ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio

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 あの事故から2週間。私はようやくお店に復帰することができていた。安静に、と言われていたのは1週間だったはずなのに、お店ではほぼ立っているのだから完全に治ってからじゃないと、といつの間にか押し切られてしまったのだ。まあ、確かにお店に出てから迷惑かけるわけにもいかないから仕方ないけれど……。

 ルイさんはあの日以降お見舞いに来ることもなかったから、手紙は渡せずじまいだった。今日は荷物の中にちゃんと手紙も入っている。

「本当に大丈夫?」

「もう、大丈夫ですよ。
 この2週間しっかり休みましたから」

「でも、体調が悪くなったらすぐに言うのよ? 
 途中で帰ってもいいのだから」

「リミーシャさんまで。
 でも、ありがとうございます」

 そんな問答を朝食の席まで繰り返したけれど、何とか無事に出勤することができた。懐かしさすら感じる店内を見まわした後、さっそく開店準備に取り掛かる。あ、私が刺繍した作品の在庫だいぶ減っている。というか、ほとんどない? 休んでいる間も刺繍はしていたんだけれど、読書とかしていた時間のほうが長かったから、いつもよりも作品作れてなかったからかな。

 屋敷から持ってきた作品をそこに並べていると、リミーシャさんがこちらにやってきた。

「あら、ありがとう。
 あなたの刺繍が入った作品は人気だから、お客さんも喜んでくれるわ」

「そうなのですか?
 嬉しいですけれど……、この刺繍はあまり人気ではないのかな」 
 
 残っているものを見るとかわいいというよりも、かっこいい系統の刺繍だ。剣とか盾とか。まあ、ポートやハンカチ全体がレースとか入っていて可愛らしいから、確かにアンバランスかも。

「そうね。
 お客さんもかわいいものを求めているこが多いから」

「……そうだ、今度はお客さんから直接刺繍してほしいものを聞いてみるものいいかもしれません。
 そうすればイニシャルとかも入れられますし」

「まあ、それはいい案ね!
 受ける件数は制限しなくてはだけれど、刺繍の難易度に沿って料金を設定して……。
 うん、あなたさえ大丈夫ならばやってみましょう。
 あ、でも適度な時間でやるのよ?
 時間がかかるかもしれないことは事前に伝えて、それでも待っていただける方だけ依頼を受けるから」

「はい。わかりました」

 また一つ、新しいことができる。それが嬉しくて、楽しみだった。

「そうだ、今日は少し大変な一日になるかもしれないわね」

「え、どうしてですか?」

「今日からあなたが復帰するって話してしまったのよ」

 ふふ、と困ったようにリミーシャさんは笑った。だから、きっと多くの人がやってくると思うわ、と扉の外を見る。そっか、どうしていつもは一人しかいない扉の警備が、今日は二人いるんだろう、と思ったら。え、でもそんなに人来るかな? 思わず私もリミーシャさんのような笑みを浮かべてしまった。

 無事に開店準備をして開店時間を迎える。その前から店の外には人が集まってきている。いやいや、なぜ。なんだか少し怖くなってきた。

「ふふ、1年間あなたが頑張ってきたからね」

「え?」

「さ、開店よ。
 そうだわ、あなたが話していたオーダーメイドの刺繍、初回はルイさんに話してみたらどうかしら?」

「ルイさんに……。
 はい、そうしてみます!」

 リミーシャさん扉横の警備の人に視線を送る。その人はうなずきを返すと扉を開けた。

「フィーアさん!
 本当に復帰したのね!」

「私、あのとき近くにいたのだけれど、本当にぞっとしたわ」

「え、あ、あの。
 ありがとうございます。
 ご心配おかけしてすみませんでした」

「あら、そんなのいいのよ!
 そうだ、これ受け取って」

「あ、ありがとうございます」

 ぐいぐいと来るお客さんに負けてしまう。心配してくれているのはとてもありがたいんだけれど、ちょっと落ち着いてもらいたい。とっさに受け取ったのはきれいに包装された何かだった。

「まあまあ、皆さん落ち着いてくださいな。
 フィーアはこれからずっとお店に出てくれるのですから」

「あら、そうよね。
 ついつい嬉しくなってしまって」

「ええ、その気持ちはわかるわよ」

 穏やかなリミーシャさんの声にどうやら落ち着いてくれたようでほっとする。少し離れて私のことを確認するとうんうん、とうなずいていた。そして大体のお客さんは何かを買って帰ってくれた。お見舞いと言っていろいろなものをもらってしまったけれど。

 そんな中、扉の外が騒がしくなる。なんだろう、とそちらを見てみると、見覚えのある男の子と、その子の背を押す母親の姿があった。どうやら入るのをためらっているようで、周りの人が何かを話しかけている。

「あら……。
 フィーア、あの方たちを迎えに行ってあげて?
 おそらく一番、元気なあなたに会いたがっていた方たちだから」

 その言葉に確信する。あの男の子はおそらく、私が助けた子だ。私が、自分の罪悪感から助けた子。でも、元気そうな姿を見てとても安心した。せめてあの子だけでも助けられたんだって。

「はい!
 行ってきます!」

 リミーシャさんに返事をして、扉へと向かう。まだ親子はためらったように扉の外にいた。人にはぶつからないように慎重に扉を開けて、その親子に笑顔を向ける。

「いらっしゃいませ!」

「あ、あの……」

「どうぞ、中に入ってください」

 扉を大きく開けて中へ招き入れると、母親はほっとした顔をしてぺこりと頭を下げた。

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