」
「その通りでございます、陛下。我らの望みは民の望みでもあるのです。必ずや勇者召喚を成功させてみせましょう。では、召喚陣起動!」
白地に金色の細やかな刺繍が施されたローブを着た老人が、指示を送る。
王城の神殿の最奥に設置された幾何学模様の魔法陣が淡い水色に輝き始めた。
「もっとだ!もっと魔力を込めよ!輝きが白に近いほど召喚の成功率が上がるのだ!」
「おお……!」
「さあ!白に輝き始めた!今こそ魔力を放出するのだ!」
老人の指示により、部屋の中が輝き───室内を白く染め上げた。
☆☆☆☆☆
「マリちゃん!帰ろー!」
「今行くー!」
パタパタと教室内を駆け足で移動し、少女二人が校舎から外に向かって廊下を歩きだした。
「サラちゃん今日はどこかに寄る?」
「うん。『ルルナ』でお茶して帰ろー。夏限定のスイーツが終了間近なんだって」
「本当?それは行かなきゃね」
クスクス笑う真理亜を見て、更紗も笑う。
二人並んで歩きだし、昇降口を抜けると、夏の陽射しもまだまだ健在で。外に出るとじっとりとした熱気に包まれた。
「まだまだ暑いわね」
「そうだね。所で、今日は彼氏と会わないの?」
「うん。今日は会わないよ。何だか最近よそよそしくって」
「そうなんだ……」
高校の校門を抜け、いつもの通学路へと出た二人は、いつものように町の商店街の方向へと歩いていく。
高校最後の夏休みが明けた新学期。
マリちゃん、と呼んだ少女────白神更紗は、ストレートの黒髪
。前髪が目を隠しているせいで見えないが元気の良い高校生だ。
マリちゃんと呼ばれた少女は小松真理亜。
緩くウェーブのかかった黒髪は腰まであり、小顔で色白、少し垂れ気味の黒目の美少女だ。
優しげに笑う姿は庇護欲をそそる。
しかし、その見た目に反して気が強い。
「もう良いの。今度会ったら別れるつもり」
「そっか……」
「うん。先週の日曜日、知らない女と腕組んで歩いてるの見ちゃった」
「うわー……。修羅場?」
「ないない!清い交際したかった訳でもないのに、『まだ高校生だから』って手を出してこなかっただけ良かったと思ってるの。彼から付き合いたいって言われただけだし、大して好きでもないから傷付かなかったもの」
「そう。だったらメール送っちゃえば?それともまだ会いたい?」
「そうねえ……。特に会いたいとは思わないのよね。そうしようかな」
そんな会話をしながら歩き、商店街に続く最後の信号。歩行者信号が赤で、二人は立ち止まった。前に立っているのは他校の高校生3人。近くのセレブ高校の制服だ。
「あれ…藤高校の生徒会長達だよね」
「うん。商店街になんの用だろうね。サラちゃんどう思う?」
「嫌な予感がする……」
この場所での信号待ちは、あの時を思い出す。更紗の両親が消えた場所なのだ。
時間、日にちは違うが、お昼時の日差しの強い時間。何もないことを願う。
「───ラちゃん、サラちゃんってば」
ハッとした更紗が、真理亜の方に振り向いた。
「ごめん、考え事してた」
「もう。信号変わりそうだよ」
「わ、ホントだ。で、マリちゃんメールしたの?」
「したわよもう。彼は仕事中だから後で見るんじゃないかしら」
「そっか。あ、渡ろう?」
「うん」
歩行者信号が青に変わったのを見た更紗は、真理亜と並んで歩きだす。
何事もなく横断歩道をわたり終え、更紗は小さく溜め息を吐いた。
「……良かった」
バクバクと鳴る心臓の音。
落ち着きを取り戻しかけたとき─────事件は起きた。
「なにコレ!?」
真理亜の声に驚いて、更紗が顔を上げると、先程見た高校生3人と真理亜が白い魔法陣に囲まれていた。
「!!マリちゃん!」
咄嗟に更紗が真理亜の腕を掴み、魔法陣から引っ張るがびくともしない。
懸命に引っ張り続けたが、魔法陣の輝きが増し、数秒後にはそこから5人の姿は消えていた。
☆☆☆☆☆☆
「うん……ここは?」
最初に起きたのは、高校生3人組。
周囲が静かすぎるが、人の気配が多く、
周囲を見渡した。
「おお……!成功だな!」
「はい、陛下。勇者様達の召喚は成功致しました。落ち着きましたら、説明のほうをしていきましょう」
「うむ。では、ケルス。そなたが説明をするのだ」
「かしこまりました」
白いローブの老人が恭しく頭を垂れると、陛下と呼ばれた男性は部屋の隅に置いている2人がけのソファに座り、お茶を飲み始めた。
────そして、現在の状況などの説明を受けた。
高校生3人の構成は、男子が2人に女子が1人。
名前は男子から、大佐古 大、鳥居 陣。
女子が本城胡桃。
「では、帰還方法は無いと?」
「……申し訳ありません。それともうひとつ。召喚は4人だけでしたが、1人多いのです」
そう。帰還方法が無いと言われた5人は、1人多いことが計算外だったらしい。
召喚された少年少女達は、落胆する者、歓喜する者、落ち着いている者。
様々ではあったものの、皆へ国王から説明と謝罪を受け、納得出来ないながらも訓練を受け、世界に広がる闇を払うためにパーティー5人で旅することになった。
─────そして、それから1年後。
「白神更紗。パーティーを抜けてもらいたいんだけど」
朝食時。朝のご飯を美味しく食べている、宿の食堂の一角に座っていた、見た目が地味?な少女。そこに来た勇者パーティーのリーダー、鳥居陣からのパーティー離脱の要求。
離脱申請の用紙をテーブルに置き、断ることを許さないと言いたげな目付きで、更紗を見ている。
(そうだよね…………。魔法師は胡桃ちゃんの方が強いもんねぇ。私、レベリングしてるけど隠してるし。カップルメンバー見るのもアホらしかった……。マリちゃんには悪いけど、やっと1人になれるから頷いておこう)
更紗は小さく溜め息を吐くと、頷いた。
「……分かりました。今まで一緒に居てくださって有り難うございます」
更紗は頭を下げ、離脱申請の用紙を手に取って席から立ち上がり、外へ向かうために歩き始めた。
「君はこれからどうするんだい?」
不意に、後ろから声を掛けられる。
背中越しに振り向いた更紗は、小さく笑った。
「自分のペースでレベリングして、何処か違う街へ移動します」
それじゃあ、と言うと外へと出ていくのだった。
「彼女、出ていったの?」
「────胡桃か。ああ、素直に出ていったよ」
物陰から出てきたのは、同じパーティーの本城胡桃。
清楚系の美少女だ。
「ふうん。もう少し媚びるかと思ったんだけど」
「あんな地味な見た目で媚びられても、どう対処して良いか分からないよ。顔を見せるわけでもないからなに考えてるかわからない。俺達の関係の事も気付いていないようだしさ。魔法師は胡桃、補助魔法師は斥候を兼ねた真理亜が居るから大丈夫。勇者は俺だし、聖騎士は大が居る」
「そうね。地味で、職業が《魔法師》って。私と同じくらい強いのかと思ったら、そんなに強くなかったわね」
───そう、更紗を外したメンバーは、カップルだ。1人邪魔だと思ったこの2人は、レベリングが上手くいかない(ように見せかけていたのを仁と胡桃は知らない)更紗を外したかった。
1年前、この世界、【グラフ】のコウウルト王国の勇者召喚で、彼らは呼ばれた。その国王の命令で1年間は置いていたが、その後は自由にパーティーを組んで良い事になっている。
現在は、王都から離れて西の方の街《ロイティ》の近くの小ダンジョンを攻略中だ。
「これから4人で行動するのだから、早く真理亜達の所に行きましょう」
足手まといがいなくなったのを喜ぶように、二人は宿の奥の方へと消えていった。
☆☆☆
そして現在、更紗は冒険者ギルドの前に立っていた。
「やっと1人になれた~。戦闘魔法師、調べられなくて良かったよ~」
ギルドの扉の前で伸びをして、中に入ると真っ直ぐ受付へ向かう。
「おはよう、サラちゃん。今日も採集依頼をやるの?」
「お早うございます、カンナさん。採集依頼の前に、この書類の受理をお願いします」
更紗は受付カウンターのテーブルに離脱の書類を置く。それをカンナが覗き込んだ。
「あら!漸く、このパーティーから離脱することになったのね!すぐ手続きするから待っててね!」
カンナが書類を持って、受付の奥へと姿を消した。
時間にして、1~2分。カンナが戻ってきた。
「正式な書類と判明したので、滞りなく受理が済んだわ!サラちゃんこれからどうするの?」
こてん、と首を傾げるカンナの姿を見て可愛いなぁと思いつつ、更紗はニコニコ笑った。
「取り敢えず、採集依頼をこなしてきます。常駐依頼だから、これからのんびりレベリングしていこうと思って。採集は私も必要なものがあるので丁度良いんです」
「そうだもんねぇ。最近出回る色んな石鹸は、質が良くなって安価だから。サラちゃんのレシピのお陰だわ」
私もお世話になってるのよ、とカンナが続ける。
「有り難うございます!皆さんに教えた甲斐がありました」
ニコニコする更紗を見たカンナが苦笑する。
「それに、あんなカップル同士の中に居るのは辛いよねー?向こう気付いてないと思ってるみたいだったけど」
「そうですね。カップル同士の中に居るのは、ちょっと居心地悪かったです。では、行ってきます」
苦笑しながら、ペコリとサラは頭を下げる。
「はい、気を付けてね。採集だけって言っても、魔物が出るんだから!」
「はーい!」
サラはヒラヒラ手を振って冒険者ギルドを後にした。
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