50 / 69
49
しおりを挟む
大きな扉の前で一度立ち止まる。思わずユースルイベ殿下の腕を握る手に力が入る。それに気がついたのか、冷たくなった手に殿下の手が添えられる。温かい……。
「大丈夫、怖がることはないよ。
僕が傍にいるから」
「はい……」
ユースルイベ殿下がいるからって安心することはない。そう言い返したかったけれど、殿下の温かい手に安心してしまった自分がいる。
いけない。センタリア商会の皆さんのためにも、ナフェルのためにも馬鹿にされるわけにはいかない。気持ちを切り替えないと。
扉の傍にいる侍従が扉を開けて入場の声を上げる。ユースルイベ殿下にエスコートをされたまま、私は会場に足を踏み入れた。
開いた扉の先に待ち構えていた人数は思っていたよりも少ない。だが、その服装から全員が重臣であることがうかがえる。正面の一段高くなっているところには国王陛下、王妃陛下が座している。この方が王妃様。その少し後ろにはパルシルク殿下と思われる少年がいた。
その手前にはミリアさん。ミリアさんの前までエスコートされると、手を離される。そこで私は陛下方に向かって礼をとる。そんな私に陛下はうなずいた。
「はじめるように」
陛下の言葉に、ミリアさんが礼をして一歩前に出る。そして私の手を取って、じっとこちらを見つめてきた。途端、ミリアさんの目が輝きだす。もともと小さく輝いていたけれど、その比ではない。本気でギフトを使うとこうなるのか、と考える。
その目が小さく見開かれる。目の輝きに見とれていると、徐々にそれが収まってきた。きっと終わったのだろう。手が、微かに震えている……?
「この方のギフトは『神の目』でございます」
ミリアさんがそうはっきりと宣言する。瞬間、周りから声が漏れる。それは安堵の声だったのかもしれないし、喜びの声だったのかもしれない。でも、これで私の将来は決まった。
顔を上げると、国王様がこちらを見ていた。
「フリージア・シュベルティー子爵令嬢。
そなたを『神の目』をもつ者と認めよう。
その能力を持って、わがバニエルタ王国を盛り立ててくれることを願う」
「陛下のお言葉、しかと受け取りました。
よろしくお願いいたします」
陛下の言葉を受けて礼をする。そのあとは後ろを向き、立ち会った人たちに向けて礼をする。顔を上げると、臣下たちはそれぞれの礼をとっていた。
このまま、会場を移動する。今度は婚約式だ。服装はそのままでいいから楽かもしれない。次は親族や上の位にいる臣下の前で婚約を宣言する、と。
面倒なことに、休憩をはさむと次は国民への顔見せがある。それは『神の目』の乙女が見つかったという宣言のため。今回、王太子との婚約は発表しない予定だけれど、隣には殿下が立っていてくれるようなので、ほとんど宣言しているようなものよね。
それだけ国にとっても大事なことなのだと、そう言われてもあまりよくわからない。
婚約式の会場にはまたもやユースルイベ殿下にエスコートしてもらって入っていく。ここにナフェルがいるのよね。きょろきょろしたい気持ちを押さえて、すっと前を向いて歩く。
殿下と二人で陛下の前に立つ。まるで結婚式の様だ。結婚を迎える歳ではたいてい寝込むことが多い。そのため、実は豪華な結婚式を挙げたことがないな、なんて思う。したいわけではないけれど、ちょっと意外。
「フリージア・シュベルティー子爵令嬢。
そなたをバニエルタ王国王太子、ユースルイベ・クアルゼット・バニエルタの婚約者として迎えよう。
役目をしかと果たすように」
「はい、精進いたします」
先ほどから何度もやっている礼をする。久しぶりにやったから疲れる……。それからユースルイベ殿下にも陛下から声がかかる。それに応えた後、クッションの上に乗せた形で指輪が運ばれてきた。
婚約の証である指輪をユースルイベ殿下からはめられる。それを見届けた人たちから拍手が送られた。これで、儀式は終了。何とか無事に終わってよかった。
最後、退出するために後ろを向く。儀式に立ち会った人たちのその最前。周りの人たちと比べてひと際小さな人がいた。ナフェル、思わずそう呟いてしまう。
最後に会ったあの日から、どれだけのことがあったのだろうか。そこには私の知らない顔つきをした弟がいた。
とっさに話しかけようとしてしまったが、今は声をかけていい時ではない。少し強引にユースルイベ殿下に手を引かれることで、ようやく今の状況を思い出す。何とか殿下にエスコートされて、私は部屋まで戻った。
「大丈夫、怖がることはないよ。
僕が傍にいるから」
「はい……」
ユースルイベ殿下がいるからって安心することはない。そう言い返したかったけれど、殿下の温かい手に安心してしまった自分がいる。
いけない。センタリア商会の皆さんのためにも、ナフェルのためにも馬鹿にされるわけにはいかない。気持ちを切り替えないと。
扉の傍にいる侍従が扉を開けて入場の声を上げる。ユースルイベ殿下にエスコートをされたまま、私は会場に足を踏み入れた。
開いた扉の先に待ち構えていた人数は思っていたよりも少ない。だが、その服装から全員が重臣であることがうかがえる。正面の一段高くなっているところには国王陛下、王妃陛下が座している。この方が王妃様。その少し後ろにはパルシルク殿下と思われる少年がいた。
その手前にはミリアさん。ミリアさんの前までエスコートされると、手を離される。そこで私は陛下方に向かって礼をとる。そんな私に陛下はうなずいた。
「はじめるように」
陛下の言葉に、ミリアさんが礼をして一歩前に出る。そして私の手を取って、じっとこちらを見つめてきた。途端、ミリアさんの目が輝きだす。もともと小さく輝いていたけれど、その比ではない。本気でギフトを使うとこうなるのか、と考える。
その目が小さく見開かれる。目の輝きに見とれていると、徐々にそれが収まってきた。きっと終わったのだろう。手が、微かに震えている……?
「この方のギフトは『神の目』でございます」
ミリアさんがそうはっきりと宣言する。瞬間、周りから声が漏れる。それは安堵の声だったのかもしれないし、喜びの声だったのかもしれない。でも、これで私の将来は決まった。
顔を上げると、国王様がこちらを見ていた。
「フリージア・シュベルティー子爵令嬢。
そなたを『神の目』をもつ者と認めよう。
その能力を持って、わがバニエルタ王国を盛り立ててくれることを願う」
「陛下のお言葉、しかと受け取りました。
よろしくお願いいたします」
陛下の言葉を受けて礼をする。そのあとは後ろを向き、立ち会った人たちに向けて礼をする。顔を上げると、臣下たちはそれぞれの礼をとっていた。
このまま、会場を移動する。今度は婚約式だ。服装はそのままでいいから楽かもしれない。次は親族や上の位にいる臣下の前で婚約を宣言する、と。
面倒なことに、休憩をはさむと次は国民への顔見せがある。それは『神の目』の乙女が見つかったという宣言のため。今回、王太子との婚約は発表しない予定だけれど、隣には殿下が立っていてくれるようなので、ほとんど宣言しているようなものよね。
それだけ国にとっても大事なことなのだと、そう言われてもあまりよくわからない。
婚約式の会場にはまたもやユースルイベ殿下にエスコートしてもらって入っていく。ここにナフェルがいるのよね。きょろきょろしたい気持ちを押さえて、すっと前を向いて歩く。
殿下と二人で陛下の前に立つ。まるで結婚式の様だ。結婚を迎える歳ではたいてい寝込むことが多い。そのため、実は豪華な結婚式を挙げたことがないな、なんて思う。したいわけではないけれど、ちょっと意外。
「フリージア・シュベルティー子爵令嬢。
そなたをバニエルタ王国王太子、ユースルイベ・クアルゼット・バニエルタの婚約者として迎えよう。
役目をしかと果たすように」
「はい、精進いたします」
先ほどから何度もやっている礼をする。久しぶりにやったから疲れる……。それからユースルイベ殿下にも陛下から声がかかる。それに応えた後、クッションの上に乗せた形で指輪が運ばれてきた。
婚約の証である指輪をユースルイベ殿下からはめられる。それを見届けた人たちから拍手が送られた。これで、儀式は終了。何とか無事に終わってよかった。
最後、退出するために後ろを向く。儀式に立ち会った人たちのその最前。周りの人たちと比べてひと際小さな人がいた。ナフェル、思わずそう呟いてしまう。
最後に会ったあの日から、どれだけのことがあったのだろうか。そこには私の知らない顔つきをした弟がいた。
とっさに話しかけようとしてしまったが、今は声をかけていい時ではない。少し強引にユースルイベ殿下に手を引かれることで、ようやく今の状況を思い出す。何とか殿下にエスコートされて、私は部屋まで戻った。
3
あなたにおすすめの小説
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる