1 / 14
見えない形
あとのかたち
しおりを挟む
自分がどうしたいかより、他人にどう思われているのかの方が、僕にとっては重要だ。だから自分の意見を押し通すこともなければ、恋愛なども自分から進んでしようとも思えなかった。何よりも前提に自分が傷つくのが嫌で、そして自分から交流するのを恐れている。
こんな意気地のない僕を、誰か愛して欲しい。
声にも出さずに、心の内にしまい込んで、それでも密かに願い続けるしかなかった。
「なあ、早見ツカサと話したことあるか?」
「………は?なに急に」
「え!ちょっ!なんで不機嫌なんだよ…。だから、早見ツカサだよ!なんか最近お前と一緒にいるのを見たって聞いたから、意外でさあ。で、どうなんだよ!彼氏か?付き合ってんのか!?」
このうるさい男は飯島カヅキ。幼馴染みだ。
「あー、別にそんなんじゃないよ。身内が世話になってたからそれについて話してただけ。」
「…え、マジかよ。お前、身内って親父さんの?」
「ああ、まあね。…なんだよ。私は大丈夫だって何回も言った。頼むから、早見に直接話聞いたりしないでよ?」
「それは、分かってるけどよ。」
まだ聞きたいことがあるような顔をしていたが、それでも気にせず席を立つ。5分前にチャイムが鳴っていたからまだ時間はたくさんある。私は屋上前の踊り場に足を運んだ。そこにいた人物は壁から顔を出すとにっこりとして手招きした。
「ごめん早見。待った?」
「いや、全然全然。ここに来てもらってるだけで十分だし。」
「……。」
その卑屈なのをやめて欲しい、とは言えない。私には言える資格が無いのだった。
「えっとさ、今日聞きたかったのはあいつの事なんだけど。あれからなんかあった?」
「あいつって、隣ミカド君?…あれ以来は一回も会ってないな。そういえば風波さんは、もともとミカド君のこと知ってたの?」
「うん。詳しいわけじゃ無いけど。悪目立ちしてるやつだから知ってたんだ。あいつ背が高いしガタイもいいから怖がられてるよ。」
「…そんな人に目をつけられたんだ。でもなんでだろう。よく分からないな。」
三日前。先週の金曜日。私と早見は踊り場でいつものように話をしていた。そんな関係性を知った誰かがたまに覗きに来る事はあったが、それでも深く追求して来る人はいなかった。でもその日は直接踊り場に来て話しかけて来る不思議な人物がいた。
「あのさ、お前らって付き合ってんの?」
困惑する早見を後ろにやって、私ははっきりと言った。
「付き合ってないよ。恋愛として好き同士なわけでも無い。」
私の顔をまじまじと見た後、彼は背を向けて「風波アイカと一緒にいても、なんにもならねえぞ。早見。」と、言って階段を降りていった。
「なんでかは私も分からないけど、あいつ、早見に用があった感じするんだよね。勘でしかないんだけどさ、危ない事とか起きそうで。」
「…うーん。例えばだけど、隣君が僕を殴ったりしたとしても、風波さんは気にしなくてもいいんだよ。そもそも今までの…その、謝罪とか、僕なんかの為に泣いてくれたりとか、すごくありがたいんだけど。僕は君に守ってもらうばかりじゃ申し訳ないし。」
早見はそういってから少し口を濁して、俯く。私には早見が言っていることが理解できない。なぜありがたいなんて言えるのだろう。
「気にしないで、守るなんてそんな大層な事できないかも知れないけど、何かあったら相談してね。…そろそろ休み時間終わるから、行こう。」
私と早見は踊り場を後にして、それぞれの教室に戻った。その時、廊下ですれ違った隣と目があった気がした。
こんな意気地のない僕を、誰か愛して欲しい。
声にも出さずに、心の内にしまい込んで、それでも密かに願い続けるしかなかった。
「なあ、早見ツカサと話したことあるか?」
「………は?なに急に」
「え!ちょっ!なんで不機嫌なんだよ…。だから、早見ツカサだよ!なんか最近お前と一緒にいるのを見たって聞いたから、意外でさあ。で、どうなんだよ!彼氏か?付き合ってんのか!?」
このうるさい男は飯島カヅキ。幼馴染みだ。
「あー、別にそんなんじゃないよ。身内が世話になってたからそれについて話してただけ。」
「…え、マジかよ。お前、身内って親父さんの?」
「ああ、まあね。…なんだよ。私は大丈夫だって何回も言った。頼むから、早見に直接話聞いたりしないでよ?」
「それは、分かってるけどよ。」
まだ聞きたいことがあるような顔をしていたが、それでも気にせず席を立つ。5分前にチャイムが鳴っていたからまだ時間はたくさんある。私は屋上前の踊り場に足を運んだ。そこにいた人物は壁から顔を出すとにっこりとして手招きした。
「ごめん早見。待った?」
「いや、全然全然。ここに来てもらってるだけで十分だし。」
「……。」
その卑屈なのをやめて欲しい、とは言えない。私には言える資格が無いのだった。
「えっとさ、今日聞きたかったのはあいつの事なんだけど。あれからなんかあった?」
「あいつって、隣ミカド君?…あれ以来は一回も会ってないな。そういえば風波さんは、もともとミカド君のこと知ってたの?」
「うん。詳しいわけじゃ無いけど。悪目立ちしてるやつだから知ってたんだ。あいつ背が高いしガタイもいいから怖がられてるよ。」
「…そんな人に目をつけられたんだ。でもなんでだろう。よく分からないな。」
三日前。先週の金曜日。私と早見は踊り場でいつものように話をしていた。そんな関係性を知った誰かがたまに覗きに来る事はあったが、それでも深く追求して来る人はいなかった。でもその日は直接踊り場に来て話しかけて来る不思議な人物がいた。
「あのさ、お前らって付き合ってんの?」
困惑する早見を後ろにやって、私ははっきりと言った。
「付き合ってないよ。恋愛として好き同士なわけでも無い。」
私の顔をまじまじと見た後、彼は背を向けて「風波アイカと一緒にいても、なんにもならねえぞ。早見。」と、言って階段を降りていった。
「なんでかは私も分からないけど、あいつ、早見に用があった感じするんだよね。勘でしかないんだけどさ、危ない事とか起きそうで。」
「…うーん。例えばだけど、隣君が僕を殴ったりしたとしても、風波さんは気にしなくてもいいんだよ。そもそも今までの…その、謝罪とか、僕なんかの為に泣いてくれたりとか、すごくありがたいんだけど。僕は君に守ってもらうばかりじゃ申し訳ないし。」
早見はそういってから少し口を濁して、俯く。私には早見が言っていることが理解できない。なぜありがたいなんて言えるのだろう。
「気にしないで、守るなんてそんな大層な事できないかも知れないけど、何かあったら相談してね。…そろそろ休み時間終わるから、行こう。」
私と早見は踊り場を後にして、それぞれの教室に戻った。その時、廊下ですれ違った隣と目があった気がした。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる