姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio

文字の大きさ
146 / 193
2章 学園生活

146話 領地での過ごし方

しおりを挟む
 あれからゆったりと領地で過ごした。お母様は近所のお茶会に出かけたり、お父様やお兄様は領地でしかできない仕事をしたりとそれぞれ忙しく過ごしていたみたいだけれど、私にはとくになかった。ルークも暇だろうと思っていたのだが、彼は使用人に遊んでもらっているようで、よく庭の方から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 私といえば、暇を持て余していた。こちらにある本を読んだり、刺繍をしたりと過ごしていたのだ。あの後、お父様に正式にヴァーレクト様との婚約を伝えた。お父様はいいのか、と探る目を向けてきたけれど、特に何も言わなかった。
 そして、私が今回刺した刺繍。実はこれは彼に渡すように、と用意したものだった。ハンカチに我が家の家紋とアクバルディア家の家紋を刺繍しただけではなんだかつまらないので、少しだけ装飾をつけてしまったのは許してほしい。
 今度、正式に婚約を結んだときに渡すのだ。

「お嬢様、これは……」

 完成したハンカチを包んでおいてもらおうと、イルナに渡すと途端に固まられてしまった。隣のルナベレークも固まっている?

「何か問題があったかしら?」

「い、いえ!
 とても素晴らしい出来だと思います。
 本当に……」

 これはどう反応したらいいのだろうか。もしかして、装飾していないシンプルなものを作り直した方がいいのだろうか。

「そのように不安気な顔をなさらないでください。
 本当に素晴らしい出来です。
 その、このように手が込んだものをはじめから作られるとは思っていなかったものですから……」

 言いにくそうにルナベレークが口を開く。私、そんなに手が込んだものを作ったっけ? 暇に任せて作ったものだったんだけど。
 結局そのままお預かりします、とイルナが持って行った。どうやらお父様やお母様に見せてから包むらしい。


 そして、とうとう王都へと帰る日がやってきた。本当にやっとだよ。学園が始まるまで正直、もうあまり時間はない。けれど、何か厄介な案件があったらしく、お父様の用事が終わらなかったのだ。それも無事に終わり、5人で王都へと帰ることになったのだ。
 
「ウェルカ、向こうへ帰ったらアクバルディア家へ行こう。
 あちらの予定次第ではあるが、学園が始まる前には時間が取れるだろう」

「はい」

「あなたが刺した刺繍、見ましたよ。
 本当によくできていて、驚いてしまいました」

「あ、ありがとうございます」

 お母様の言葉に少しひきつってしまったのは勘弁してほしい。だって、そういいながらお母様の目がとてもやさしいのだ。なにか、自分の意図とは違う勘違いをしている気がしかしない。

「ウェルカ様……」

 遠慮がちに声をかけてきたのはルナベレーク。彼女はもともと本邸の使用人だったのだ。もちろんこのままここに残るのだろう。よくしてもらっていただけに、少し寂しい。

「ルナベレーク、こちらにいる間ありがとう。
 とても助かったわ」

「いえ、もったいないお言葉です。
 それと、一つお伝えし損ねたことがあるのです」

 伝え損ねたこと? なんだろうと首をひねっていると、ルナベレークは嬉しそうにほほ笑んだ。

「はい。
 実は、お嬢様の専属として、私も王都についていくことになったのです」

 えっ、と思わずお父様の方を見るとしっかりとうなずいてくれた。本当についてきてくれるならこんなに心強いことはない。

「学園には連れていけないが、何か屋敷への用事があればルナベレークに頼むといい」

「ありがとうございます!」

 私はルナベレークが確かに馬車に乗り込むところを見ると、自分も馬車へと乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...