姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio

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2章 学園生活

182話 事情説明(3)

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 冷めてしまったけれど、とお茶とお菓子を勧められる。そこでようやく今まで固かった空気が緩んだ気がした。うん、今日もお菓子がおいしい。

「それで、最後に私から話があるの」

 ことり、とカップをおくとおもむろにお姉様がそう切り出す。その真剣な声に、思わずどきりとしてしまった。

「この話はごく少数人しか知らないから、決してほかでは口にしないでほしいのだけれど」

 そう切り出すお姉様。あまりにも不穏な切り出し方だ。隣ではヴァークが身じろぎしたのがわかった。

「席を外しましょうか?
 私は無関係者でしょうから」

「いや、ヴァークも聞いてくれ。
 これからは関係者になってもらうからな」

 腰を浮かせて今にも部屋を出ていこうとしていたヴァークは、そんな殿下の言葉にまた腰を下ろした。それにしてもこれから関係者になってもらうとは、なんとも怖い話では?

「あの、私にも関係のある話ですか?」

「もちろんだ」

 おおう、即答されてしまった。これは私も去ることはできないよね……。

「ごめんなさい。
 でも、今の時点で信頼できる人は限られているのよ……」

 そんな悲しい顔をされてしまったら、もうどうしようもない。大丈夫です! と元気よく言って、私はおとなしく話を聞くことにしました。ちなみにヴァークもあきらめたようです。

「そうね、まずは……。
 これは最近ウェルカに会えなかった理由とも関係があるのだけれどね。
 ウェルカが長期休みに入るころかしら?
 実は殿下の子を身ごもっていたのよ」

 みごもって、いた? えっと、それはつまり赤ちゃんがいた?

「え⁉」

「言えなくてごめんなさいね。
 でも、不確定なことが多くて……。
 あの時は初期だったこともあって、大事をとって王宮で過ごすことにしていたのよ。
 王家にとっては待望のお世継ぎになる可能性もあったから」

 そういえば。殿下がジェラミア様とご結婚されたのは結構前だった気がする。でも、確かに一人もお子様はいらっしゃらなかったはず……。

「だけど、結局子を産むことはできなかったわ……」

 顔をうつむかせているから、お姉様の表情は見えない。でも、声からとても悔しいと思っていることがわかる。そんなお姉様の肩を殿下が優しく抱いているのが見えた。

「ある日の食事にね、毒を盛られたのよ。
 子を流しやすくなるような毒を。
 何も気が付かずに食べて……」

 毒? 毒を盛られたの? だから子を流した。そんなことがあったなんて全く知らなかった。つー、とお姉様のほほに涙が伝う。それほどに悔しかったのだろう。何も、知らなかった。

「そのあと、アゼリアはしばらく体調を崩してな。
 犯人が確定できなかったこともあって、しばらくここに引きこもっていてもらったんだ」

「出てきたということは、犯人に目星が?」

「つきはした。
 でも、そう簡単に問いただせる相手ではなくては。
 これ以上は正直手を出せない」

「そんな。
 誰、なんですか?」

「君たちにも注意してもらいたいから伝えはする。
 だが、相手に何かしようとは考えるなよ。
 こちらからは決して仕掛けてはならない」

 殿下も悔しそう。でも、そういうってことは、きっとそれがお姉様を守る最良の策なんだね。ヴァークがうなずいたのを見つつ、私もうなずいた。

「ジェラミア、なんだ。
 正確には主犯格と思われているのがジェラミアだ。
 でも、さすがに隣国を敵に回すことができないので、現状できることは何もない」
 
 ジェラミア、様。あったのは一度だけだけれど、そんなことをする人ではなかったように感じた。本当に、あの方の仕業なのか気になるけれど、どのみち確かめることはできないのだ。

「そこで、だ。
 ここから先が大事なのだが。
 今、アゼリアはまた身ごもっているんだ。 
 もう二度とはじめの子のようなことを繰り返したくはない」

ふむふむ、それは大変だ。きっとそのままだと、また同じことが起こるだろう。って。

「は!?
 お姉様、今妊娠されているのですか?」

「ええ、実はそうなの。
 それでね、特にウェルカに頼みがあるの」

「頼み、ですか?」

「また毒を盛られたら厄介だ。
 ウェルカ嬢、そなたがアゼリアをそういうものから守ってくれないか?」

「守ります。
 なんでも言ってください」

 どう、とか全く考えなかった。気が付けばそう返事をしていた。

「ありがとう、ウェルカ」

「私にも、できることがあるならば何でもやりましょう」

 ヴァークも、すぐにそう返事をしてくれる。それがひどく心強かった。

「ありがとう、ヴァーク。
 心から信頼できる人が少ない今、こうして話せる人がいるだけでもとても心強いよ。
 これからもよろしく頼むよ」

「「はい!」」

 
 絶対にお姉様を守る。そう決意を固めて私とヴァークはお姉様の部屋を出た。
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