勇者パーティーを離脱したので黒狼さんと旅に出ます。

葵沙良

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─────夜が明けはじめて明るくなってきた早朝。更紗とルトは、町の市場へと来ていた。

「さて、食料を買い込もうか。ついでに朝食も」

「うん。朝ごはんは食べながら森に行くの?」

「いや。屋台で食べてからの方が良い。食料を買いながら適当な店を探そう」

    ルトと共に歩き、市場の中の食品売り場へと向かう。

「必要なものは?」

「書き出してあるよ。はい、これ」

ルトが渡された羊皮紙を受け取ると、視線を落として確認する。

「んー……。玉ねぎに人参、芋に小麦、調味料類に麻の袋(大)、解体用のロープか。じゃあ、こっちのマジックバッグだな。肉類はどうする?」

「ルトさん?」

「ん?」

「そのマジックバッグ…」

「ああこれ?俺が製作したやつ。金は大してかかってないよ」

   ちょっと待て。何かおかしい。ルトは武器製作職人ではないのか?大きな疑問が更紗の頭にのし掛かる。

「あ、今疑問に思ったろ?」

「うん。ルトさんの職業って何?」

「そういや言ってなかったな。俺は職業ランク持ちでね。ランクは『トリプル』。職は『武具職人』と『魔道具職人』。それと『剣士』だ」

「えっ……!『トリプル』!?」

    この職業ランク。この世界では職種によるランク分けがされている。

    まずは『シングル』。職業が一つのみ。専門の職にありつけるので一般的なランクだ。

    『ダブル』は職業が二つ。これだけでもそれなりの需要がある。就いている職種によっては王城に勤められる者もいる。

    最後に『トリプル』。これはとても稀なランクだ。
主に製作系の職種が入っている。時折戦闘系の職業が一つ入るので、旅をしながら製作と販売をしている者もいる。

「ああ。剣士のレベルはそんなに上げてなくて。剣士のレベルアップをやろうかと」

    ルトは『更紗と出会ったときに痛感したんだよ』と言葉を続けた。

「あの時か…。確か私よりレベル低かったんだっけ」

「そうそう。チャームローズ追い払えるレベルだったけど、鉱石採集に夢中になってたから背後を気にしてなかったんだよなー…」


   苦笑しながら頭を掻くルトを見た更紗がクスリと笑う。

「じゃあ、一緒に頑張ろう!」

「ああ。よし、買い物を続けようか」

「うん」

    会話を早々に切り上げた二人は、市場の中を回る。野菜類を買い込んだ。

「この先に美味いパン屋があるんだ。そこで朝食にしよう。時間が惜しい」

「はーい。どんなパンがお勧め?」

「サンドイッチが美味いな。種類も豊富だから、行ってからのお楽しみだ」

    荷物をマジックバッグに仕舞い込むと、満面の笑みを浮かべて更紗の手を引いて歩きだした。

「後はもう無いよね?」

恥ずかしさを誤魔化すように更紗が聞き返すと、少し考えてルトが振り返った。

「多分終わりだと……ああ、まだある。革細工屋にちょっと寄るぞ」

「革細工屋?」

「ああ。買いたい鞄があるんだ。パン屋の近くだから」

   とにかく行くぞー、とルトが続けて更紗を連れて歩く。少し急いでいるのか、更紗が軽い駆け足になるのにも気付いていないようだ。

「る、ルトさん速いっ」

「お、済まない。ちょっと嬉しくて」

   歩みが緩むと、更紗は少し呼吸を調えてルトを見上げた。

「嬉しいの?」

「ああ。俺の職業って特殊だろ?それ狙いで寄ってくる輩が多くてね。人との交流に嫌気がさしてこの街まで来たんだ」

「そうだったんだ……」

「ああ。この街に来て良かったよ。更紗と出逢えたしな」

    ルトが更紗を見て満面の笑みを見せる。
イケメンが笑うと眩しいです、うん。

「そっか。ね、パン屋さんは?」

「ああ、そろそろ…っと、ここだ」

    ルトが立ち止まった3メートルほど先に、青い屋根の小ぢんまりとした可愛らしいカフェが見える。
外にテラス席が備え付けられたそのカフェは、早朝だというのに賑わっていた。
看板に『カフェとパンのアリョーシャ』と書かれている。

「わあ……!可愛い!」

「やっぱりな。更紗なら気に入ると思った。中に入ろう」

「うん!」

    青い屋根に白い壁。周囲に植えられた木々でカフェが映えるように剪定され、テラスに心地好さ気な陰を作り出している。

「いらっしゃいませ~!って、ルトじゃん!おはよう!」

     小麦色の肌に赤毛をサイドで三つ編みに纏めた濃いグリーンの瞳の可愛らしい女性が元気に挨拶してきた。ルトの少し後ろにいる更紗には気付いてないようだ。

「おはようアリー。朝食を食べる席は空いてるかい?」

「ああうん!いつものカウンター席は空いてるよ!」

「いや…二人席が良いんだ。更紗」

「う、うん。……おはようございます」

    ルトに促されて右横に並んだ更紗は、おずおずと頭を下げた。
いきなり出てきた更紗を見た女性は、数秒間ポカンとすると、ずいっとルトに詰め寄った。

「ねえ、ルト?この子どっから連れてきたの?こんな良い子貴方には勿体ないわよ!」

    キッ!と背の高いルトを睨み上げた女性の行動に、ルトは真剣な眼差しを向けた。

「やっぱりアリーには分かるのか…」

「分かるわよ!この子の周りは空気が澄んでるもの。ルト……大事な子なのね?」

    一定の距離を開けたアリーと呼ばれた女性が腰に手を当て少しのけ反るようにルトを見た。

「ああ。彼女の名は更紗だ。更紗、この人は俺の友人でアリョーシャだ」

「初めまして。更紗です。宜しくお願いします」

「初めまして!アタシはアリョーシャよ!アリーって呼んでね!ルト共々宜しくね!じゃあ、二人席に案内するよ!付いてきて!」

    先に歩いていくアリョーシャの後を付いていくと、テラス席の二人席に案内された。

「ここどうぞ!あ、朝食の方はどうする?」

「そうだな…。更紗が初めてだからお勧めのミックスサンドとコーヒーかな。更紗は飲み物コーヒーで良いかい?」

「うーん…。果実水で」

「ん!了解だよ!すぐに持ってくるよ!」

    ニコニコ顔で注文を聞いたアリョーシャはパタパタと厨房の方へ足早に入っていった。

「はー……。元気な人だね」

「ああ。明るくて楽しい人だよ。で、食事が届くまでに話しておきたいんだけど」

「なに?」

「これから森に行くだろう?予定としては1週間。この間に俺の剣士のレベルを上げる。更紗はどうするんだ?」

「んー……先ずは近接を鍛え直したいかな。剣も使えるんだけど、杖術の方が得意なの。対人、対魔物の戦闘のやり方が違ってるのは剣で実証済みだから」

    腰に手を伸ばして軽く剣を叩いた更紗がルトを真っ直ぐに見る。

「それ……」

「うん。ルトさんを助けた後に魔力配分を間違って剣を駄目にしたって話したら『使え』って貰った剣」

「そういや、使った感想聞くの忘れてたな。どうだ?刃こぼれとか無いか?」

    剣に視線を落としながら聞いてくるルトの姿を見た更紗がクスリと笑う。

「無いよ。ダンジョンに行った時に違う冒険者から売って欲しいって言われたことがあるけど、手離すつもり無かったし」

    ルトから貰った剣の外装はいたってシンプルで、更紗はとても気に入っている。
パッと見た感じではそこら辺に売っている剣にしか見えないが、中身が違うのだ。ベテランは見分けてしまうので、パーティーから離れると良く声を掛けられた。

「良く無事でいられたな……」

「ああ、あのくらいなら何とかなるよ。Bランク以上が出てきた時はちょっと厄介だったけど」

    不意を突いて逃げたのよね、と言葉を続けた更紗に、ルトは深い溜め息を吐いた。

「オリジナルサンドと飲み物お待ちどうさまー!」

    話が途切れた辺りを見計らったかのように、アリョーシャが食事を運んできた。
トレーの上の皿には、パンに野菜や肉が挟まっているボリュームのあるサンドイッチが乗っていた。

「あれ?どうしたの?」

    微妙な空気が流れている更紗とルトを見たアリョーシャが首をかしげつつ、トレーをテーブルに置いた。

「いや、何でもない。今日から暫く森に籠るからその話し合い」

「ああ!だからこんなに早いんだ。じゃ、しっかりねー!」

    テーブルにトレーを置いたアリョーシャは急ぎ足でルトと更紗のテーブルから離れていった。お店を切り盛りしている姿はとても楽しそうだ。

「ま、もう終わったことだしな。これからの事を話し合おう。食うぞ」

「うん。いただきます」

    更紗は果実水を一口飲み、サンドイッチに手を伸ばした。コッペパンの間に野菜と肉がぎっしりと挟まれ、なかなかのボリュームだ。
そのパンに噛りついた更紗は、少し目を見開く。

「美味しい……!」

「だろう?じゃ、食べたら森に入った時の話し合いの続きをしよう」

    ルトが思い切りパンをかじって頬張り、しっかり咀嚼する。
その姿を見た更紗も再び食事を始めるのだった。








    



    

















    
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