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アンナに用意してもらった紹介状を握り締めて、服飾店の前で呆然としていると優しそうな顔立ちの夫人がこちらを見ている。不安で仕方なかった私は、その人にすがるように気が付いたら自分の状況を説明していた。
「お家出て……、このお店で働こうと思ったら、もう人はいらないって断られてしまったの……」
「まあ……。
お家には戻れないの?」
その言葉に私は小さくうなずいた。戻りたくなくて、自由になりたくて家を出たのだもの。これで戻ってしまったらどうなるか。先ほどまでの楽しい気持ちが嘘だったようにどんどん不安になってくる。顔から血の気すら引いてきたころ、夫人は明るい声でなら! といった。
「私のお店に来る?
ちょうど誰か雇いたいわねって話していたのよ」
「私のお店……?」
「ええ。
雑貨屋だから、服飾店とは少し違うけれど……。
それにこことは違う領にあるの。
ミールフィ領都っていうのだけれど、知っているかしら?」
「ミールフィ領都……」
聞いたことがある。ここからさらに2日ほど馬車に揺られて到着する場所だ。……もし私がここにいなければ、アンナは心配するかもしれない。でもこの機会を逃すと、本当に家に戻らなければいけないよね。なら。
「一緒に、行かせてください」
そういいきると、夫人はほほ笑んでうなずいてくれた。
「ええ、行きましょう。
向こうの宿で夫が待っているの。
紹介させてね」
夫という人も受け入れてくれたらいいのだけれど……。不安になりながらも夫人についてとある宿へと入っていった。
--------------------
「おや、その子は?」
夫人に案内された部屋に入ると、そこにいた男性はすぐに私へと目を向けた。夫人とまとう空気がそっくりでほっとする。夫の言葉に、拾ったの、といたずらっ子のような笑みを浮かべて夫人が言う。
「拾った⁉」
「あ、あの、行くところがなくなったときに声をかけてもらったんです」
「なんだか、とっても困っているようだったからつい声をかけてしまったわ」
「君はまた……。
君の名前は?」
夫人にあきれたようにすると、こちらに向き直ってそう問いかけてくれる。どうやら私のことを受け入れてくれるようでほっとする。そこで、私は自分の名を名乗っていないことも、夫人の名を聞いていないことも思い出した。
「私、フィーアと言います。
よろしくお願いします」
「まあ、かわいらしい名前だわ。
私はリミーシャ、というの。
この人は夫のブランス」
「よろしく、フィーア。
でも本当にいいのかい?
君のご両親は……?」
優しく問いかけてくれるブランスさんに、どう答えたらいいのだろうと戸惑う。本当のことを伝えるわけにはいかない。……。
「ああ、無理に伝える必要は」
「両親は……、私にお金を稼いでくるように言いました。
それで出稼ぎに。
でも、もう両親に縛られるのは嫌なのです。
だから、このまま連絡を取るつもりはありません」
「そう……。
なら、よろしくね。
あなたが居たいだけいてくれればいいし、ほかに行きたいのならばそれでもいいわ」
「リミーシャさん……」
「ああ、そうだね。
フィーアは何歳なのだい?」
「あ、11歳です」
本当の年齢を言って、ギフトを調べられるわけにはいかない。とっさにそう嘘をついた。その言葉に2人から緊張気味な視線が向けられる。どうしてだろう、と思っているとリミーシャさんに優しく抱きしめられた。
「そう。
それじゃあギフトはもう調べているのね」
「は、はい。
ギフトはありません」
少し緊張しながら、そう口にする。貴族ならばほとんどの人が何かしらのギフトを持っているけれど、平民ならばギフトを持っていないこともありえる。きっとそのまま信じてもらえると思っていたら、予想外に夫婦はほっとした顔をした。
「ギフトは、ないのね。
良かったわ……。
あの、難しいかもしれないからできたらでよいのだけれど。
私たちのこと、ぜひ本当の家族みたいに接してくれると嬉しいわ」
何がよかったのか、聞き返すこともできなかった私はそのままうなずいた。
「君はどこに泊まっているんだい?」
「あー、その……。
今日からもうお店で住み込みで働く予定だったので、宿から引きあげてきてしまって」
「あら、そうなのね。
なら一緒にこの宿に泊まればいいわ!」
「うん、そうだね。
明日出発予定だから、一泊だけお願いすればいいね。
じゃあ受付に行こうか」
口をはさむ間もなく決まってしまった。行こう、とブランスさんが私の手を取る。え、え?
「やあ、すまない。
部屋を一泊分借りられるかい?」
「少々お待ちください……。
はい、一泊でしたら大丈夫です。
お支払いは?」
「これで」
「え、あの⁉
自分で出します!」
「大丈夫だから。
従業員になるのなら、私が払うよ」
「はい、確かに」
「え、でも……」
拾ってくれただけでもありがたいのに、宿代も払ってもらうなんて。払います、と言ってもいいから、と言って聞いてくれない。そのうちに手続きが済んで、はい、と鍵を渡される。ついにはあきらめて、おとなしくその鍵を受け取った。
「お家出て……、このお店で働こうと思ったら、もう人はいらないって断られてしまったの……」
「まあ……。
お家には戻れないの?」
その言葉に私は小さくうなずいた。戻りたくなくて、自由になりたくて家を出たのだもの。これで戻ってしまったらどうなるか。先ほどまでの楽しい気持ちが嘘だったようにどんどん不安になってくる。顔から血の気すら引いてきたころ、夫人は明るい声でなら! といった。
「私のお店に来る?
ちょうど誰か雇いたいわねって話していたのよ」
「私のお店……?」
「ええ。
雑貨屋だから、服飾店とは少し違うけれど……。
それにこことは違う領にあるの。
ミールフィ領都っていうのだけれど、知っているかしら?」
「ミールフィ領都……」
聞いたことがある。ここからさらに2日ほど馬車に揺られて到着する場所だ。……もし私がここにいなければ、アンナは心配するかもしれない。でもこの機会を逃すと、本当に家に戻らなければいけないよね。なら。
「一緒に、行かせてください」
そういいきると、夫人はほほ笑んでうなずいてくれた。
「ええ、行きましょう。
向こうの宿で夫が待っているの。
紹介させてね」
夫という人も受け入れてくれたらいいのだけれど……。不安になりながらも夫人についてとある宿へと入っていった。
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「おや、その子は?」
夫人に案内された部屋に入ると、そこにいた男性はすぐに私へと目を向けた。夫人とまとう空気がそっくりでほっとする。夫の言葉に、拾ったの、といたずらっ子のような笑みを浮かべて夫人が言う。
「拾った⁉」
「あ、あの、行くところがなくなったときに声をかけてもらったんです」
「なんだか、とっても困っているようだったからつい声をかけてしまったわ」
「君はまた……。
君の名前は?」
夫人にあきれたようにすると、こちらに向き直ってそう問いかけてくれる。どうやら私のことを受け入れてくれるようでほっとする。そこで、私は自分の名を名乗っていないことも、夫人の名を聞いていないことも思い出した。
「私、フィーアと言います。
よろしくお願いします」
「まあ、かわいらしい名前だわ。
私はリミーシャ、というの。
この人は夫のブランス」
「よろしく、フィーア。
でも本当にいいのかい?
君のご両親は……?」
優しく問いかけてくれるブランスさんに、どう答えたらいいのだろうと戸惑う。本当のことを伝えるわけにはいかない。……。
「ああ、無理に伝える必要は」
「両親は……、私にお金を稼いでくるように言いました。
それで出稼ぎに。
でも、もう両親に縛られるのは嫌なのです。
だから、このまま連絡を取るつもりはありません」
「そう……。
なら、よろしくね。
あなたが居たいだけいてくれればいいし、ほかに行きたいのならばそれでもいいわ」
「リミーシャさん……」
「ああ、そうだね。
フィーアは何歳なのだい?」
「あ、11歳です」
本当の年齢を言って、ギフトを調べられるわけにはいかない。とっさにそう嘘をついた。その言葉に2人から緊張気味な視線が向けられる。どうしてだろう、と思っているとリミーシャさんに優しく抱きしめられた。
「そう。
それじゃあギフトはもう調べているのね」
「は、はい。
ギフトはありません」
少し緊張しながら、そう口にする。貴族ならばほとんどの人が何かしらのギフトを持っているけれど、平民ならばギフトを持っていないこともありえる。きっとそのまま信じてもらえると思っていたら、予想外に夫婦はほっとした顔をした。
「ギフトは、ないのね。
良かったわ……。
あの、難しいかもしれないからできたらでよいのだけれど。
私たちのこと、ぜひ本当の家族みたいに接してくれると嬉しいわ」
何がよかったのか、聞き返すこともできなかった私はそのままうなずいた。
「君はどこに泊まっているんだい?」
「あー、その……。
今日からもうお店で住み込みで働く予定だったので、宿から引きあげてきてしまって」
「あら、そうなのね。
なら一緒にこの宿に泊まればいいわ!」
「うん、そうだね。
明日出発予定だから、一泊だけお願いすればいいね。
じゃあ受付に行こうか」
口をはさむ間もなく決まってしまった。行こう、とブランスさんが私の手を取る。え、え?
「やあ、すまない。
部屋を一泊分借りられるかい?」
「少々お待ちください……。
はい、一泊でしたら大丈夫です。
お支払いは?」
「これで」
「え、あの⁉
自分で出します!」
「大丈夫だから。
従業員になるのなら、私が払うよ」
「はい、確かに」
「え、でも……」
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