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三話:鷹華のこと(後)
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次の日にはもう、私は立川が運転する車の中にいた。
車の窓にはカーテンがかかっている。
何も見るものがない退屈な時間の中、ふかふかの座席に私はいつの間にか眠ってしまっていた。
「……かさん、鷹華さん!」
ゆすられながら、自分の名前が大きく呼ばれる。
はっと目を覚ますといつの間にか車は止まっていた。
「さあ、着きましたよ。
ここが今日からあなたの家です」
その立派な外見に思わずぽかん、としてしまう。
一体ここではどんな生活が待っているのだろうか。
「今日はお疲れでしょうから、ゆっくりと休んで。
明日以降のことはまた説明するよ」
そういってきれいに整えられた部屋へと案内される。
丁寧に扱われている様子が今は妙に思えて仕方なかった。
そしてろくに眠れないまま迎えた翌日。
立川は厳重な警備が敷かれたとある部屋へと私を案内した。
その中には大きな機械が一台と、そこから伸びている複雑に絡み合ったコードにつながれた多くの機械があった。
「君にやってもらうのはあの機械の中に入ってもらうことだけだ。
あとはすべてこちらに任せてくれ」
にやにやとした笑みを浮かべたままそう言った立川に、逃げなければ、本能がそう警戒していたが、どこにも逃げる場所がないのはわかりきっている。
そのまま、私は機械の中へと入れられてしまった。
しばらくすると、頭に何かの器具が装着された。
訳も分からないままでいると、いきなりそこから起動音がした。
そこから先が地獄だった。
自分の意志に関係なく、脳内を駆け巡っていく数多の情報。
頭の中を何者かに無遠慮に覗かれ、かき乱されるかのような感覚。
とにかく気持ち悪くて、いつの間にか私は叫んでいた。
「あっ、目覚めたかい?」
いつの間に意識を失っていたのだろうか。
まだ慣れない天井が目に入ってきた。
ここはもう、あの機械の中じゃない、そう認識したとたん深い安堵が体を包んだ。
「気分はどう?」
先ほどから、枕元あたりから声がする。
誰だろうかと目線をそちらにやれば、優しそうな男性が立っていた。
「気分……」
「まだ、顔色が悪いね」
心配だ、そんな言葉が聞こえてきそうな表情をしている。
いったいこの人は誰なのだろうか?
「あっ、僕は麻木諒介って言います。
よろしくね」
そういって手を差し出してきたその人に、どこか安心感を覚えて私は思わず手を伸ばしていた。
そして軽い握手を交わしたとき、何かを渡されたことに気が付いた。
「これは?」
「これはね、お守り。
君が無事でいられますようにっていうね」
困ったようにその人はそう言った。
お守りは聞いたことはあったが実物を見るのは初めてで、ついまじまじと見てしまう。
「そんなに、珍しいかい?」
「えっと、はい」
「そうか。
せっかくだから持っていて」
そういって麻木さんは去っていった。
あんなことがあった後なのに、なぜかその日はよく眠ることができた。
しかし、実験はその後どんなに泣き叫んでも止められることはなかった。
そして、気が狂うのではないか、むしろ気が狂った方がましだ、と本気で思っていたころ。
以前からこの実験に反感を覚えていたという麻木さんが私を連れて逃げ出してくれた。
きっとそれは命すらかけた行為であったのであろう。
それを察していつつ、私には伸ばしてくれた手を払う、という選択肢は存在しなかった。
命からがら逃げだした先は、このお屋敷。
その日から私は自分の意思でメイドとしてこの屋敷に、助け出してくれた麻木に仕えることにした。
そして麻木さんのことはご主人様、と呼ぶようにもした。
そうしないと勘違いしそうなになるのだ。
彼の同情心と、私のこの淡い恋心が同じものなのではないか、なんて。
今はただ、あの場所から連れ出してくれたという感謝を胸にこの屋敷に勤めることにする、初めにそう決めたのだ。
本当はもっといろいろな面で役に立ちたいのだが、今までやる機会がなかった生活面のことに関してはどうしても無理だった。
メイドとしてこの家にいながら、メイド失格なことも知っている。
それでも、必ず何かあった時は役にたってみせる、そんな思いを忘れずに今日も屋敷を駆け回るのだ。
車の窓にはカーテンがかかっている。
何も見るものがない退屈な時間の中、ふかふかの座席に私はいつの間にか眠ってしまっていた。
「……かさん、鷹華さん!」
ゆすられながら、自分の名前が大きく呼ばれる。
はっと目を覚ますといつの間にか車は止まっていた。
「さあ、着きましたよ。
ここが今日からあなたの家です」
その立派な外見に思わずぽかん、としてしまう。
一体ここではどんな生活が待っているのだろうか。
「今日はお疲れでしょうから、ゆっくりと休んで。
明日以降のことはまた説明するよ」
そういってきれいに整えられた部屋へと案内される。
丁寧に扱われている様子が今は妙に思えて仕方なかった。
そしてろくに眠れないまま迎えた翌日。
立川は厳重な警備が敷かれたとある部屋へと私を案内した。
その中には大きな機械が一台と、そこから伸びている複雑に絡み合ったコードにつながれた多くの機械があった。
「君にやってもらうのはあの機械の中に入ってもらうことだけだ。
あとはすべてこちらに任せてくれ」
にやにやとした笑みを浮かべたままそう言った立川に、逃げなければ、本能がそう警戒していたが、どこにも逃げる場所がないのはわかりきっている。
そのまま、私は機械の中へと入れられてしまった。
しばらくすると、頭に何かの器具が装着された。
訳も分からないままでいると、いきなりそこから起動音がした。
そこから先が地獄だった。
自分の意志に関係なく、脳内を駆け巡っていく数多の情報。
頭の中を何者かに無遠慮に覗かれ、かき乱されるかのような感覚。
とにかく気持ち悪くて、いつの間にか私は叫んでいた。
「あっ、目覚めたかい?」
いつの間に意識を失っていたのだろうか。
まだ慣れない天井が目に入ってきた。
ここはもう、あの機械の中じゃない、そう認識したとたん深い安堵が体を包んだ。
「気分はどう?」
先ほどから、枕元あたりから声がする。
誰だろうかと目線をそちらにやれば、優しそうな男性が立っていた。
「気分……」
「まだ、顔色が悪いね」
心配だ、そんな言葉が聞こえてきそうな表情をしている。
いったいこの人は誰なのだろうか?
「あっ、僕は麻木諒介って言います。
よろしくね」
そういって手を差し出してきたその人に、どこか安心感を覚えて私は思わず手を伸ばしていた。
そして軽い握手を交わしたとき、何かを渡されたことに気が付いた。
「これは?」
「これはね、お守り。
君が無事でいられますようにっていうね」
困ったようにその人はそう言った。
お守りは聞いたことはあったが実物を見るのは初めてで、ついまじまじと見てしまう。
「そんなに、珍しいかい?」
「えっと、はい」
「そうか。
せっかくだから持っていて」
そういって麻木さんは去っていった。
あんなことがあった後なのに、なぜかその日はよく眠ることができた。
しかし、実験はその後どんなに泣き叫んでも止められることはなかった。
そして、気が狂うのではないか、むしろ気が狂った方がましだ、と本気で思っていたころ。
以前からこの実験に反感を覚えていたという麻木さんが私を連れて逃げ出してくれた。
きっとそれは命すらかけた行為であったのであろう。
それを察していつつ、私には伸ばしてくれた手を払う、という選択肢は存在しなかった。
命からがら逃げだした先は、このお屋敷。
その日から私は自分の意思でメイドとしてこの屋敷に、助け出してくれた麻木に仕えることにした。
そして麻木さんのことはご主人様、と呼ぶようにもした。
そうしないと勘違いしそうなになるのだ。
彼の同情心と、私のこの淡い恋心が同じものなのではないか、なんて。
今はただ、あの場所から連れ出してくれたという感謝を胸にこの屋敷に勤めることにする、初めにそう決めたのだ。
本当はもっといろいろな面で役に立ちたいのだが、今までやる機会がなかった生活面のことに関してはどうしても無理だった。
メイドとしてこの家にいながら、メイド失格なことも知っている。
それでも、必ず何かあった時は役にたってみせる、そんな思いを忘れずに今日も屋敷を駆け回るのだ。
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