『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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3章 冒険者養成校

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「それにしても、お前らの場合、もうパーティを組んで財布が共有になっているから、誰がどれを倒したのか覚えてなくて済んで楽だな」

 職務怠慢じゃないか。ちゃんと働け、と言いたいところだが、一応ちゃんと働いている。俺たちの剣やフェリラの弓についてのアドバイスを、意外にもきちんとしてくれるのだ。それでも、こういう発言でプラスになった感情がまた下がっていくのだが。

 そのあとも俺たちはいたって順調に進んでいく。そのせいで前に出発したグループに合流してしまった。

「ひぃ、こ、来ないで!」

「で、でかすぎるって」

「きゃーーーーー!」

 う、うるさい……。なんでこんなに叫んでいるのか。

「あー、妙に冷めた目で見ているが、普通あんなもんだからな?
 むしろ叫びもしないお前らがおかしいというか……」

「叫ぶのが、普通?」

「だって怖いだろ」

「でも、魔獣自体は身近だったからな~」

「はは、僕も最初はあんな感じだったな。
 でも、叫んでいたら逆に危ないって気が付いたから」

 怖い、怖い、恐怖。リキートも最初は怖かったのか。自分は? 怖く、なかった。それは、シャリラントがいたから? いや、違う。これ以上の恐怖を知っているから。だから、俺は。

「氷よ、その大蛇の身を貫け。
 炎よ、そしてその身を焼き尽くせ」

 ザシュッ、という音の後にゴウゴウと燃え上がる。そう、こんなにも便利なのだ、魔法は。こんなにも強力なのだ、自分は。そしてシャリラントもいる。まだ詳しくはどんな剣なのかわからない、しかし、味方でいてくれるのだ、最強の武器が。

「あ、あの、ハール!
 もういいから、この火、どうにかしてくれないか?」

「あ、ごめんなさい」

 しまった、いつの間にか大蛇の大部分が燃えていた。その周りで悲鳴を上げていた同級生たちもその様子をぽかん、とみている。

「さすがハールだな」

「ほんと」

 そんな風に平然と受け止めているの、二人くらいだぞ。あ、中心に魔石が落ちている。それまで燃やすことにならなくてよかった。

「こんなでかい魔石、早々見ないぞ?
 はぁ、今日の演習はこれで終わりだ。
 養成校、戻るぞ」

「え、でももっとできます」

「元からこの中長倒すのが、最終地点って決まってたんだよ。
 まさか本当に倒しちまうとは思わなかったが」

 せっかくのってきたのだ。もっと進んでみたがったが……、だめと言われるのならば仕方がないか。ここで無理に進まなければいけない理由もない。卒業までにも何度かダンジョンには行くらしいし、どこかのタイミングでは長のところまで行ってみたい。

「それじゃあ、今日はゆっくりと休むように。
 本日の報酬額はまた連絡する」

「はー、終わった!
 今日はゆっくり休みたいね」

「そうだね。
 それにしても、ダンジョンによって出てくる魔獣があんなに違うんだ」

「今日はなんだっけ。
 蛇に蝙蝠に、トカゲにネズミ?
 ネズミって爬虫類だっけ」

「いや、違うと思う」

「……少し外出てくる」

「え、どこに?
 今日はもう休んだ方がいいって」

「すぐ戻る」

 外に出るとはいえ、どこかに買い物に行くわけでもない。ただ、少し整理がしたかった。それ以上説明できる言葉もなく、俺はひとまず寮の近く、人があまり来ないところに向かった。


『なんだかずいぶんとご乱心ですね』

(……一つ、気が付いたことがあったんだ)

『なんでしょう』

(俺はさ、やっぱり魔獣が怖くないんだ。
 俺にとって怖いのは、きっと死ぬことじゃない。
 手に入れた幸せを、失うのが、一番怖いんだ……。
 だから、魔獣と対峙しても怖くなかった。
 だから、俺は、向き合えないんだ)

 泡沫の間で、記憶を開けていくとき。幸せな記憶のはずなのに、それにはいつも痛みがついて回っていた。それがなんでか、ずっとわからなかった。でも、今日。目に見える恐怖におびえる人たちを見て、気が付いてしまった。

 無理に封じて、そうすることで自分を激情から守ってきた。その時は必至すぎて気が付かなかった。まさか、2度も自分を苦しめることになるなんて。

『それで、あなたはどうしたいと?』

(苦しみながらも、少しずつ思い出すようにして。
 いろんな感情が一緒に入ってきた。
 ……なあ、俺は醜いな)

『……?』 

(暖かな思い出に嬉しくなって。
 でも、次の瞬間にはそれがすでに失われたことを思い出す。
 その、憎しみも。
 そして、俺には今、すべてを覆す力があることを思い出すんだ)

『はい』

(こんな目に合わせたあいつらが、のうのうと生きているのが、許せない。
    蓋をして、外だけ身綺麗に見せたって、俺の中身はこんなにも醜いんだ。
     ……だから、願ってしまう。 
 あいつらを苦しませてやりたいと。
 あの時、願ったことの続きを、この手で。
    いいのかな、こんな俺で?)

『私は力になります』

 決断するのは自分だ。そう言われてるんだろう。本当にいいの? 二人はそんなこと望んでいない。こんなことを口にするのすら、大罪を犯しているのではないか、そんな気持ちになる。それでも。

「俺は、自分であいつらに罰を、与える」

 はは、情けない。こんな時に声が震えている。そんなにも怖いか。

「でも、正当な手段で、だ。
 あいつらみたいに、自分が気に入らないから罰するなんてしない」

『それならどうするんですか?』

 っと、口に出していた。さすがに誰かに聞かれたらまずい。

(あいつらがまともに国を統治していると思うか?)

『い、いえ。
 思うか、というか、していません。
 これ以上詳しいことは言いませんが、断言しましょう』

(まさかここで断言されるとは……。
 まあ、いい。
 俺には国を統治する脳はない。
 だが、相手は皇帝と皇后、下手に手を出すと国が崩れる。
 それを避けるには、下地を作ってからでないと)

『いいのですよ? 
 殺してすっきりでも。
 あなたにはその権利と力があります』

(言っただろ、あいつらと同じことはしないって。
 それだけは絶対にしない)

『まあ、それがあなたの願いならばいいのです。
 よかった、ようやくあなたは……』

(ひとまずは養成校を卒業しよう。
 あそこでは戦闘の基礎を学べる)

『ええ、それがいいでしょう。
 焦ってはだめです。
 大丈夫、あなたがこれまで我慢した7年よりもずっと短い時間です』

(はは、慰めてくれるんだな。
 ……うん、ありがとう)

 これで、いいよな、何が正解とか、わからないけれど。ああ、でも。リキートとフェリラはどうしよう。なんだかんだ、あの二人といるのは楽しかった。それは本当の気持ちだ。

『私が言うのもおかしいですが、そんなに深く考えなくてもいいのでは?
 あなたはどうも極端だ。
 もっと、楽に生きてほしいのですが……』

(まあ、これは性格だからな)

 本当、損な性格していると思う。でも、これからどうしたらいいのか、流されるままの日々ではなくて少し向かうべき場所ができた。それだけでも、「これから生きていく未来」が見えてきた気がする。
 まあ、具体的な案は一切ないのだが。
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