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その、梔子の匂ひは
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しおりを挟む【side 和孝】
「よぉ和孝!今宵も行かぬか!?」
「よいぞ」
いつもの道すがら、連れにガッと肩を組まれる。
「ほぉぉなんじゃ和孝、初めはあんなに嫌がっておったのに。
さてはお前もはまったか?」
「冗談よせ。俺はお前と違って抱いてはおらん」
「ほぉ勿体無い…撫子は誠いい声で鳴くぞ?
女にはない艶やかさがある。梔子もそうであろう?」
「どうだか」
「一度抱いてみるといい。
その腕飾りの女も、一度の過ちくらい許してくれると思うぞ?」
「なっ、お前…!」
「はははっ、そう怒るな怒るな。じゃあまた後でな!」
どたどた去っていく後ろ姿を睨みつける。
もうずっと前…幼き日に交わした、あの約束。
(もし忘れておらぬのならば…きっと、相手も同じ物を付けているはず)
なにも知らなかった俺は、ただただ純粋にあの者のことを好いていて。
人買いに買われ逢えなくなる未来が来るなど、微塵も予測していなかった。
(人買いが売るとすれば…吉原か、その辺りのはずだ)
それから俺は必死にこの世のことを知って己を磨き、政に関われる位にまで上り詰めた。
そして夜な夜な吉原を歩き回っては、幼き日の面影だけを頼りに探す日々を送っていた。
(伊都……っ)
いつも、梔子の匂いがする線の細い者だった。
きっと大きくなればそれは美人になるであろう…そんな綺麗な顔で。
吉原の見世など、もうほぼ周りきったと言っても過言ではない。
それなのに伊都は見つからなくて。
『梔子の匂いは、お嫌いですか?』
「っ、」
最近通っている、男香を売るあの見世。
彼から伊都と同じ様に梔子の匂いがするからだろうか?
どうも梔子に心惹かれている自分がいる。
(彼奴の隣は、心地がいい…)
まるで昔を思い出すかのように……一体何故…?
「…まぁよい」
最期に梔子と逢ったのは、呑んだくれた道すがらに寄った格子越しだった。
ほろほろ涙を流す梔子は、本当に儚く…消えてしまいそうで。
(っ、今宵は泣いてないとよいが)
「和孝ー!!和孝!大変じゃ!!」
「……?」
何故か、再びどたどたと勢いよく連れが戻ってくる。
「どうした、なんぞあったか?」
「見世が…っ、吉原のあの見世が燃えておるらしい!!」
「なに……!?」
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