150年後の敵国に転生した大将軍

mio

文字の大きさ
133 / 179
5章 視察(下)

132

しおりを挟む

「おい、お前はそのままいけ。
 状況を伝えろ」

 やっぱりこっちにくるか。しかも鈍い方じゃなくて、鋭いほう。きっとこの闇夜の中でも僕らを見つけられるのだろう。まずいな。もう一つまずいことがある。縄を切ってこうして脱出できたはいいが、めまいがするのだ。なんとか逃げ出し、走ることができるがそれでも魔法を使ったときの精度が落ちることに変わりはない。

 さて、山の中に入ったはいいが、ここからどうする。予想以上に僕たちが逃げ出したことがばれたのが早すぎた。これじゃ追いつかれる。

「シント、止まって」

「アラン?」

「今こっちに向かってくる男、もう少し近づいたらできる限りの速さで逃げるんだ」

「え、それじゃあアランは?」

「僕は大丈夫。
 剣はあれだけど、魔法はシントよりもできるって知っているでしょう。
 近くに守る人がいない方が自由に使える」

「アラン……。
 わかった、でも絶対に無事でいてね」

「もちろん。
 あと、これを持って行って」

 言いながら、なぜか回収されなかったナイフを渡す。シントにはもしかしたら魔法よりもこっちの方が使いやすいかもしれないから。今は少しでも無事でいられる確率を上げなくては。

「え、これ……」

「大切なものだから、絶対返して」

「え、あ、うん……、うん!」

 よし、シントもおびえていない。きっと大丈夫だ。そうしている間にも男は着実にこちらに近づいてきていた。本当になんでこんなに正確にこっちの位置を把握しているのか。
 
「よし、行って」

 ぐっとシントの背中を押す。シントもそれに逆らわずに走り出す。

「あっはは、かくれんぼは終わりか?」

 もう少し、もう少しだけ近づいてから。どのみちこちらの位置はきっとばれているんだ。

「けなげだねぇ。
 自分を犠牲にして殿下を、か。
 なぁ、アラミレーテ、だったか?」

 木の陰から数歩男に近づく。やっぱり正確にとらえている。この感性の鋭さは何なんだ。

「ねえ、おじさん誰なの? 
 なんで僕たちを狙う?」

「おじさん、ねぇ。
 まあいいが。
 なんでってそりゃ報酬がいいからだ。
 そんで面白そうだった」

「ふーん。
 いいの?
 殿下、どんどん離れていくよ」

「別に。
 どのみちお前が行かせてくれそうにねぇし、どちらかというと狙いはお前だからな」

 僕が狙い? どういうことだ。ただの辺境伯の次男なんだけど。もう、いいか。シントは十分離れたはず。万が一この男を逃がすことになってもシントが逃げきれれば、まあいい。

「はっ、そんなにちらちらとそっちを見てたら教えてるようなもんだぜ?
 この場を切り抜けたら何か報酬をやるとでも言われたか? 
 それとも、そうだな王子である自分が害を受けたら、共にいたお前にどんな罰が下されるかわからないとか?」

「そんなことは言われていない」

「ははっ、じゃあお前はただの友情ごっこでここにいるのか。
 どうせ切り捨てられるくせに」

 それはない。僕は自分で先に行くように言ったし、何よりシントは今誰よりも古くから知っていて、誰よりも信用できる人だ。まあ、そんなことこいつが知っているわけがないんだが。
 それよりも気になることがある。

「どうして、会話に付き合う?
 こうしているうちに殿下が死角からこちらを狙っているとか考えないの?」

「はっ。
 それはねぇな。
 お前がいなくなったのなら警戒するが、あいつはひどくわかりやすい。
 近づいているならすぐ気づく。
 つまり、お前は今完全に孤立しているってことだ。
 ……、そうだその勇気を賞して一ついいことを教えてやろう。
 お前らを狙っている奴の親玉、それはもう一人の殿下だ。
 かわいそうになぁ、なんでお前の方が恨まれているのか知らねぇが、弟ももういらねぇとよ」

「でもさっきは僕の方を狙っているって言っていたよね?」

「あ?
 そうだったか? 
 んなこまけぇことはどうでもいいんだよ」

 エキソバート殿下。確かに誰かがいらないことを吹き込んでいるといっていたっけ。でも、この状況で出てくる言葉を誰が信じる? ……普通の11歳だったら信じるのかも。まあ、あいにく僕はそれに当てはまらないわけだが。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...