ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
360 / 536
未来へ編

5

しおりを挟む





「ご飯は食べたの?」

「あぁ、部屋でな」

「へぇー、会場で食べればいいのに」

「チッ、だりぃんだよいろいろ」

「親衛隊とか?」

にやけながら聞くと、チラリとこっちを見た佐古から、はぁぁ…とため息が漏れた。

「あいつらに聞いたのか」

「そう、面白すぎて笑えるんだけど」

「笑うんじゃねぇよ…こっちは困ってんだ……」

「寄るんじゃねぇ」と睨みつけても逆に「カッコいい…」と惚けられ、更に「もっとやってください!」と言われてしまう始末。

「全くもって意味がわからねぇだろうが」

(いやだからそれが面白いんだって)

思った通りの反応すぎて本当に笑える。

「作るの?」

「んなわけねぇだろ」

「だよなぁ」

いやまぁ佐古が親衛隊の子達に囲まれてるのを見るのも楽しそうだったけど、やっぱりそうですよね。はぁぁ……

「…おい、何残念がってんだよテメェは」

「あっ、バレた? いやぁ佐古の面白い構図が見れなくて残念だなぁって」

「っ、たくお前なぁ……」

「他人事だと思って…」と睨んでくる佐古にあははっと笑った。

(あーぁ、やっぱ)

佐古と話すのは、1番自然体で居られる気がする。
イロハやカズマたちと話すのも楽しいけど、佐古のはもっとこう…ゆったりと会話が進んでいくというか……そんな感じ。

自分として佐古の隣にいる事が、凄く心地いい。

(ってか、)


「この道って…」


「あぁ、そうだな」

こんなクリスマス真っ只中に森の中へ入ってくる奴なんかいないから、自分として普通に会話してるけど。

この道の先には、多分きっとーー









「ん。俺はここまでだ」

「ぇ、」

「後は真っ直ぐ行くだけだし、そこに誰がいるかももう分かんだろ」

「…クスクスッ、そうだな」

ここまで来れば、ある程度予想できる。

「佐古はこれからどうするんだ?」

「外に行く。明日休みだし別に良いだろ」

「へぇー会場には戻らないんだ、あーあー残念だなぁ」

「っ、だから戻るも何も俺は行ってねぇぞ」

「分かってるよ嘘嘘、嘘だって。
そうだ佐古、ちょっと屈んで?」

「……?」

少しだけ佐古が屈んでくれる。
その頭に、袋から取り出したものを思いっきり被せた。

「ぅわっ、てめ、何だっ」

「クスクスッ、取ってみなよ」

佐古が頭から取ったもの。
それは、手編み赤いニット帽だった。

(その毛糸の色を見つけた時から、佐古には帽子って決めてたんだよな)


「メリークリスマス、佐古。

俺さ、その色の髪のお前も好きだったよ」


別に使わなくてもいいし仕舞い込んでも全然いいからさ。
物入れの中からある日ひょっとこりそれが出てきた時、「あぁ、そう言えばこんな事があったなぁ」って少しでも俺たちのこと思い出してくれると…嬉しいな。

目を見開いた佐古が、クリャリと可笑しそうに笑った。

「そうかよ、ありがとうな」

「うん」

「おら、手ぇ出せ」

コロリと落ちてきた、小さくて可愛らしい箱。

「メリークリスマス、アキ。
じゃあ、俺は行く」

「ぁ、ありがとう!風邪ひかないようにな!!」


離れて行く背中がひらりと一度だけ手を振ってくれて

ニット帽を被った。











ガサリ…ガサリと凍っている草を踏みしめながら、目的の場所まで歩いて行く。

(もう、大体分かってる)

ってかそうじゃなかったら逆にびっくりする。
 
はやる気持ちに逆らえなくて、ダッと一気に走り抜けてその場所まで行くとーー


「っ! わぁ……!!」


そこには、これまで学園で見てきたモミの木とは比べ物にならないくらい大きなモミの木が立っていて。
キラリキラリと一斉に光り輝いて、いつもの噴水を照らしていた。

(す、ごい…綺麗………)

綺麗すぎて、言葉が出ない。


「クククッ、喜んでくれたか?」


「レイヤ……」


噴水の縁に座ってたレイヤが、ゆっくりと近づいて来た。

「メリークリスマス、アキ」

「っ、はははっ。メリークリスマス、レイヤ。
凄いねこれ…ちょっと大きすぎなんじゃない?」

ニヤリと面白そうに笑われて苦笑する。

「良いんだよこれくらいで。
実質お前初めてのクリスマスだしな。ツリーも大きいの見たことねぇって言ってたし。学園に植えられてるあのサイズで満足されちゃ困るんだよ」

「クスッ、何それ負けず嫌い?」

「ちげぇって」

頭に乗ってた雪を落としてくれながら、顔を覗きこまれる。


「ーーこれが、俺からお前へのプレゼントだ」


「ぇ、」


これが…この景色が……?

そう言えば、俺がハルだった時も夏休みに綺麗な花火をプレゼントしてくれたっけ。

(相変わらず、やる事でかいって)

……でも、凄く凄く嬉しい。


「近づいても、いい?」


「いくらでも」


頭に乗ってた手に優しく腕を取られて、一緒に歩いて行く。

「わぁ…飾りが全然違う」

学園のツリーとは全く違う種類の飾りがたくさん付いていて、それらが綺麗に光り輝いていた。

「本場から取り寄せたからな。海外産だ」

「かい…がい……」

凄すぎ、まじか。

様々な色がキラリと光りを灯して、沢山の飾りがそれを反射させてて。

(ねぇ、この飾り付けって全部レイヤがやったの?)

噴水も照らせるようにって光の配置とかも考えた?
1番上のお星様も、小さな小人も、天使の女の子も、全部全部レイヤが「これにしよう」って決めたの?

ーーまるで、あの日の花火の種類とか打ち上げる順番を考えた時のように。


話をもっと聞きたくて「ねぇ、レイヤ」と言おうと隣を見ると、その横顔は穏やかに笑いながらツリーを見上げていた。

その顔を、キラキラ光るイルミネーションが花火の時のように…明るく映していて……



(あぁ、今)




「ーーねぇ、レイヤ」




「?  何だ?」




「キスして」




今、この瞬間


どうしようもなく…貴方とキスがしたい。



(あの花火の時も、そうだった)

花火に照られた横顔があまりにも穏やかで、優しくて……
それくらい大切にハルの事を思ってくれているレイヤに、俺は恋をしたんだ。

今も、同じ。
同じだけど、ちょっと違う。

ツリーを見上げてるレイヤの顔は相変わらず穏やかで、優しくてカッコいい。


ーーそんなレイヤは、俺の事を想っている。


俺の事を考えながら、これを準備してくれていて。
それが、言葉にならないくらい…嬉しい。


横顔を見た瞬間、それらが溢れ出してぎゅぅぅっと胸がいっぱいになって…泣きそうになってしまって……

キュゥッとレイヤの服を掴み、必死に縋る。


「ね、レイヤ……っ」


お願い。
今じゃなきゃ、駄目なんです。


見上げた先、レイヤはビックリしたように目を見開いていて

それからフッと優しく微笑んだ。



「ーーあぁ、いいぜ」



温かくて大きな手に、俺の両頬が包まれて

ふわりと、優しい口付けが上から降ってくる。



それは本当に優しくて、大好きな大好きな温度で。



「……っ、ふ」




幸せすぎて、ポロリと涙がこぼれ落ちたーー





しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

処理中です...