空回りばかりの思い、その先は

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二話:鷹華のこと(前)

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 私がこのお屋敷にお世話になり始めたのは三年ほど前のことだろうか。
 もともととある貴族の一人娘だった私は、片づけや料理はおろか着替えすら一人でしたこともなかった。


「お嬢様、朝ですよ。
 早くお目覚めになりませんと」

「うー……ん。
 いま、おきるわ」

 部屋全体に日の光が入り込む。
 昨夜も出された課題をこなすために夜遅くまで起きていたため、とても眠い。
 それでも起きなければ先生が来てしまうのだ。

「さっ、本日はこちらにお着換えください」

 のそのそとベッドから出ると、侍女が今日の服を広げて待っていてくれた。
 これが私の日常。
 部屋が少しでも散らかっていれば私がいない間にきれいに片づけてくれるし、いつも決まった時間に豪華なご飯を作ってくれる。
 生活面は何もしなくても、こうして侍女たちがすべてやってくれるのだ。

「本日はまず歴史を、その後生け花の先生がいらっしゃいます。
 剣のお稽古は……」

 着替えをしながら侍女が今日の予定を伝えてくる。
 毎日朝から夕方までぎっしりと詰められる予定は、もう覚えきれるものではない。
 実は今も予定を右から左に聞きながしてしまっている。
 それでもその場その場で伝えてくれるので問題はないのだ。

「ねえ?
    お父様のお言いつけ通り、こうして毎日お勉強やお稽古をしてるけれど一体これは何の役に立つのかしら……。
 私、たまには外に遊びに行きたいわ」

「鷹華様、あなた様は次期当主でいらっしゃいます。
 人の上に立つものとして、教養や知識は必要なものなのですよ」

 むぅ、としかめっ面をしていると、そうして侍女がたしなめてくる。
 わかってはいるのだけれど、愚痴がこぼれてしまうのは仕方ないだろう。


「鷹華、夕方大切な話がある。
 私の書斎に来なさい」

 ある日朝ごはんを食べていると、急にそんなことを言われた。
 普段話すこともない父の呼び出しに首をかしげながらも、言われたとおりに夕方書斎へと訪れた。


「初めまして、鷹華さん。
 私は立川と言います」
 
 父の書斎にいたのは人のいい笑みを浮かべた知らない男性。
 一体、誰だろうか?

「今日からこの人のところへ行け」

 たった一言。
 いきなり父の口からでたのはそれだけだった。
 訳も分からずにいると、隣にいた立川が説明をしてくれた。

「君のお父上が我々に多大な借金をしていてね。
 支払い期限になっても一向に返してくれない。
 だから、借金の代わりに君に来てもらうことになったんだ」

 どういう、ことだろうか? 
 我が家がそもそも借金をしていたこと自体今知ったことだ。
 それに聡明であった父がなぜそんな無謀に金など借りたのだろうか? 
 何も理解できない。

「どういう、ことですか? 
 私はこの家の次の当主になるものです。
 なのに、あなたのところへ行くって……」

「君はこの家を継げないよ。
 甥を代役にする、だったかな?」

 そういって父の方をちらりと見ると、父は一つうなずいていた。
 これはどういう会話なのだろうか?
 私はこれまでいずれ当主の座を引き継ぐということで、必死に頑張ってきた。
 女ということもあり本当は剣術などやりたくなかった。
 勉学だって、きっとここまで多くを学ぶ必要はなかった。
 すべて、いつかのために、とやってきたのに……。

 言葉にできない思いが胸の中に渦巻く。
 それはいつの間にか涙となって頬を伝っていた。

「泣くなど、みっともない」

 それが父から聞いた最後の言葉だった。
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