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1章 日常になっていく日々
2話
しおりを挟む「るかー」
子爵夫人からレンを受け取ると、ギュッとしがみついてくる。うーん、相変わらずかわいい。本当はウェルカ、と呼んでもらおうとしたのだけれどまだそこまで舌が回らないのだ。
「では、私はこれで失礼しますね」
「はい。
今日もありがとうございました」
また明日、と子爵夫人が手を振ると、ぐずりながらもなんとか手を振るレン。いい子いい子、と頭をなでるとやっとご機嫌に笑ってくれました。
「我々も戻りましょう?」
「はい」
ふいにずん、と重く感じる。そっと顔を覗き込むとどうやら寝てしまったようだ。あとでお風呂に入れないといけないから、起こさなきゃか。機嫌悪くならないといいのだけれど。
「寝ちゃいましたね」
行きとは違って静かな帰り道。すーすー、というレンの寝息すら聞こえてくるほどだ。行きでうるさかった人たちは今頃それぞれの屋敷にいるのだろう。
「そうですね。
……、今日は星がきれいですね」
ふいに空を見上げたヴァークがそんなことを言う。珍しいな、と思いながらも私もつられて空を見上げた。本当だ、今日は雲がなく、とてもきれいに星が見える。うん、これだけで穏やかな気持ちになることができた。
やっと手に入れた穏やかな日常なのだ。陰口は言われたし、今も言われている。王城内でも否定の言葉ばかりが上がったのを、ベルク殿下と陛下がおさめてくれたのだ。こうしてレンを抱きながら宮へと戻ることのできること自体がどれほど尊いことか、わかっている。
「おや、レンは寝てしまったのか?」
「はい。
迎えに来てくれた時は起きていたのですが、泣き疲れてしまったみたいで」
宮に戻ると、ちょうど殿下も戻ってきたところだった。そしてレンの頭を優しくなでる。初めのころはぎこちなかったそれも今ではもう自然なものになっているよね。
「準備はいかがですか?」
「ああ、もうだいぶ整ってきたよ。
ウェルカ嬢にも世話をかけているな」
「いいえ。
お姉様の願いでもありましたもの」
うーん、もう起こしてしまうか、もう少し待つか。どっちの方がいいかな。考えながら殿下に返事をしていく。それにしてもさすがに大分お疲れのご様子ですね。
「ああ、あとは私がやろう。
ウェルカもヴァークももう休んでいいぞ」
「いいのですか?」
「ああ」
どうしよう、と迷いはしたけれどきっと殿下なりにとれるうちに親子の時間を取りたいのだろう。それでは、とヴァークと二人殿下の部屋を出ることにした。
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