歪み。歪ませ、元通り。

先々ノアル

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見えない形

あとのかたち

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自分がどうしたいかより、他人にどう思われているのかの方が、僕にとっては重要だ。だから自分の意見を押し通すこともなければ、恋愛なども自分から進んでしようとも思えなかった。何よりも前提に自分が傷つくのが嫌で、そして自分から交流するのを恐れている。

こんな意気地のない僕を、


声にも出さずに、心の内にしまい込んで、それでも密かに願い続けるしかなかった。







「なあ、早見はやみツカサと話したことあるか?」
「………は?なに急に」
「え!ちょっ!なんで不機嫌なんだよ…。だから、早見ツカサだよ!なんか最近お前と一緒にいるのを見たって聞いたから、意外でさあ。で、どうなんだよ!彼氏か?付き合ってんのか!?」

このうるさい男は飯島いいじまカヅキ。幼馴染みだ。

「あー、別にそんなんじゃないよ。身内が世話になってたからそれについて話してただけ。」
「…え、マジかよ。お前、身内って親父さんの?」
「ああ、まあね。…なんだよ。私は大丈夫だって何回も言った。頼むから、早見に直接話聞いたりしないでよ?」
「それは、分かってるけどよ。」

まだ聞きたいことがあるような顔をしていたが、それでも気にせず席を立つ。5分前にチャイムが鳴っていたからまだ時間はたくさんある。私は屋上前の踊り場に足を運んだ。そこにいた人物は壁から顔を出すとにっこりとして手招きした。

「ごめん早見。待った?」
「いや、全然全然。ここに来てもらってるだけで十分だし。」
「……。」

その卑屈なのをやめて欲しい、とは言えない。私には言える資格が無いのだった。

「えっとさ、今日聞きたかったのはあいつの事なんだけど。あれからなんかあった?」
「あいつって、となりミカド君?…あれ以来は一回も会ってないな。そういえば風波かざなみさんは、もともとミカド君のこと知ってたの?」
「うん。詳しいわけじゃ無いけど。悪目立ちしてるやつだから知ってたんだ。あいつ背が高いしガタイもいいから怖がられてるよ。」
「…そんな人に目をつけられたんだ。でもなんでだろう。よく分からないな。」

三日前。先週の金曜日。私と早見は踊り場でいつものように話をしていた。そんな関係性を知った誰かがたまに覗きに来る事はあったが、それでも深く追求して来る人はいなかった。でもその日は直接踊り場に来て話しかけて来る不思議な人物がいた。

「あのさ、お前らって付き合ってんの?」

困惑する早見を後ろにやって、私ははっきりと言った。

「付き合ってないよ。恋愛として好き同士なわけでも無い。」

私の顔をまじまじと見た後、彼は背を向けて「風波アイカと一緒にいても、なんにもならねえぞ。早見。」と、言って階段を降りていった。


「なんでかは私も分からないけど、あいつ、早見に用があった感じするんだよね。勘でしかないんだけどさ、危ない事とか起きそうで。」
「…うーん。例えばだけど、隣君が僕を殴ったりしたとしても、風波さんは気にしなくてもいいんだよ。そもそも今までの…その、謝罪とか、僕なんかの為に泣いてくれたりとか、すごくありがたいんだけど。僕は君に守ってもらうばかりじゃ申し訳ないし。」

早見はそういってから少し口を濁して、俯く。私には早見が言っていることが理解できない。なぜありがたいなんて言えるのだろう。

「気にしないで、守るなんてそんな大層な事できないかも知れないけど、何かあったら相談してね。…そろそろ休み時間終わるから、行こう。」


私と早見は踊り場を後にして、それぞれの教室に戻った。その時、廊下ですれ違った隣と目があった気がした。
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