『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
80 / 178
4章 皇国

16

しおりを挟む
 思い切り息を吸って、そして吐き出す。心臓が勝手にばくばくと音を立てている。まさか、今になってこんなに緊張するとは思わなかった。服装はあまり上品ではないものを。今日から俺は下働きのハールになるから。

「ここからは私もあまり口出しができません。
 何か、動かないといけないと判断することがあればもちろん助けますが……」

「うん、ありがとう、リヒト。
 頑張るよ」

 リヒトの屋敷でこもっている期間、実はすごく楽しかった。それぞれの立場を整える期間、フェリラ―チェシャは特に意識して男子になっていた。服装はもともと動きやすいものばかりだったけれど、より男子が着るようなものにした。口調は、まあもともと荒かったからそのままで。

 髪も、バッサリと切っていた。さっぱりした、とにかっと笑ったチェシャ。その心情を探ることはできなかったけれど……。でも、そんなチェシャの側にリキートがいてくれることを本当に感謝している。屋敷を出るときは任せておいて、と頼もしい顔で送り出してくれた。

 はぁ、これから一人で頑張らないといけないのがこんなに心細いとは……。しばらく二人が一緒にいてくれたからこそ、こんな気持ちになってしまう。

「そろそろ行きましょう」

「うん」

 本当にこんな状態でここに帰ってくるとは思っていなかった。いつか……。


「リヒベルティア様、そちらの子が?」

「はい。
 ハールといいます」

「ハール、ですね。
 わかりました、引き受けましょう」

「ああ、よろしく頼む」

 リヒトに一礼をした後、こちらに、と案内をされる。その視線があまりいい気分のものではないけれど、ここは我慢するしかない。リヒトはあくまで冷淡にお願いします、とこの場を去ろうとする。去り際、目の前の人に気づかれない程度に背中を軽くたたかれる。……、ありがとう、リヒト。

「私は下働きを取りまとめているマークです。
 今からあなたを指導係の人に連れて行きますが……。
 リヒベルティア様の紹介とはいえ、ここでの扱いは皆同じ。
 特別扱いは期待しないように」

 いいですね、と強く言われる。その表情も冷たい。そんな言われなくてもちゃんとわかっているよ、そう思っていてもちゃんとうなずく。まあ、これで変に勘違いした人が来られても迷惑だろうし。

 そのあとはお互いに無言のまま歩いていく。空気が重いって……。あまり歓迎している感じでもないし、なんだか速攻で本当にやっていけるのか不安になってきた。

「グルー!
 いますか」

「あれ、マークさん。
 もしかしてそいつが?」

「ああ、今日から入ったハールだ。
 まずは部屋に行って、軽く中を案内しながら仕事の説明を。
 今日はそれで終わっていい」

「わかりました」

 マークさんが立ち去った後、さて、と改めて向き合うグルーと呼ばれた人。一体どんな人だろうか、と思わず身構えたけれど、予想外にその人は人懐っこい笑みを浮かべた。

「ハールって言ったな。
 俺はグルーだ、よろしくな」

「よ、よろしくお願いします」

「はは、そんな固くなるなって。
 俺たち下働きがお偉いさんに会うことなんてないし、自分の仕事をちゃんとこなしとけばめしにありつける。 
 しばらくは俺が指導役として一緒に行動するし、まあ、気軽にな」

「ありがとうございます」

 予想外にいい人……。よかった、ちょっと安心した。部屋に案内するな、と言われてまた歩き出す。この部屋にはほかにも人がいたけれど、なんだかこちらを伺っているような感じ?

「いやー、いきなり俺が指名で指導係にって言われた時は何事かと思ったよ。
 あんま頼りないかもしれないが、まあがんばるよ」
 
 その言い方の緩さが、なんだか安心できる。それに指名ってもしかしてリヒトが手をまわしてくれたのかな?

 そして案内された部屋は2人部屋とのこと。何となく大人数の部屋になるのかとおもったからありがたい。とはいえ、かなり狭いけれど。二段ベッドがあり、その横に机と小さめのクローゼットが入り口横と窓際に一つずつ。これが机横並びならそこそこ場所を取れるのに。

「俺がもう窓際の机を使っちゃってるから、入り口側でいいか?
 ベッドも下使っちゃってる」

「あ、はい!
 大丈夫です」

 もともと少ない荷物を机の上に。服は休み中のものを持ってくればいいということだったので、本当に少ない。服はその人の財を表しやすいから、なるべく持ち込みたくなかったのだ。

「で、これが仕着せだ。
 仕事の時は毎回これを着てもらう。
 3着分配布があるから、洗濯しつつ着まわしてくれ。
 サイズの問題もあるし、早速着てみてくれ」

「わかりました」

 シャツとズボン、それにベストだけのシンプルな服。見た目はそんなこぎれいな感じでもないけれど、意外とそんなに悪いものではないらしい。思っていたよりもゴワゴワとしてなくて安心した。

「うん、ぴったりみたいだな。
 じゃあ、荷物整えたらそれを着て職場を案内するな」

 その言葉に急いで持ってきた荷物を机やらクローゼットやらに押し込む。よし、これでいいだろう。って、なんかくすくす笑われている?

「そんな急がなくて大丈夫だ。
 ……行こうか」

 うう、なんか恥ずかしいんだが。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...