『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
130 / 178
6章 再会と神島

1

しおりを挟む
 国境までの旅はとにかくスピード重視のものとなった。とにかく身体能力を強化して走り続ける。陛下からは今回の旅に使っていいと資金はもらっており、馬車も使っていいと言われたけれど、まあ自分で行った方が早いので。

 さすがに1日で行ける距離ではないので何日かは宿に泊まることになる。行方不明になっていた白髪碧眼の皇子の存在は即位式の際に国民に知れ渡っている。さすがにばれると面倒なので髪も瞳も隠すように宿に泊まった。

 陛下が変わり、今回のダンジョン攻略によって多くの資源が手に入った。その結果手にいれた巨額の富を陛下は各領主に分配する。その噂はすでに広がっているようで、民の表情は明るい。

 そうして旅をしていく中、宿で2人きりになったとき俺は再びシャリラントにダンジョンのことを聞いた。ずっと後で、と言っていたシャリラントだが、邪魔する人もここならいないでしょうから、とようやくその口を開いてくれた。

「ダンジョンとは、天に昇った魂の中で地上で穢れたものを核としてつくられるものです」

「天に昇った魂を……?」

 シャリラントがようやく話したその言葉に俺は血の気が引いたのを感じた。じゃあ、もしかして母上や兄上もああしてダンジョンになってしまった可能性があるのだろうか。

「ええ。
 あなた方が言うダンジョンのランクとはその魂の穢れによって決まります」

「け、穢れた魂はよくあるのか?」

 だって、ダンジョンは割と多くある。そのすべてが穢れた魂を核にしているのならば一体穢れの基準はどれほど厳しいのだろうか。

「全体の数で考えればあまり多くありませんよ。
 あなたが心配しているあなたの母や兄はきっと、喜んで天上に受け入れられているはずです。 
 とにかく、穢れによってダンジョンが創られ、その魂を削ってダンジョンに資源を満たします」

 また何か気になることを言っている。予想外、いやあのダンジョンを攻略してからはある意味予想していた言葉に俺は気になったことを口にした。

「どうして、そんなことを?」

「とある一件でこの世界には資源が圧倒的に足りなくなりました。
 ミベラ神の力をもってすれば、穢れた魂を浄化することもできますが、人に害をなしてきたその魂を持って人に恵みをもたらせ、となさりました」

「恵み?」

「ええ。
 人々はダンジョンから多くの恵みを得ているでしょう?」

「ならば攻略されたダンジョン、その魂はどうなる?」

「消滅しますよ。
 なにせダンジョンはむき出しの魂そのものですからね。
 そう、恵みを生み出し続けて消耗した魂も消滅します。
 ダンジョンとなった魂の結末はそれしかありません」

 消滅……。ああ、だから苦しんでいたのか? いつだったかどこかのダンジョンで聞いた声を思い出す。でも、シャリラントがそれを気にすることはない。平然と当然の結末だという。

「なら、なら……。
 あの2つのダンジョンは……」

「皇帝、と呼ばれていたエキストプレーン・アナベルク、そして皇后と呼ばれていたショコラティエ・アナベルクのものです。
 まあ、あそこはかなり特殊で共に死んでいった別の穢れた魂すら自分のダンジョンに取り込んでいましたね」
 
「俺は、また人殺しをしたのか……?」

「人殺しとは違うでしょう?
あなたはただ与えられるままに恵みを手にしただけです」

 いや、そうだ。きっとあれは人ではなかった。人によく似た何か、亡霊とでもいえばいいだろうか。だから、だから……。

 あの日。長年の敵であった皇后を手にかけた日から俺はもう人を手にかけることはないと思っていた。もう、手にかけたくないと思っていた。あの体にぬくもりはなかった。決して生きている人間ではなかった。

 それにこれは喜ぶことでもあるのかもしれない。だって、シャリラントの言うことを基とするならばあいつらは魂すら消滅したのだ。完全に。もう二度と俺の前に現れることはない。それに、あの時は手を下すことができなかった皇帝に自分の手でとどめを刺すことができた。

 魂、すら。

 だから。これでよかったんだ。

「ハール。
 これはミベラ神からの恵みなのです。
 ああして恵みを手にして消滅させることが自然なものなのです。 
 あなたが気にすることは何もありません」

「ああ……」

「だけど、あなたはそうして気にするのだろうと思っていました。
 あなたは変わらず優しいですから。
 そういったところがミベラ神の琴線に触れたとも言いますから。
 ああ、本当に。
 あの時のあなたに言わず正解でした」

「ミベラ神の琴線に……?」

「余計なことを言いました。
 気にしないでください。
 ……ハール、ダンジョンに行く前私が頼みたいことがあると言ったことを覚えていますか?」

「ああ」

 これ以上何を言う気だ、そう思ったが確かに言っていた。シャリラントを助けたいと思う気持ちは今も消えていない。シャリラントの話を聞いて疲れはしたが、なんとかそう返した。

「ハール、神島に行ってください」

「神島?」

「はい。
 そこにある始まりのダンジョンに行ってほしい」

 そういったシャリラントは今まで見たこともないほど真剣な目をしていた。

「わかった。
 神島に行けば、そのダンジョンはわかるのか?」

「案内します」

 断ってはいけない、そう感じた。うなずくとシャリラントは少しだけ安心したように表情を緩めた。

「それにしても、ミベラ神とは懐かしいよな。
 あのとき名乗りはしなかったけどたぶんあの時の神様がミベラ神、だよな」

「おや?
 そういえばハールはミベラ神にお会いしたことがあるのでしたか」

「たぶん?」

「今この世に生きるものの中でミベラ神とお会いしたことがある人間はあなたともうお一人くらいでしょうね」

「もう一人……?」

 一体誰のことだ、とシャリラントを見るも答えてはくれなかった。それにしてもミベラ神……。あの時なんか言っていたような気がする。俺に何かをしてほしいとか言っていたような。……。

「ああっ!」

「ど、どうされました?」

「いや、あの時言われたことを思い出してさ。
 たしか地球で生きてきた俺の目でこの世界を見てほしいとか……。
 それをいつか伝えてほしいとかなんとか」

「ああ……、そんなことを言っていらしたのですね」

「でも意味が分からないよな。 
 どうして俺の感想を聞きたがったのか」

「ミベラ神は他になにか言っていませんでしたか?」

「他、ほか……。
 『特別』になれるプレゼントを用意してくれたとか言っていたな。
 それってシャリラントのことだろう?
あとは……」

 古い記憶を頑張って呼び起こす。もうかなり奥深くの記憶だ。えーっと。そういえば意識が完全に途切れるその直前。何か言っていた気がする。

「欲望が、そう、欲望に殺された俺が、また欲望に殺されるのかどうか、とかそんなことを言っていたような気がする」

「欲望、ですか……」

「俺、前世でどうして死んだんだろ」

 今まで実は考えたことがなかった。考える時間がないほどにこの世界では目まぐるしい毎日を過ごしていた。それがこの世界に来ることになった場面を思い出したからか、ふと気になってしまったのだ。

「今日はもう疲れたでしょう?
おやすみなさい、ハール」

 考えこもうとする俺の思考を遮るようにシャリラントが言う。でも、確かにもう眠くなってきてしまった。考えるのはまた後でいいか……。そんなことを思いながら俺は眠りについた。

 そうして初めて、と言っても過言でないシャリラントと2人きりで過ごした数日を経て、ようやく国境へと到着した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです!
一旦、3日ごとのペースで6章更新予定です。
お読みいただけますと幸いです。

また、気が向いたら感想等いただけますととても嬉しいです……!引き続きよろしくお願い致しますm(_ _)m

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...