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いろいろと見て回って考えながら花束を完成させていく。だけれど、いくつ見ても花束の主役となる花を決めることができないでいた。本当はもっとゆっくりと見たかったけれど、あまりの居心地の悪さに集中しきれない。
いくら本人にとってはひそめているつもりでも、聞こえてくる内容もある。私が王太子妃にふさわしくないだの、わざと公用エリアの庭園に来て権力を振りかざしているだの……。王宮で品のない。
何度も眉をしかめそうになる。でもせっかくの楽しい時間。こんな人たちに邪魔されたくない一心で無視を決め込んでいた。
しかし。ひと際大きな声で話していた人たちの前を避けて別の道を行こうとしたとき、急にフェルベルトが立ち止まった。そして私に一言断りを入れると、私に悪意を向けていた人たちの前へと進んでいく。
「フェルベルト……?」
いったい何をする気なの、とその動向を見ていると、急に胸倉をつかみ上げた。
「う、うわぁ⁉
何をするのですか!」
「フェルベルト⁉
やめなさい!」
つかみ上げられた男性の叫び声と、私のあげた声が重なる。フェルベルトは私の方を向くことなく、低い声で話始めた。
「先ほどから、揃いも揃って……。
何も知らないものが、フリージア様のことを語るな。
望まぬあの方を枠に押し込めたのはお前らだろうが……!
そのうえでそのようなことを口にして、覚悟はできているのだろうな、ヴェルティー家の嫡男よ」
ヴェルティー家って確か伯爵家だったような? そんな家の嫡男がこれって、なかなか苦労しそうな気がする。それにしても、フェルベルトは知っていたのね。そんなことを考えているうちに、名を呼ばれたその人は顔面が蒼白になっている。それでも手を緩めようとしないフェルベルトに慌ててほかの護衛が止めにはいった。
って、これは私が止めなくてはいけないものなのね⁉ 周りには聞こえないように、小さく咳払いをする。何とかそれで気持ちを立て直した。
「フェルベルト、やめなさい。
もう戻りましょう」
「ですが!」
「そんな人に割く時間がもったいないわ。
ヴェルティー伯爵家……、でしたっけ?
ご意見があるのでしたら、ぜひ王家に。
私は王太子の婚約者という座に未練はございませんから」
にこりと完璧な笑みを意識して、その場を後にしようと歩き出す。せっかくなら花束を完成させたかったのだけれど仕方ない。私が何も反応を返さなかったことで調子に乗ったのか、癇に障ったのか。先ほどから無視が難しいくらい批判が聞こえてきていたから、これ以上は難しいと思っていたもの。
「クリート、今日は案内をありがとう。
ぜひ、この庭のことをお願いね」
「あ、は、はい!
こちらこそ、お会いできて光栄でした」
クリートにだけ声をかけて、私は私室へと戻ろうと足を踏み出した。
――――――
「あの、フリージア様。
フリージア様でしたらこちらにある花を摘むこと可能ですよ……?
庭師に確認してまいりますので、よければ完成させませんか?」
落ち込んでいる私に気を使ったのだろう。アンナが私室でそう声をかけてくれる。ここで……。そこまでしてやりたかったかというと、そこまででもない。でも、せっかくアンナが気を使ってくれたのだし、とうなずく。このままでいても、きっと周りの人にも気を使わせてしまうもの。
「ありがとう。
それじゃあ、お言葉に甘えて」
「はい!
お任せください」
笑顔でそう返すとアンナはそのまま許可をもらおうと部屋を出ていく。うーん、それにしても後は何を加えよう。プライベートエリアの庭園なら、また違う花もあるだろうし、見てから考えるのもいいかもしれない。
そう思いながら、庭園に目を向ける。あっ……、そうだ。こちらにはあの花があるのだった。王女殿下に贈るのにこれ以上ぴったりの花もないよね。
アンナが無事に許可をもらってきて庭園へと向かう。どれでも摘んでいいということだったので、私はまっすぐお目当ての花へと向かっていった。
「主役はこの花にするわ」
それはマリアンナ殿下の象徴花。黄色いステラの花。それを見たアンナは一瞬驚いたように目を大きくさせたけれど、すぐにほほ笑んでくれた。
「はい、とても良いと思います。
その花束は……、マリアンナ殿下への贈り物ですか?」
「うん……。
ここにくる以前、よくお会いしていたの。
花束が似合う人、で最初に思い浮かんだのがマリアンナ殿下だったの」
まだ消化しきれていない思いはある。どうして黙っていたのだろうとか、ずっと私のことをどう思っていたのだろうとか。だけれどたぶん。マリアンナ殿下は知らなかった、私のギフトを。殿下にとっても唐突に知らされたことだったのなら、これまでのマリアンナ殿下のことを信じてもいいのではないか、と思える。それに何より、義理の姉妹となる方。仲がいい方がいいに決まっている。
自分に言い訳のようにそう心の中で整理をつける。けれど、たぶん。本当の想いは、ただあの方とまた話したいのだ。それくらいマリアンナ殿下に好意を抱いていたのだから。
「素敵ですね。
私の方からマリアンナ殿下の方にお伺いをたてましょう。
花は早くお渡しした方がよいですから、急がないと」
「うん、お願いね、アンナ」
少しだけ緊張する。もしかしたらマリアンナ殿下は私のことを拒否するかもしれない。その権利が殿下にはあるもの。突然ギフトのことや、私の身分を持ち出されて動揺していたとはいえ、気を使ってくださった殿下にあんまりな態度をとってしまったから。それからアンナが戻ってくるまで、そわそわとした時間を過ごすことになってしまった。
いくら本人にとってはひそめているつもりでも、聞こえてくる内容もある。私が王太子妃にふさわしくないだの、わざと公用エリアの庭園に来て権力を振りかざしているだの……。王宮で品のない。
何度も眉をしかめそうになる。でもせっかくの楽しい時間。こんな人たちに邪魔されたくない一心で無視を決め込んでいた。
しかし。ひと際大きな声で話していた人たちの前を避けて別の道を行こうとしたとき、急にフェルベルトが立ち止まった。そして私に一言断りを入れると、私に悪意を向けていた人たちの前へと進んでいく。
「フェルベルト……?」
いったい何をする気なの、とその動向を見ていると、急に胸倉をつかみ上げた。
「う、うわぁ⁉
何をするのですか!」
「フェルベルト⁉
やめなさい!」
つかみ上げられた男性の叫び声と、私のあげた声が重なる。フェルベルトは私の方を向くことなく、低い声で話始めた。
「先ほどから、揃いも揃って……。
何も知らないものが、フリージア様のことを語るな。
望まぬあの方を枠に押し込めたのはお前らだろうが……!
そのうえでそのようなことを口にして、覚悟はできているのだろうな、ヴェルティー家の嫡男よ」
ヴェルティー家って確か伯爵家だったような? そんな家の嫡男がこれって、なかなか苦労しそうな気がする。それにしても、フェルベルトは知っていたのね。そんなことを考えているうちに、名を呼ばれたその人は顔面が蒼白になっている。それでも手を緩めようとしないフェルベルトに慌ててほかの護衛が止めにはいった。
って、これは私が止めなくてはいけないものなのね⁉ 周りには聞こえないように、小さく咳払いをする。何とかそれで気持ちを立て直した。
「フェルベルト、やめなさい。
もう戻りましょう」
「ですが!」
「そんな人に割く時間がもったいないわ。
ヴェルティー伯爵家……、でしたっけ?
ご意見があるのでしたら、ぜひ王家に。
私は王太子の婚約者という座に未練はございませんから」
にこりと完璧な笑みを意識して、その場を後にしようと歩き出す。せっかくなら花束を完成させたかったのだけれど仕方ない。私が何も反応を返さなかったことで調子に乗ったのか、癇に障ったのか。先ほどから無視が難しいくらい批判が聞こえてきていたから、これ以上は難しいと思っていたもの。
「クリート、今日は案内をありがとう。
ぜひ、この庭のことをお願いね」
「あ、は、はい!
こちらこそ、お会いできて光栄でした」
クリートにだけ声をかけて、私は私室へと戻ろうと足を踏み出した。
――――――
「あの、フリージア様。
フリージア様でしたらこちらにある花を摘むこと可能ですよ……?
庭師に確認してまいりますので、よければ完成させませんか?」
落ち込んでいる私に気を使ったのだろう。アンナが私室でそう声をかけてくれる。ここで……。そこまでしてやりたかったかというと、そこまででもない。でも、せっかくアンナが気を使ってくれたのだし、とうなずく。このままでいても、きっと周りの人にも気を使わせてしまうもの。
「ありがとう。
それじゃあ、お言葉に甘えて」
「はい!
お任せください」
笑顔でそう返すとアンナはそのまま許可をもらおうと部屋を出ていく。うーん、それにしても後は何を加えよう。プライベートエリアの庭園なら、また違う花もあるだろうし、見てから考えるのもいいかもしれない。
そう思いながら、庭園に目を向ける。あっ……、そうだ。こちらにはあの花があるのだった。王女殿下に贈るのにこれ以上ぴったりの花もないよね。
アンナが無事に許可をもらってきて庭園へと向かう。どれでも摘んでいいということだったので、私はまっすぐお目当ての花へと向かっていった。
「主役はこの花にするわ」
それはマリアンナ殿下の象徴花。黄色いステラの花。それを見たアンナは一瞬驚いたように目を大きくさせたけれど、すぐにほほ笑んでくれた。
「はい、とても良いと思います。
その花束は……、マリアンナ殿下への贈り物ですか?」
「うん……。
ここにくる以前、よくお会いしていたの。
花束が似合う人、で最初に思い浮かんだのがマリアンナ殿下だったの」
まだ消化しきれていない思いはある。どうして黙っていたのだろうとか、ずっと私のことをどう思っていたのだろうとか。だけれどたぶん。マリアンナ殿下は知らなかった、私のギフトを。殿下にとっても唐突に知らされたことだったのなら、これまでのマリアンナ殿下のことを信じてもいいのではないか、と思える。それに何より、義理の姉妹となる方。仲がいい方がいいに決まっている。
自分に言い訳のようにそう心の中で整理をつける。けれど、たぶん。本当の想いは、ただあの方とまた話したいのだ。それくらいマリアンナ殿下に好意を抱いていたのだから。
「素敵ですね。
私の方からマリアンナ殿下の方にお伺いをたてましょう。
花は早くお渡しした方がよいですから、急がないと」
「うん、お願いね、アンナ」
少しだけ緊張する。もしかしたらマリアンナ殿下は私のことを拒否するかもしれない。その権利が殿下にはあるもの。突然ギフトのことや、私の身分を持ち出されて動揺していたとはいえ、気を使ってくださった殿下にあんまりな態度をとってしまったから。それからアンナが戻ってくるまで、そわそわとした時間を過ごすことになってしまった。
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