9 / 69
8
しおりを挟む
翌日、借りてもらった部屋で心地よく目を覚ます。朝食は下の食堂でとることになっている。身支度を整えて、さっそく下へ降りることにした。
実家で暮らしているころにはこうして一人で用意することはなかった。本当は少し不安だった。でも、思っていたよりも自分でいろいろとできるものらしい。
下へ降りると、すでにブランスさん夫婦は食堂にいた。ほかにも人がたくさんいて、空いている席はほとんどない。食堂にはパンとコーヒーのいい香りが満ちている。
「おはようございます!」
「おはよう、フィーア。
よく眠れたかい?」
「はい」
「それはよかったわ。
さあ、こっちに来て一緒に食べましょう」
店員さんにパンと水を頼んで早速食べてみる。
「おいしい!」
「おいしいよね。
ここの食堂、パンが名物なんだよ。
パン焼きのギフトを持っている人が務めているらしくてね」
「そうなのですね」
こういうふうに活躍できるギフトならばうらやましいかもしれない……。ゆっくりとパンを味わっていると、次々に人がやってくる。本当に人気な食堂なのね。
朝食を堪能し終わると、さっそく出発することとなった。辻馬車で乗り継いでミールフィ領都まで行くことになると思っていたのだけれど、この夫婦、自分の馬車があるみたい。今回は買い付けでここまで来たこともあって荷物が多く、辻馬車では難しいのだそう。
実際、案内された馬車には荷物がたくさん積んでいて、御者台含めて4人ほどが乗れるくらい。ギルドで護衛を雇って、ミールフィ領都のお店まで戻るんだと説明してくれる。
ギルドでの護衛はすでに話がついていたみたい。ギルドへ出かけたブランスさんはすぐに戻ってきた。
「さて、忘れ物はもうないかな?
出発しよう」
「護衛を頼まれた『バリエッタ』だ。
よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします。
私たちは中にいますね。
何かったら声をかけてくださいな」
「はい、分かりました」
行きましょう、と手を取られて馬車の荷台へと入る。中は整理されていて、人が座れる部分が確保されていた。そこにはふかふかのクッションが付けられている。
「少し座り心地が悪いかもしれないけれど、我慢してね。
辛かったら横になっても大丈夫だから」
「ありがとうございます」
確かに貴族が乗る馬車よりも座り心地は悪い。それでも、辻馬車よりはずっと座り心地が良く、この馬車を大切にしていることが伝わってきた。そこに乗り込み、馬車は出発した。
リミーシャさんと他愛のない会話をしながら、馬車に揺られていく。どんなものを買い付けたとか、常連さんの話とか、面白おかしく話してくれる。その間、リミーシャさんは私のことは一切聞かないでいてくれた。きっと気を使わせているよね……。
途中で馬車を降り、お昼を食べることとなった。泊まっていた宿で購入したパンにお肉や野菜が挟まれたサンドウィッチだ。それに紅茶も入れて、おいしいお昼が完成した。リミーシャさんはそれを包むと『バリエッタ』の人たちにも声をかけた。
「あの、皆さんもどうぞ?」
「え、でもいいんですか?
俺たち自分でも食料持ってますけれど」
「ええ、ぜひ。
ごはんは皆で食べたほうがおいしいでしょう?」
「それはありがたい。
そちらのごはんがおいしそうで気になっていたんです」
笑いながらリーダーがサンドウィッチを受け取る。見張りの人を2人残して、ほかの人たちで広げた敷物の上に座る。そして、はしたないかな、と戸惑いながらも受け取ったサンドウィッチにかぶりつく。
「っ、おいしいです!」
さすが、パン焼きのギフト! 冷めてもおいしい。大口を開けてかぶりつくのは恥ずかしいけれど、皆こう食べているからきっとこれが正解なんだよね。
「ああ、本当に。
持ち運び用のパンは宿泊者しか買えませんし、宿泊者も買えるかわからないって聞きましたけど、よく買えましたね」
「ふふ、宿屋の主人が知り合いの方なの。
だから優先的に買わせてもらえるのよ」
なるほど、とうなずく。そのあとは見張りを交代して、ゆっくりと食事を楽しんだ。昼休憩を終えると、再び馬車に乗り込む。心地よい揺れと満腹になった影響でうとうととしてしまった。
「あら、眠いのなら寝てしまって大丈夫よ」
「……ありがとう、ございます」
いいながら横になる。布団をかけられた感覚がしたと思ったら、すぐに意識が沈んでいった。
--------------------
『い、嫌、来ないで……!』
『えー、そんなこといってさぁ。
ほら、きっと楽しいよ』
『嫌です!』
暗い路地で女性が男性に腕をつかまれている。女性はそれを振り払おうと必死に腕を振っていた。だが、その手が離される様子はない。誰か、助けてあげて!
--------------------
「……ーア。
フィーア!」
「……え?」
「大丈夫?
うなされていたけれど」
目を開けると、目の前にいたのは先ほどの女性でも、男性でもない。リミーシャさんだ。私、また、何かを見ていたのね。鈍い頭痛が先ほどの夢がギフトの力で見たものだと教えてくれる。
「だ、大丈夫です。
ありがとうございます」
「でも、まだ顔色が悪いわ。
お水でも飲んで」
はい、と渡された水をありがたく受け取る。先ほどの画。どこでいつ起きるのかはわからない。私にできるのは先ほどの女性が無事に逃げられたことを願うだけ……。
実家で暮らしているころにはこうして一人で用意することはなかった。本当は少し不安だった。でも、思っていたよりも自分でいろいろとできるものらしい。
下へ降りると、すでにブランスさん夫婦は食堂にいた。ほかにも人がたくさんいて、空いている席はほとんどない。食堂にはパンとコーヒーのいい香りが満ちている。
「おはようございます!」
「おはよう、フィーア。
よく眠れたかい?」
「はい」
「それはよかったわ。
さあ、こっちに来て一緒に食べましょう」
店員さんにパンと水を頼んで早速食べてみる。
「おいしい!」
「おいしいよね。
ここの食堂、パンが名物なんだよ。
パン焼きのギフトを持っている人が務めているらしくてね」
「そうなのですね」
こういうふうに活躍できるギフトならばうらやましいかもしれない……。ゆっくりとパンを味わっていると、次々に人がやってくる。本当に人気な食堂なのね。
朝食を堪能し終わると、さっそく出発することとなった。辻馬車で乗り継いでミールフィ領都まで行くことになると思っていたのだけれど、この夫婦、自分の馬車があるみたい。今回は買い付けでここまで来たこともあって荷物が多く、辻馬車では難しいのだそう。
実際、案内された馬車には荷物がたくさん積んでいて、御者台含めて4人ほどが乗れるくらい。ギルドで護衛を雇って、ミールフィ領都のお店まで戻るんだと説明してくれる。
ギルドでの護衛はすでに話がついていたみたい。ギルドへ出かけたブランスさんはすぐに戻ってきた。
「さて、忘れ物はもうないかな?
出発しよう」
「護衛を頼まれた『バリエッタ』だ。
よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします。
私たちは中にいますね。
何かったら声をかけてくださいな」
「はい、分かりました」
行きましょう、と手を取られて馬車の荷台へと入る。中は整理されていて、人が座れる部分が確保されていた。そこにはふかふかのクッションが付けられている。
「少し座り心地が悪いかもしれないけれど、我慢してね。
辛かったら横になっても大丈夫だから」
「ありがとうございます」
確かに貴族が乗る馬車よりも座り心地は悪い。それでも、辻馬車よりはずっと座り心地が良く、この馬車を大切にしていることが伝わってきた。そこに乗り込み、馬車は出発した。
リミーシャさんと他愛のない会話をしながら、馬車に揺られていく。どんなものを買い付けたとか、常連さんの話とか、面白おかしく話してくれる。その間、リミーシャさんは私のことは一切聞かないでいてくれた。きっと気を使わせているよね……。
途中で馬車を降り、お昼を食べることとなった。泊まっていた宿で購入したパンにお肉や野菜が挟まれたサンドウィッチだ。それに紅茶も入れて、おいしいお昼が完成した。リミーシャさんはそれを包むと『バリエッタ』の人たちにも声をかけた。
「あの、皆さんもどうぞ?」
「え、でもいいんですか?
俺たち自分でも食料持ってますけれど」
「ええ、ぜひ。
ごはんは皆で食べたほうがおいしいでしょう?」
「それはありがたい。
そちらのごはんがおいしそうで気になっていたんです」
笑いながらリーダーがサンドウィッチを受け取る。見張りの人を2人残して、ほかの人たちで広げた敷物の上に座る。そして、はしたないかな、と戸惑いながらも受け取ったサンドウィッチにかぶりつく。
「っ、おいしいです!」
さすが、パン焼きのギフト! 冷めてもおいしい。大口を開けてかぶりつくのは恥ずかしいけれど、皆こう食べているからきっとこれが正解なんだよね。
「ああ、本当に。
持ち運び用のパンは宿泊者しか買えませんし、宿泊者も買えるかわからないって聞きましたけど、よく買えましたね」
「ふふ、宿屋の主人が知り合いの方なの。
だから優先的に買わせてもらえるのよ」
なるほど、とうなずく。そのあとは見張りを交代して、ゆっくりと食事を楽しんだ。昼休憩を終えると、再び馬車に乗り込む。心地よい揺れと満腹になった影響でうとうととしてしまった。
「あら、眠いのなら寝てしまって大丈夫よ」
「……ありがとう、ございます」
いいながら横になる。布団をかけられた感覚がしたと思ったら、すぐに意識が沈んでいった。
--------------------
『い、嫌、来ないで……!』
『えー、そんなこといってさぁ。
ほら、きっと楽しいよ』
『嫌です!』
暗い路地で女性が男性に腕をつかまれている。女性はそれを振り払おうと必死に腕を振っていた。だが、その手が離される様子はない。誰か、助けてあげて!
--------------------
「……ーア。
フィーア!」
「……え?」
「大丈夫?
うなされていたけれど」
目を開けると、目の前にいたのは先ほどの女性でも、男性でもない。リミーシャさんだ。私、また、何かを見ていたのね。鈍い頭痛が先ほどの夢がギフトの力で見たものだと教えてくれる。
「だ、大丈夫です。
ありがとうございます」
「でも、まだ顔色が悪いわ。
お水でも飲んで」
はい、と渡された水をありがたく受け取る。先ほどの画。どこでいつ起きるのかはわからない。私にできるのは先ほどの女性が無事に逃げられたことを願うだけ……。
6
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる