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5章 ダンジョン
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「はっー!
やっと出てこれたぜ。
本当に窮屈だな」
手をぐっと伸ばしてファイガーラがにこりと笑う。最後に会った頃からさすがに変化がなさそうだ。それにつられてシャリラントも姿を現した。
「よくこんなところで暮らせるな……」
「まあ、あまり能力を使うこともありませんからね。
もう慣れましたし」
「そんなにほかの国とここは違うの?」
思わず口を出すと二人はそろってうなずいた。そ、そんなに違うのか。
「確かに、ここはなんというか息がしずらい感じはするな。
ハールは何も感じないのか?」
「そうですね……」
「ここは精霊の加護もミベラ神の加護もない国なので。
それに今は特に……」
な、なるほど。シャリラントはよくここにいてくれるな。それにしても、何度も聞いたことではあるが、本当にこの国は神や精霊に見捨てられているんだな……。神も精霊も我々の前に現れることは今現在ないらしい。それでも、こういう話を聞くと確かに存在しているのだな、とも思う。本当にファンタジーの世界だよな、と改めて感じてしまった。
ついでにここって呪われた国というよりも見捨てられた国だよな。特に暮らしていくのに毒素があるとかそういうわけではないようだし。一人納得している間にも、三人で何か話していたようだ。
「じゃあ、本当にここにダンジョンが出現するんだな」
「ええ」
「冒険者ギルドに応援を頼むことは難しい、よな……」
イシューさんが言いながら視線をこちらに向けた。
「そうですね。
皇国は開国に向けて動き出してはいますが、まだ下準備の段階ですから。
おそらくオースラン王国との条約締結を皮切りに一気に進んでいくとは思いますが、それではダンジョンは手遅れになるかと思います」
「この国でダンジョンに対応できるのは何人くらいいる?」
「……、かなり少ないかと。
それも高ランクのダンジョンにも対応できる人数というと……。
ダンジョンを攻略している人をまとめている人を呼びましょうか?」
「そうだな、どう人員を割り振るか話しておいた方がいい。
……その、ダンジョンを攻略している人たちを一か所に集めることはできるか?」
イシューさんの言葉に思わずきょとんとしてしまう。だが、すぐにどうしてその言葉が出たのか納得した。そうだよね、ダンジョンはすべて国、というか皇帝のもの! 攻略する人もこっちで指定する! とかいうのが異常なんだもんな。
普通はダンジョンは誰にでも挑戦の権利があるはずだから。
「この国ではダンジョン攻略は決まった騎士団が行うことになっています。
彼らは基本的に寮で暮らしているので今日でも全員に会えるはずです」
俺の言葉に今度はイシューさんが驚く番だった。ダンジョンは危険ではあるがその恩恵もかなり大きい。決まった騎士団が行うということはその利益を独占するということだ。他の国、そして支配下にある国では禁止されている行為である。
「そ、そうか。
それならなるべく早いタイミングで顔合わせをしたい」
「話をしておきます」
確か今はレッツさんが代表をやっているはず。一応リヒトにも話を通して、そのあと寮に行けばいいだろう。ひとまず攻略に参加できる人たちと会ったうえでこの後の予定を組むことになった。
イシューさんと別れた後にまっすぐリヒトがいる執務室へと向かう。こういう時、本当に自由に動ける身は楽だ。執務室の警備をしている人たちも俺の顔は覚えているから、すぐに通してくれるし。
「おや、スーベルハーニ皇子。
リヒベルティア様に御用ですか?」
「はい。
今は中にいる?」
「ええ。
少々おまちください」
言うと、その人は扉をノックする。すぐに返事が聞こえてきて、俺が訪ねてきたことを継げると入ってもいいと許可を得れた。
「急にごめん。
今大丈夫?」
「こんにちは、スーハル皇子。
大丈夫ですよ、スーハル皇子ならいつでも歓迎です。
どうしました?」
「先ほど、イシューさんが到着したんだ」
「!
あの、神剣の主だという方ですよね」
「そう」
うなずくとああ……、とリヒトは頭を抱えてしまった。一体どうしたんだ。
「到着されたら伝えるように言っていたのに……」
「あー……。
最初、イシューさんが誰だかわかっていなくて俺が呼ばれたんだ」
「待ってください、身元不明な人をあなたに会わせたのですか?」
「うん。
門兵も一緒にいたけれど」
「……、後でよく言い聞かせておきます」
「まあ、俺だったら自分の身くらいは自分で守れるから」
「そういう問題ではありません!」
「ご、ごめん」
頭が痛いというように頭を抱えてしまったリヒト。心労を増やしたようで申し訳ない。少しして、リヒトが落ち着くと、申し訳ございません、と謝った。そして、侍従を呼ぶとお茶を入れてもらう。
席に座るとようやく落ち着いて話ができるようになった。もともと執務室にいた人たちは一度外に出てもらっている。お仕事の邪魔をしたようで申し訳ないけれど、快く応じてくれました。
「それでどのような用件だったのでしょうか?」
「ああ、ダンジョン攻略についてレッツたちに相談をしたくて。
まずは顔合わせを、とイシューさんと話していたんだ。
一応、リヒトに話を通してから向かおうと思ってな」
「なるほど……。
確かにそれは必要ですね。
レッツの方には私から話を通しておきましょう。
日時が決まったら連絡します。
その時は私も同行します」
「でも忙しいんでしょ?」
「イシュー殿に挨拶しなくてはいけませんしね。
おそらく今日中には決まるかと」
「ありがとう、助かるよ」
紅茶を飲み切り、席を立つ。用事は終わったし、相変わらず忙しいようだから長居は良くない。
やっと出てこれたぜ。
本当に窮屈だな」
手をぐっと伸ばしてファイガーラがにこりと笑う。最後に会った頃からさすがに変化がなさそうだ。それにつられてシャリラントも姿を現した。
「よくこんなところで暮らせるな……」
「まあ、あまり能力を使うこともありませんからね。
もう慣れましたし」
「そんなにほかの国とここは違うの?」
思わず口を出すと二人はそろってうなずいた。そ、そんなに違うのか。
「確かに、ここはなんというか息がしずらい感じはするな。
ハールは何も感じないのか?」
「そうですね……」
「ここは精霊の加護もミベラ神の加護もない国なので。
それに今は特に……」
な、なるほど。シャリラントはよくここにいてくれるな。それにしても、何度も聞いたことではあるが、本当にこの国は神や精霊に見捨てられているんだな……。神も精霊も我々の前に現れることは今現在ないらしい。それでも、こういう話を聞くと確かに存在しているのだな、とも思う。本当にファンタジーの世界だよな、と改めて感じてしまった。
ついでにここって呪われた国というよりも見捨てられた国だよな。特に暮らしていくのに毒素があるとかそういうわけではないようだし。一人納得している間にも、三人で何か話していたようだ。
「じゃあ、本当にここにダンジョンが出現するんだな」
「ええ」
「冒険者ギルドに応援を頼むことは難しい、よな……」
イシューさんが言いながら視線をこちらに向けた。
「そうですね。
皇国は開国に向けて動き出してはいますが、まだ下準備の段階ですから。
おそらくオースラン王国との条約締結を皮切りに一気に進んでいくとは思いますが、それではダンジョンは手遅れになるかと思います」
「この国でダンジョンに対応できるのは何人くらいいる?」
「……、かなり少ないかと。
それも高ランクのダンジョンにも対応できる人数というと……。
ダンジョンを攻略している人をまとめている人を呼びましょうか?」
「そうだな、どう人員を割り振るか話しておいた方がいい。
……その、ダンジョンを攻略している人たちを一か所に集めることはできるか?」
イシューさんの言葉に思わずきょとんとしてしまう。だが、すぐにどうしてその言葉が出たのか納得した。そうだよね、ダンジョンはすべて国、というか皇帝のもの! 攻略する人もこっちで指定する! とかいうのが異常なんだもんな。
普通はダンジョンは誰にでも挑戦の権利があるはずだから。
「この国ではダンジョン攻略は決まった騎士団が行うことになっています。
彼らは基本的に寮で暮らしているので今日でも全員に会えるはずです」
俺の言葉に今度はイシューさんが驚く番だった。ダンジョンは危険ではあるがその恩恵もかなり大きい。決まった騎士団が行うということはその利益を独占するということだ。他の国、そして支配下にある国では禁止されている行為である。
「そ、そうか。
それならなるべく早いタイミングで顔合わせをしたい」
「話をしておきます」
確か今はレッツさんが代表をやっているはず。一応リヒトにも話を通して、そのあと寮に行けばいいだろう。ひとまず攻略に参加できる人たちと会ったうえでこの後の予定を組むことになった。
イシューさんと別れた後にまっすぐリヒトがいる執務室へと向かう。こういう時、本当に自由に動ける身は楽だ。執務室の警備をしている人たちも俺の顔は覚えているから、すぐに通してくれるし。
「おや、スーベルハーニ皇子。
リヒベルティア様に御用ですか?」
「はい。
今は中にいる?」
「ええ。
少々おまちください」
言うと、その人は扉をノックする。すぐに返事が聞こえてきて、俺が訪ねてきたことを継げると入ってもいいと許可を得れた。
「急にごめん。
今大丈夫?」
「こんにちは、スーハル皇子。
大丈夫ですよ、スーハル皇子ならいつでも歓迎です。
どうしました?」
「先ほど、イシューさんが到着したんだ」
「!
あの、神剣の主だという方ですよね」
「そう」
うなずくとああ……、とリヒトは頭を抱えてしまった。一体どうしたんだ。
「到着されたら伝えるように言っていたのに……」
「あー……。
最初、イシューさんが誰だかわかっていなくて俺が呼ばれたんだ」
「待ってください、身元不明な人をあなたに会わせたのですか?」
「うん。
門兵も一緒にいたけれど」
「……、後でよく言い聞かせておきます」
「まあ、俺だったら自分の身くらいは自分で守れるから」
「そういう問題ではありません!」
「ご、ごめん」
頭が痛いというように頭を抱えてしまったリヒト。心労を増やしたようで申し訳ない。少しして、リヒトが落ち着くと、申し訳ございません、と謝った。そして、侍従を呼ぶとお茶を入れてもらう。
席に座るとようやく落ち着いて話ができるようになった。もともと執務室にいた人たちは一度外に出てもらっている。お仕事の邪魔をしたようで申し訳ないけれど、快く応じてくれました。
「それでどのような用件だったのでしょうか?」
「ああ、ダンジョン攻略についてレッツたちに相談をしたくて。
まずは顔合わせを、とイシューさんと話していたんだ。
一応、リヒトに話を通してから向かおうと思ってな」
「なるほど……。
確かにそれは必要ですね。
レッツの方には私から話を通しておきましょう。
日時が決まったら連絡します。
その時は私も同行します」
「でも忙しいんでしょ?」
「イシュー殿に挨拶しなくてはいけませんしね。
おそらく今日中には決まるかと」
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紅茶を飲み切り、席を立つ。用事は終わったし、相変わらず忙しいようだから長居は良くない。
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