『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

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6章 再会と神島

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 少し進んだところで、途端にダンジョンの空気が変わった。ひんやりとした風が流れてきたのだ。きっと、この先にリンカ様がいる。そんな確信のような予感がしていた。

「ハール、体を貸していただいていいですか?」

「ああ、分かった」

失礼、と短い言葉が返ってくる。そしてなんとも言えない、気持ち悪い感覚が体を襲う。だが、それも一瞬のことだった。ぴったりと重なると、その感覚もましになってくれた。

「クリエッタ、大丈夫だとは思いますが、万が一の時はあなたがハールを呼び戻してください」

『うん、わかった』 

 クリエッタの返答を受けて行きます、と頭に声が響く。俺がやろうとしなくても自然と足がダンジョンの奥へと向かっていった。

 たどり着いた奥の部屋。そこには氷で作られた大きな柱に、一人の女性が閉じ込められていた。祈るような形で手を組み、目を閉じているその女性はとても美しかった。

「この人が、リンカ様……」

 美しい、その一言に尽きる。ふらふらとその柱に近づいて思わず触れてしまう。とたんに周りで浮いていた精霊が一斉にこちらへと向かってきた。

「え、な、なに⁉」

「ハール、少し耐えていてください」

 何を、そう聞く間もなくシャリラントが氷を溶かしにかかった。氷に触れている手のひらが一気に熱くなる。あまりの熱さに手を放そうとするも、それはいうことを聞いてくれない。

「あ、つっぅ」

「すみません、ハール」

 手がやけどするのと同時に治癒が行われており、ひどいけがは回避できているようだ。先ほどこちらへと向かってきた精霊たちが気になって視線を周りにやると、精霊は一定以上は近寄ってきていなかった。

「どうして来ないんだ?」

 ありがたいが、理由がわからないと逆に怖い。その問いに答えたのは余裕のないシャリラントの声だった。

「先ほどの枝です。
 あれがあって、攻撃していいものか悩んでいるのです」

 なるほど。クリエッタも言っていたか、母様の力を感じると。時間がかかりすぎると攻撃してくるというシャリラントの言葉に、俺は改めて目のまえの氷に集中する。精霊が本気になるとどれだけの力を持っているのかわからないが、さすがにまずい気はする。

 俺の力もできるだけ氷を溶かすことに回すと、溶ける速度が上がる。ただ、それだと治癒に回している力とのバランスが崩れる。今まで以上に手のひらに痛みが襲う。

『頑張って!
 僕も力を貸すよ』
 
 その言葉と共に痛みが和らぐ。クリエッタが治癒に力を貸してくれたのか。

しばらくじりじりとした時間を過ごすと、ようやくリンカ様の体のごく一部が氷からできてきた。その時、何人かの精霊がこちらにやってきた。まずい……!

『あなた、私たちの声聞こえるの?』

『その子と契約しているの?』

 攻撃されるのか、と警戒していると、言葉が聞こえてきた。クリエッタの声とは違うが、似た響き方をする声。それに俺に近づいてきた精霊の声だとわかる。

「ああ、聞こえるよっ」

『聞こえるって』

『じゃあ、リンカの仲間?
 子孫?』

『じゃあ、いいのかな』

『『ねえ、何しているの?』』

 こちらに聞こえる声で何かぼそぼそ言っていると思ったら、そろった声で急にこちらに話を振ってきた。何をしているって……。

「リンカ様を助けようとしている」

『助けるの?』

『傷つけるのではなくて?』

「当たり前だ!」

 傷つけるためにこんなことしないって! そのあとも少し離れたところで何やらこそこそ相談をしているようだったが、話がまとまったのかこちらに再びやってきた。

『協力してあげる』

『リンカが助かるのは私たちの望みでもあるから』

 そういうと、今まで話していたのとは別の精霊もやってきて氷の周りを囲った。早く終わってくれるのなら、それは助かる。

「シャリラント」

「ええ、せっかくなら手伝っていただきましょう。
 先ほども言った通り、氷は私しか溶かせません。
 治癒を全面的に任せてしまいましょう」

 その言葉が聞こえていたかのように一気に治癒が高まる。それを感じて治癒にも回っていたシャリラントの魔力がすべて氷を溶かすことに回った。

 今まで以上の速さで氷が溶けていると、あっという間にリンカ様の体がその氷から取り出された。

「リンカ!」

 自然に体が動いてリンカ様の体を受け止める。そして、全身で治癒魔法を施す。ここからは時間の勝負だった。精霊たちもその周りを囲っている。美しい少女に、白く浮かび上がるダンジョン。今この場の光景は一層幻想的だった。

「リンカ、リンカ!
 どうか戻ってきてください!
 やっと、あなたを助け出せる力を手に入れたのです……」

 どうか、と口にするシャリラントの泣きそうな声にこちらまで切なくなってくる。どれだけシャリラントがこの少女を助けることを望んでいたのかがよくわかる。どうか、助かってくれ。そう願い続けながらも、体から力が抜けていく。俺の魔力が付きかけているのだ、と本能的に感じていた。

「リンカ!」

 もう、限界だ。遠のきかけている意識の中でシャリラントの悲痛な叫び声だけが響いている。お願いだから、目覚めてくれ……。

「しゃり、らんと……?」

 意識が途切れる直前、初めて聞く声が掠れながらシャリラントの名を呼ぶ。もしかして、あの声は……。

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