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1章 皇国での日々
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しおりを挟む「さて、ではお勉強を始めていきましょうか」
「よろしくお願いいたします、リヒト」
ああ、素直ってかわいい、そんなことを言いながらにこやかなリヒト。きっと今まで苦労してきたのだろうな、ということが少しだけわかる。
今日はリヒトの授業初日。授業はリヒトの仕事の合間をぬって行われることになったので、今まで時間が取れなかったのだ。無理をさせてしまって申し訳ない……。別に僕は勝手に勉強するから、とも言ったのだが断られてしまった。資料を用意するのも大変だからもう直接教える、と。そういわれてしまえば、否とは言えなかった。
見た目からしてそんな気はしていたが、リヒトは副隊長ではあるが、基本は現場にはいかない。事務仕事の補佐がメインみたいだ。以前、この隊について軽く説明してくれたのだが、この隊は国内で発生したダンジョンの攻略をメインにしているらしい。だから、兄上が隊長として隊を率いて、ダンジョンへ向かう。そこからの報告をまとめたり、各所とのいろんな調整をしたりといったことをリヒトがやっているみたいだ。
そしてダンジョン。詳しくは教えてもらえなかったが、ここにはそんなものがあるのだ! まさにファンタジー! 今は禁止されているけれど、いつかダンジョンに行ける日が来ることが楽しみだ。
さて、剣がある、ダンジョンがある、そんなこの世界にはなんと魔法もあるらしい! 教えてくれ、とせがんだが時間がないと断られてしまった。その代わり今度兄上がまとまった時間をとれる日に訓練に付き合ってくれると約束してくれたのだ。ますます兄上の休みが楽しみです。
と、今はまず授業に集中しないと。
「まずはどこまでご存じか知りたいのですが、一度も家庭教師が付いたことがなかったのですよね」
「はい」
「では、漏れがあっても困りますから初めから行きましょう」
そういうと、早速国の説明から入る。この国がアナベルク皇国というのはさすがに知っています。周辺の国が載っている地図を広げると簡単に付近の国の説明をしながら、皇族の話になっていった。
「まず、陛下にはあなたの母君であるリゼッタ側妃も含め、5人の妃がいます。
スランテ王国の王女であったショコランティエ皇后、ジャグラ公爵家の令嬢であったフロラーン皇妃。
そして、元サーン伯爵家令嬢のミヤンテラ第一側妃、元シャラべ王国王女のシラマーラ第二側妃、最後にリゼッタ第三側妃。
皇后から側妃に至るまで、明確な順位付けがされているのが特徴ですかね。
特に気を付けていただきたいのがショコランティエ皇后です。
この方は野心家ですからね」
そういって苦笑いするリヒト。うん、それは知っていた。本当にお近づきになりたくない人ですね。僕は後宮でおこなわれるお茶会に出たことがないから会ったことがある人が皇后くらいなのだけれど、それ以上に警戒しなくてはいけない人がいなかったことは少しだけ安心した。あの人よりも厄介ってもう無理って思うもの。まあ、息子はなかなかの人物だったけれど。
そのあともそれぞれの子である異母兄弟の説明がされる。自分が第七皇子だって知ってはいたけれど、こうして兄弟の説明されるとなんだかなー、って気持ちになる。元が一人っ子だったからっていうこともあるかもしれないけれど。
「どうして、母上も兄上も僕にこういう説明をしなかったのだろう?
簡単には教えていただいたけれど、こうして一人ひとり説明されたのは初めてだ」
「……、これは私の想像でしかありませんが。
きっと皇子を守りたかったのでしょう。
何も教えないことで、あの離宮だけで生きることで、後宮の様々な問題に触れさせないようにしていた。
それがあの方たちなりの守り方だったのでしょう」
それが正しいかったのか、それはまだわかりませんが。そう付け加える。ああ、きっと。母上と兄上のやってきたことが正しかったかどうか、証明できるのは僕だけなんだ。僕がこの後どう生きるかで、決まってしまう。背筋が伸びる思いがした。
「そういえば、皇子は皇帝陛下にお会いしたことはありましたか?」
「何度かあるよ。
だけど、話したことはない。
お会いするときはいつも母上に会いに来られる時だから、僕はすぐに退室するんだ」
「そうでしたか。
後、皇族にお会いしたことは?」
「あと……、あとは皇后陛下と第2皇子くらいかな。
わざわざ嫌味を言いに来られるんだ。
それ以外はお会いしたことがない」
「両陛下と第2皇子にしかお会いしたことがないとは、何とも珍しい。
ふつう逆ですよ。
特使などの謁見でも皇妃様などが出るだけ、ということもありますし」
それはいいのか、と思わず突っ込みたくなったのは仕方がないと思う。さすがに皇帝としての役割はきちんと果たしている、よね? え、なんでそこで目をそらすんですか?
「まあ、そこは置いといて。
もう顔を合わせた方もいると思いますが、今後は誰ともお会いする機会もあります。
充分にお気をつけください」
ううん、人間関係ってやっぱり面倒。このままではいけないということは知っている。けれど、ああやって守られている方がやっぱり楽ですね……。
そのあともまちまちとした間隔ではあったが、リヒトとの授業が開催された。リヒトは優秀な先生で、僕にとても分かりやすく説明してくれる。本当に自分が神童になったのではないかと勘違いさせてくれるほどだ。
「いえいえ、皇子が優秀なのですよ。
私は今まで誰かに教えたことはありませんが、この速度が異常なことはわかります。
……意図したこととは違うのでしょうが、家庭教師をつけなくて正解だったのかもしれません」
えーっと? 家庭教師をつけなくて正解って言われると、なんだか複雑な気がする。
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