132 / 179
5章 視察(下)
131
しおりを挟むん、んんんん……。なんか、揺れている? いつの間に馬車に乗ったんだっけ? だけど、いつものよりもすごく乗り心地が悪い。なんでだっけ?
うっすらと目を開ける。真っ暗だ。あれ、縛られて、いる? ……そうだ! シントが消えて、それでサイガに部屋に戻ろう、と手を引かれたんだ。その時に横から誰かに引っ張られたんだ。
つまり今は縛られてどこかに移動させられている途中、ということかな。起きたことを気が付かれないように気を付けながら周りを見る。あ、よかった。シントも一緒だ。
「シント、シント」
できるだけ小さな声でシントに呼びかける。お願い、起きて。さすがにこれ以上大きな声は出せない。
「しっかし存外楽な仕事だったな」
「だな。
国の第二王子と上位貴族を攫えっていわれたときは、何を言っているんだって思ってたのにな。
楽な仕事なわりには報酬たんまりもらえるし」
「あとは目的地までこいつら運ぶだけだな」
まずいな、目的地がどこかはわからないけれど、つまりこいつらを雇ったやつがいるということだ。どうしよう。まずは拘束を解かないといけないけれど、ナイフ……は取れないか。というか、拘束する前になんで武器の確認しなかったんだ? もしかして、男子だし使うなら剣しかないと思っていたとか? ……助かったのは確かだし、ここは深く考えないでおこう。
仕方ない。なら魔法で切るしかないか。たぶん大丈夫だけど、加減間違えるといろいろまずい。でも、やるしかない。
「シント、お願い起きて」
「あ、らん……?」
「よかった、大丈夫?」
「んん、ん、ここ、どこ?」
「わからない。
誰かに連れ去られたみたいで」
「……あー、なんだか思い出したかも。
で、この状態なんだね」
「うん。
ちょっとまって、今縄切るから。
そしたら、一気に走ろう」
ただ、一緒の方向に走るのがいいのか、別々のほうがいいのか……。
「一緒の方向に走ろう」
「シント?」
理由はわからないけれど、そうきっぱりと言われるとそれが正しく思える。よし、とにかく行動を起こさないと。はっ、と一度息を吐き出す。そして集中するとまずは自分の縄を切る。よし、うまくいった。こんなぎりぎりな使い方久しぶりすぎて緊張した……。
次はシント。こちらが子供だからと油断してくれているのか、全然こちらの様子を見るそぶりがない。ものすごく助かるけれど、それでいいのか。とにかくシントの縄を切って、と。
お互いに顔を見合わせてうなずく。今いる場所は荷台だ。音をたてないように気を張りつつも幕を上げる。そして魔法で風を起こして補助しつつ、なんとか地面に降りた。そして先に走り出したシントの後を追った。
「ん?
ちょっと待て、いったん馬車止めろ」
「え、でもそれだと約束の時間に……」
「いいから!」
なんか察しがいい人いるな。子供の足だと大人よりもだいぶ遅い。とにかくここから離れるのが一番だ。
「おい!
あいつらいなくなってんぞ!」
「はぁ!?
だが、ちゃんと縛ってたし、走っている馬車からどうやって」
「知らねえよ!
だが縄は切られている。
それにいない、これがすべてだ」
シント、どんどん山の方に入っていく。迷いがないけれど、何か目的地あるのか?
「おい、あっちの方から音がする!」
とにかく走らないと。
10
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる