189 / 193
2章 学園生活
189話 命の灯
「お、お姉様は⁉」
息が整わない。でも、そんなの関係ない。お姉様に一体何があったの。部屋の前に立っていたヴァークに思わず縋り付いていた。
「ウェルカ⁉
もう大丈夫なのか?」
「ねえ、お姉様は⁉」
「ひとまず、落ち着いて」
でも、と言い募ると水を差し出される。喉が渇いていたのでありがたく飲むことにした。最近ろくに歩いてなかったからこれだけでも結構きつい。
「それで、お姉様は?」
「今は……」
ちらりと視線を向けたのはお姉様の部屋。止めようとするヴァークを無視して部屋へと入っていく。そこではいろいろな声がいきかっていた。
「早くお湯を!」
「ああ、それはこちらに」
「アゼリア様!」
すぐにお姉様のベッドの方に向かう。そこではばたばたと人が動いている。声も音もする。それでもなぜか私の耳にはお姉様の浅い息がはっきりと聞こえてきた。
「お姉様!」
ばっとベッドの横に走り、お姉様の手を握る。額にびっしりと汗をかきながら、はっ、はっと息を繰り返している。とても苦しそうな中、うっすらと目を開けた。
「うぇる、か?」
「はい!
お姉様、頑張って」
もう何がどうなっているのかはわからない。でも、とにかく必死に治癒魔法をかけていく。一体何があってこうなったの? ただ出産ってこういうものではないよね。
「うぇるか……。
このこを、おねがい。
おねがい……」
「何を言っているんですか!
お姉様が育てるのでしょう?
お姉様!」
「ちょっと、すみません!
アゼリア様こちらを」
「治癒魔法をかけていくのでいらないです」
薬なんて飲ませてもいつ効き始めるのかわからない。だったら魔法を使ってしまう方が楽だ。
「治癒魔法?
あなたは一体」
この人、ここまで近づいていて私はだれかわかってないの⁉
「妹です。
私には出産はわかりませんのでお願いします」
とにかくどうしたらいいのか必死に考える。疑問に答えるのももう惜しい。
お姉様に話しかけながら、魔法をかけていく。さすがに病み上がりだから、頭が少しくらくらしてくるけれど、そんなことはどうでもいい。今はとにかくお姉様だ。
そこからはもう必死だった。もう子を産むしかない状況だったらしく、準備が進められていった。そしてそのまま出産が始まる。
その間もずっと治癒魔法をかけているから、どんどんと魔力がなくなっていくのを感じる。それでももう安心していいのでは、というほどの回復は一向にしてくれない。どうして?
「お姉様、頑張って!
もう少し、だから」
なんの根拠もない。でもそうして勇気づけるしかできない。そうしているうちに一人の人が大きな声を上げた。
「赤子が、泣かない!」
「うぇる、か。
あのこのほうを」
お願い、という言葉は聞こえない。でも、お姉様の気持ちだけは痛いほどに伝わってきた。私はどうしてもお姉様を救いたい。でも、もしもそれでこの子が生きられなかったらお姉様は一生苦しむ。
「おねがい」
「でも……」
「おねがい……」
お姉様にあてていた手をお姉様に捕まれる。想像以上に強い手でギュッとつかまれて痛いくらいだった。それがきっとお姉様の意思の強さ。なら、私は。
生まれたばかりの子の治癒なんてしたことがない。下手に力を入れすぎると逆効果なのはわかる。でも、正しい力の量なんてわからない。やるしかないこの状況が怖い。頭もぼうっとしてくるし。
「お姉様をお願いします」
赤ちゃんを見ていた人にそれだけを言うと、周りの状況はシャットアウトする。とにかく目の前の赤ちゃんに集中しないと。
泣かないのはなんでだろう。出産の本なんて読んだことない。でもやるしかない。とにかく泣いて、元気になって、そう願いながら治癒をかけていく。ゆっくり、少しずつ、決してこれが傷つける力にならないように。とにかく願うしかない。
「っ、あああああ!
うああああああああああ!」
「ない、た。
たすかった?」
「アゼリア!」
へなへなと力が抜けていく。そのタイミングでベルク殿下が部屋に入ってきた。そっか、殿下いなかったのか。
「赤子はこちらに」
ずっと子のそばにいた人が赤ちゃんを請け負ってくれる。この後どうすればいいかわからなかったからよかった。そしてその人がしっかりと赤ちゃんを抱くのを確認すると、すぐにお姉様の方に向かった。
「お姉様!」
「ありが、とう、うぇるか」
「アゼリア様!
とてもお可愛らしい子ですよ」
赤ちゃんの顔を見ると、少しだけほほ笑む。よかった、かすれた声でそうつぶやくとそのまま目を閉じた。
「お姉様!」
「アゼリア!」
治さないと、そう思ってまた手を当てる。魔法を使おうとすると、いきなり目の前がくらくなった。これはまずい……。
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です