ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
318 / 536
反撃編

2

しおりを挟む


今、なんて………?

父さんの顔が、嬉しそうに微笑んでいた。

「あぁ、充分〝足りた〟な。
そう思わないか月森?」

「そうですね。もう充分すぎるかと」

「クスッ、いやぁ大分予想はしていたんだがな。レイヤくんとヒデトくんにはやられた」

「T・Richardsonが出てくるのは流石に予想がつきませんでした。表情からして皆さんも同じのようですが」

「まさかのどんでん返しだ。ハハッ、実に面白い」

(ぇ、え?)

目の前で楽しそうに2人が喋ってるのを、呆然と見つめる。


「アキっ」


「っ、ハル……」


パタパタとハルが近づいてきて、俺の腕をキュッと握った。

(ぁ………)

握られたところから懐かしさがこみ上げてきて。

「ハ、ル……っ」

「っ、アキぃ……」

泣きそうな顔をしたハルに見つめられる。
多分、今俺も同じ顔をしてるんだと思う。

「「~~っ、」」

言わないといけないことがたくさんあるのに、どれも言葉にならなくて。


「小鳥遊社長」


そんな俺たちの後ろから、レイヤが声をあげた。

「〝足りた〟とは、どういう意味でしょうか」

「そうだね。
〝ハルとアキを守るに値する力があるかどうか〟といった意味かな」

「守るに、値する……?」

「あぁ、そうだ」

コツ コツ と父さんが俺たちに向かって静かに近づいてくる。

「既に知っているだろうが、私はもう随分と長いこと2人に辛く寂しい思いをさせてしまっている。
守る為には仕方のない事だと…この子たちは互いが互いを支え合っていけているから、私はもう一つの方を集中して支えようと、そう思っていた。

だが……」


コツンと、目の前で止まった。


「現状は一向に回復せず、それどころか悪化する一方。
龍ヶ崎を婚約者に選んだのは、そんな現状を打破する〝何か〟を外部からもたらしてくれるのではないかと思ったんだ。君のヨミ通り、私は君の父親と交わした短いあの会話を覚えているよ」

「やはり、そうだったんですね」

「あぁ。あんなに面白い人物に会ったのは久しぶりだったからな。忘れるわけがない。

ーーねぇ、ハル」


「は、はぃ」


「私の書斎や部屋を調べ尽くしているのは前々から知っていた。お前が皆んなをここまでまとめあげ、今日此処へ来る計画を立てたのか?」

「そう…です。でも、みんなもたくさん、手伝ってくれました」

「クスッ、そうか。 ーーねぇ、アキ」


「は、はぃ」


「お前が、レイヤくんやヒデトくんをここまで変えたのか?」

「俺が変えたのかどうかは、分かりません……
でも、いっぱいぶつかっていっぱい話をして、たくさん…同じ時間を一緒に過ごしました」

「うん、そうか。

ーーーー本当に、2人ともよく成長した」


「「ぇ?  ーーわっ、」」


ポンっと、頭に大きな何かが乗っかる。

驚いて見上げると……それは、父さんの手で。


「ーーーーこんなにもいい息子〝たち〟なんだ。

もういい加減、私たちの元から解放してあげたくてね。
その為に、君たちにはどれだけの力があるのかを見させてもらった」


ニコリと父さんがみんなを見ながら微笑んだ。


「2人を思う気持ちはよく伝わった。だが、感情論だけでは時として守れない場面も出てくる。
そんな時、力となるのは権力だ」

丸雛、矢野元、月森、龍ヶ崎、更にT・Richardsonまで加わった。

「龍ヶ崎までは予想していたのだが、2人を任せるにはもうひとつ何か大きなものが欲しいと思っていた。そして今、そこに申し分ない家が味方に付いている。これほどまでに完璧な事は無い。

私は、安心して息子たちを任せる事ができる」

「貴方が、アキたちと一緒にいるという選択肢は……」

「無いな。これまでもそうしてきたが、両者を苦しめる一方だ。残念ながら私までがそちら側に付いてしまうと、愛しい者がひとりになってしまうのでね。私はこちら側に残るよ」

「「っ、とお…さん……」」

「ハル、アキ。これまで辛く寂しいをさせてしまったな。今も、驚かせてしまった。 だがね? 私にも意地があるんだよ。

ーー大切な息子達を任せるんだ。生半可な気持ちでいられたら困る」


「「ーーーーっ!」」


〝大切なハルを任せるんだ。生半可な気持ちでいてくれたら困る〟
その言葉は、俺が1番はじめにレイヤに抱いていた思いと、全く一緒で。

(父さんも…こんな気持ちだったの……?)


「~~~~っ、」


思いが言葉にならなくて、声が出てこない。



「話そう、全てを」

「っ、いいんですか……?」

「あぁ、もう充分だ。この子たちの為にも、これからの未来の為にも……

〝今〟話すべき時が来たのだろう。 ーーアキ」

「は、はぃ」

「これまで隠していてごめんね。全てを話し終えたら、お前を正式に告知しよう」

「ーーっ! いい、の……?」

「あぁ、いい。
もうお前には私の他に守ってくれる存在がいるからな」

「~~~~っ、アキっ!」

「わっ、ハル…っ、ハ、ル……」

涙声のハルにガバッと抱きつかれて、俺もじんわりと視界が滲む。


「………さて、立ち話はなんだ。

とても長い話になるんだ。そこのソファーに座ってくれないか? 月森、皆んなにお茶をーー」





「ーーーーあら?

何を、しているのかしら?」




しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...